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「結婚しよう。」  作者: まひる
第二章
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10.これが不安、か【6】

「分かった。」


 本当に分かったのでしょうか。と思ったら、私の隣に腰掛けたヴォルです。だから、近いんですって。


「分かったが…。メルに触れるのはやめない。」


 そのまま抱き寄せられてしまいました。私、心臓が危険です。かなり慣れてきたものの、ヴォルのスキンシップは過剰だと思います。突然密接に触れ合う度、私の心臓は有り得ない程に鼓動を早めるのですから。一生の鼓動回数が決まっているのだとしたら、こんな私の人生は短そうです。


「で、でも…あの片眼鏡…さんが…。」


 名前を覚える気がなかったので、思わず心の声のままに呼んでしまいました。とりあえず、さんはつけましたが。それでもヴォルには、私が何を言いたいか分かったのでしょう。


「問題ない。ベンダーツには、メルに二度と触れさせない。」


 あぁ…これが普通なら、物凄く愛を感じる言葉なのでしょうね。ヴォルと私の間には、そんなものは存在しませんが。


「信じろ。」


 耳元で告げられる甘い響きの言葉に、私は何も考えられずに小さく頷きました。私、勘違いしそうです。これは私をセントラルに連れていく為に必要な…、方便なのですよ。嘘ではないのでしょうが、目的の為の手段。そうですね、勘違いしてはいけません。


「…お腹、空きました。」


 わざとらしくても良いです。このおかしな甘い雰囲気を吹き飛ばしたくて、私はヴォルに抱かれた腕の中から告げます。


「そうか。食堂に行こう。」


「はい。」


 すんなりと離れた温かさに僅かな寂しさを感じつつも、私はヴォルの後をついて部屋を出ました。…が、すぐに立ち止まります。どうしたので…、あぁ…。ヴォルの視線の先をたどり、原因に行き着きました。片眼鏡です。


 ヴォルが部屋を出た途端、あちらも廊下に顔を出したのでしょう。ピリピリとした空気が漂っています。一触即発…と言うのでしょうか。これ、怖いから嫌なのです。


「ヴォル…。」


 私は早急にこの場を去りたい為、ヴォルの服の裾を引っ張りました。勿論、すぐにヴォルが気付いて私の方を振り返ります。もう、早く行きましょう?目で訴えました。


「ヴォルティ様。」


 片眼鏡が声を掛けて来ましたが、ヴォルはそれに構わず私の肩を抱くようにしてすれ違います。私は思わず、そんな片眼鏡の顔を見てしまいました。ぅわー、怖すぎます!射殺せそうな視線を向けられても困るのですけどっ。


 船に乗っている間の食事は、食堂で取らざるを得ません。そうして部屋以外の場所全て、私は片眼鏡の冷たい視線を受け続ける事になったのでした。



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