お友達
森の中を歩いていくりりぃとうさぎ。りりぃは森にあるあらゆるものに興味がしんしんだ。
「ねぇうさぎさん、あれはなぁに?」
「あぁ、あれはねピリピリキノコだよ」
「わぁ!素敵!ねぇねぇ、じゃああれは?」
「あれはムラサキオドリコ草だね」
「へぇーっ。きれいな色だね!じゃあねぇ…」
「ねぇ」
うさぎは上目づかいにりりぃをちらりと見た。
「どうしたの?うさぎさん」
「君はさっきから聞いてばかりじゃないか。少しは君のことも教えてくれよ。お名前は?」
「私、りりぃだよ」
りりぃは満面の笑みで答えた。名前を聞かれたことが嬉しかったのだ。
「へぇ…りりぃか。りりぃねぇ。りりぃ♪りりぃ♪いい名前だ」
「あ、ありがとう。うさぎさんはお名前なんて言うの?」
「僕かい?僕のことはどうだっていいのになぁ。大切なのは君についてのすべてさ」
「えーっ!教えてよぉ。ぎぶあんどていくだよ!」
「むむ…そんな言葉よく知ってるね」
「お父さんが言ってた」
「ふぅん」
「それで?うさぎさんのお名前は?」
「……ロッド」
うさぎは、少し照れくさそうに言った。
「ろっど?」
「うん、そう」
「えへへ…ロッド♪ロッド♪」
「あー!真似したな!」
「うふふふ」
二人がそんなやりとりをしている間に、どうやら目的地についたようだ。そこは木に囲まれた広場のような場所で、柔らかな日差しが差し込む暖かい場所だった。
「さぁ、ここだよりりぃ。みんな、出ておいでー」
ロッドが森に向かって叫ぶと、四人のうさぎが次々と飛び出してきた。
「わぁ、ほんとに人間だ」
「やるなぁロッド」
「私たちついにやったのね」
「こ、怖いんだけど…」
うさぎたちはりりぃを取り囲むと口々に好き勝手なことを言った。
「あ、あの…えっと」
りりぃはいきなりのことにどうしていいかわからなくて、下を向いてしまった。
「おいおいみんな。興奮するのはわかるけどさ。りりぃが困ってるじゃないか」
ロッドの言葉にうさぎたちは顔を見合わせた。
「あぁ、ごめんごめん。君があんまりにかわいかったからさ。りりぃっていうんだね。名前までかわいい。僕はコロン。よろしくね」
そういうと、白い毛がまぶしいそのうさぎが、りりぃに手を差し出して握手を求めてきた。
「よろしくね、コロン」
りりぃはコロンと握手をした。コロンの手はしっかりとしていて暖かかった。りりぃはまた嬉しくなった。初めてかわいいと褒められて少し赤くなっていた。
「まったく、コロンはかっこつけだよな」
今度は黒いうさぎが口を開く。
「ふっ。僕はレディーの前では常に紳士なのさ」
「何が紳士だよ、お調子者め。俺はチャック。よろしくな、りりぃ」
チャックがまぶしい笑顔をりりぃに向ける。
「うふふ、よろしくね、チャック」
りりぃもチャックに負けないくらいの笑顔を見せた。
「さて、あとのお二人さんは…」
ロッドがちらっとピンクと水色のうさぎを見る。
「あたしはミミィよ。なんか名前が似てるわね。まぁ、あたしの方がかわいいけど」
ピンクのうさぎはすました顔でりりぃを見た。なぜかりりぃをライバル視しているようだ。
「ボ、ボクはゼボーン。りりぃ…よろしくね」
水色のうさぎは少しおびえたような表情をしている。りりぃのことを怖がっているのだろうか。
「まぁ、とりあえずこんなところさ。これから僕たちとりりぃは友達だ。改めて、よろしくりりぃ」
最後にロッドが締めくくると、うさぎたちは個性豊かな顔ぶれをりりぃの方に向け、いっせいに言った。
「ようこそ、りりぃ。カエラズの森へ」
「う、うんっ!みんなよろしくね!私のお友達!」
りりぃは本当に嬉しかった。やっと友達ができたのだ。人間じゃないけれど、初めてのお友達。これから待ち受けるすべてのことに胸を躍らせながら、空を見上げた。まだまだ一日は始まったばかりだ。今日はこれからお友達とどんなことをして遊ぼう。りりぃの頭の中は、楽しいことでいっぱいだった。これからりりぃの長い長い一日が始まる。