2.恐れるな【2】
不思議です。左手首の婚約の腕輪に触れた途端、私の中の不安が溶けていきます。ザワザワと鳥肌が立つ程の恐怖も、フワリと温かなものに包まれているようで消えていくのです。私は自然と前に視線を向ける事が出来ました。
「行くぞ。」
そんな私を見て、ヴォルが耳元で小さく告げました。
「はい。」
頷き返し、ヴォルと共に歩みます。が、実際は何処をどう歩いているのか分からない緊張の中にありました。先程とは違う緊張ですが。だって、お城ですよ?見たのも初めてなら、勿論入るのだって初めてなのです。広いです、床がピカピカですっ。
そのまま私はお城の一室に連れていかれました。周りにあるもの全て、高級品であるのが一目で分かる程の艶をしています。触るのが怖いです。ですがそんな私をよそに、周りを何人かの女性が取り囲みます。えぇっ?!どうなっているのですかっ?しかもヴォルがいないではないですかっ。
「あ、あのっ?!」
「身なりを整えて頂きます。このまま謁見など認められません。」
「あの…、ヴォルはっ?!」
「…ヴォルティ様は別の部屋でお召し替えをされています。」
淡々と返され、私は言葉をなくしてしまいました。何でしょうか。私の意思は…関係ないのですね。
そうしてあれよあれよと言う間に、お風呂から着替えまでされてしまいました。しかもドレス。恥ずかしすぎます。この歳になって、人にあれこれされるなんて…。
「メル。」
入り口のところで待つよう指示されて呆然と立っていると、着替え終わったらしいヴォルに声を掛けられました。…ぅわー、王子様ですかっ?いつも見慣れている冒険者の装いではなく、高級な白いフリルをあしらったようなツルツルした生地で出来たシャツと同じく白いパンツです。しかも、マントとかしてるではありませんか。全身が白一色のヴォルを見るのは初めてです。
そんな風に私が不躾な視線を送っていたのと同じ様に、ヴォルも私をジッと見ていたようです。不意に後ろから声を掛けられてしまいました。
「お二方とも、お互いに見つめ合いすぎです。謁見のお時間が迫っておりますので、お早めにお願い致します。」
「…分かった。行くぞ、メル。」
「えっ…あ、はい。」
ヴォルに手を取られ、アタフタしながら後ろを振り向きます。今声を掛けてくれたのは私の着替えを手伝ってくれた方の一人で、私の質問に淡々と答えてくれた侍女長と呼ばれている女性でした。少し年配なのでお母さんくらいかなと思いましたが、他の侍女さん達にキビキビと指示をしていて格好良かったです。私は後ろ向きでしたが、ペコリと頭を下げました。




