10.これが不安、か【5】
「私は隣の部屋におります。節度をわきまえた距離感で宜しくお願い致します。では、失礼いたします。」
それだけ告げて、言葉と違う大きな態度のまま開け放っていた扉から静かに出ていきました。最後には扉を閉めては行きましたが。………な、何だったのでしょうか。茫然自失の私は、尻餅をついた状態で固まっていました。
「メル、大丈夫か。」
その声に気付いた時には既にヴォルに抱き上げられていて、私が反応する前にそのまま優しくベッドへ下ろされました。動きが速いですね。先程までベッドで横になっていませんでした?
「あ、ありがとうございます。」
「怪我はないか。痛くはないか。」
「あ、はい。お尻をうっただけなので…。」
「脱げ。」
「…はい?」
「確認する。」
「し、しなくて良いですっ!」
何と言うか、直球過ぎるのですが。だいたいが、分かって話していなさそうです。お、女の子にお尻を見せろだなんて…常識的に有り得ないのです!
「何故だ。」
「な…っ?!」
ここで何故かと問われるとは思いませんでした。ど、どう説明しろと言うのですか?私は経験値が低すぎて、こういった場合の対処法が分かりません。
「は………。」
「何だ。」
「恥ずかしい………です。」
それ以外に言葉を探せられませんでした。もしかしたらヴォルは純粋に心配をしてくれているのかもしれませんが、お医者様でもないのにそんな…普段隠しているような場所の肌を見せるだなんて…私的には無理なのです。そもそも、同性の友達にだってお尻は見せませんよ。
「…羞恥心。なるほど、そう言うものなのか。」
こ、この人…感覚が常人離れしているようです。人と触れ合っていないという事は、こういった弊害があるのですね。感情がないのではなく、自覚した経験がないという事なのでしょう。ヴォルが無表情なのは、もしかしたらそういった理由かもしれないです。
「はい、恥ずかしいです。…異性とこんなに近くで触れ合うのも…、ヴォルが初めてですし…。どうしたら良いか…、分かりません。」
ベッドに腰掛けた状態の私を覗き込むヴォルに、真っ赤になっているであろう顔をまともに見せられませんでした。
「…異性。男女の事か。なるほど、精霊にはない種別だ。」
私の動揺は伝わっていないのか、少しずれた事を呟いているヴォルです。と言うか、本当にヴォルの基準は精霊なのですね。人間的感覚が薄いのは人との触れ合いが薄いからなのだと、私の中で勝手に判断しましょう。




