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彼女がタンクだった……別れたい  作者: 鴉野 兄貴
彼女がタンクだった……別れたい

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4/13

「ニコッ」「ポッ」……素敵抱いて

「うわ……ミンチだ。こりゃ」

「……」


 盗賊もなしに挑むからだ。ご愁傷様。


「※sea all THF」


 ……残り58名。塔の攻略が出来そうな高レベルは1人。アイツか。


「盗賊の人、どんどん減ってる」

「忍者でも一応罠の対応が可能だからな」


 成功率はレベル依存。

 盗賊の三分の一というなんとも頼りにならないものだがレベル150くらいある忍者ならば問題なく罠に対応できる。


「××さん大丈夫かな」

「あいつなら大丈夫」


 忍者になるのを拒み続けて355レベル。

 サーバー最強といわれるヤツだ。


 俺が期待するクリアへの有望株。

 アイツが死ねば皆死ぬ。

 孤高の一匹狼で、誰とも組まないが初心者には優しいやつで世話になった。



 ガンガンとつくなにぶつかる罠。毒矢。

 まさか運営も戦車……もといチハで自慢の罠や謎ときを踏み潰されるのは想定外だろうに。

「盗賊の人、残り一人だって」

「そうか」

 最後の連中はレベル一桁だった。殺されるか、罠の生贄になるかの二択だったのだろう。


 ぴたりと止まるつくな。どうした。

「装甲版にまた傷が」

「やっぱ所詮チハか」

 戦車だの装甲車といった存在は大型の魔物の攻撃なんて想定されていないだろうし。それでも次々と現れる強敵を機関銃で、57mm砲で、刀と弓で倒していくつくなと俺。

 その後ろを廃人どもがコソコソとついてくる姿は滑稽に尽きる。


「ところで、頭上の時計が消えないんだが」

「カウントは止まっているよ。ちいちゃん」


 なんだろう。不安だ。



 ----== SystemMessage ==----

 ○月○○日、○○時より、『神の塔』地上5階に達していない皆様のカウントを開始します。

 速やかに攻略してください。



「……ちーちゃん! 上にッ!?」

「ぁあっ?!?」


 馬をアイテムボックスに仕舞って即つくなの上に飛び乗る。

 間一髪。俺を狙って矢が、魔法が飛んでくる。


「あいつらぁあぁっっ!?」

「逃げよう」


 時速40キロ近くで疾走するつくなには完全武装の人間は追いつくことは出来ない。


「ここまで来れば大丈夫かなぁ」

「……ああ」


 くそったれの廃人どもめ。そういえばあの中で一番レベルが低いのはつくな以外は俺自身だった。


「……また、凄い勢いで人が減ってるよ」

「カウントが足りないからな」


 盗賊なしということは、誰かに犠牲になってもらうか、素人判断で延々と悩むかだ。

 俺の残り時間。あと10時間か。


「つくな。お前はカウントないのか」

「人間じゃないからかなぁ」



 たった十時間でまだ見ぬボスを討てるのか? 正直疑問だ。


「ちーちゃん!?」

「ん? !?」


 通路に黒い穴が開く。別に隠し通路ではなく、次元の穴だ。


「グレーターデーモン部屋だっ?」

 次元の隙間からいくらでも出現する厄介なバケモノを殲滅するか、全滅するかという罠である。

 多くのものは火力が足りずに抜けられずそのまま脱落する。しかし。

「落ち着け。一体一体はアークデーモンより弱い」

 数で押してくるけどな。

「取り付かれると終わりだ。落ち着いていくぞ」

「うん」


 デーモンどものパンチや魔法がつくなの装甲版を傷つける。

 圧倒的な猛攻を前に俺は後ろで震えているしか出来ない。つくなを盾にして。


 転機が訪れる。

 デーモンどもの魔法攻撃が止まった。

 つくなに取り付き、肉弾戦を挑んで破壊する作戦に切り替えたらしい。



 やっと俺の出番だ。つくなに取り付いたデーモンを一刀で斬り捨てる。


「つくなッ?」

「発射ッ!?」


 口開けて耳をふさぐ。

 至近距離から57mm砲が炸裂。


「新手がくるッ!?」

「ちーちゃん。背後任せた」


 背後からまた次元の穴が開く。咆哮をあげて出現しようとするデーモンを穴ごと俺のスキル『次元刀』で切り伏せる。

 さらに新手。今度はつくなの上部に装備された機関銃がなぎ倒す。



「パンパカパーーン♪ レベルアップしたよっ!?」

 なんともマヌケなシステム音声と共につくなはレベルアップ。古来より知られているデーモン養殖の効果は計り知れない。


「パンパカパーーン♪ レベルアップしたよっ!?」

「パンパカパーーン♪ レベルアップしたよっ!?」

「パンパカパーーン♪ レベルアップしたよっ!?」

(以下略)



「あまりレベル上げていると時間が足りなくなる。13もあれば充分だ」

「うん」


「あのね。ちいちゃん」

「うん。どうしたつくな」


 つくなの声はエンジン音でほとんど聴こえなかったが。


「護ってあげる」


 小さな一言だけはなぜか聞き取れた。



(※つくなの追憶)



「おい。ブス。さっさと来い」


 ちーちゃんが腕を引く。ブスは酷いなぁとは思うけど。

 私には友達はいない。いたかも? いたけどね。

 小学校まで仲良くしていた真琴ちゃんとしのぶちゃんが言うには「キモイ」らしい。


 気がついたらいっぱいいた友達はいなくなっていた。机とか、いたずらされていた。服に牛乳がかかった。



 ある日、しのぶちゃんと真琴ちゃんに呼び出されて行ってみると男子トイレに入れって言われた。

「男子トイレなんだけど。女子は入れないよ」

「いいから入れ。反抗するな。キモいんだよ」


 真琴ちゃんに小突かれて入ると、忍ちゃんと真琴ちゃんの彼氏がいて、ニヤニヤ笑っていた。

 ああ。そっか。


「……トイレは清潔に使え」


 始めは抵抗した。泣き叫んだ。やがて何もしなければ早く終わると解るようになっていた。

 だから抵抗なんて考えもしなかった。

 わたしが心を閉じようと思った時のことだった。

 大きな音が響いて、私はじぶんに戻ってきた。

 男の子がいる。頑固そうな顔立ちの同い年位の子。


 何が起きたのか判らないけど、真琴ちゃんの彼氏が便器に頭を突っ込んで気絶している。


「まぁ、おまえらはクソにも劣るがな」


 無愛想な態度を崩さない男の子。いつも教室の隅で本を呼んでいる子だ。


「な、なんだお前は」

「トイレの掃除当番だが」



「み、見張ってろって言っただろ忍ッ」

「うっさい! お前もキモいんだよッ」


 はぁ。ため息をつく男の子。


「汚物は排出」


 男の子はそういうと、口汚く罵り合う忍ちゃんと真琴ちゃん、忍ちゃんの彼氏を次々と窓から放り出した。

 体育の時間も体調が悪いって動かないのに男の子二人を窓から放り出す力があるなんて。

 強いんだ。それよりこのひと、こんな優しい笑い方出来るんだ。


「大丈夫かい」

「うん。ちょっと服破れたけど。それだけ」


 本当は恐かった。

 怖いから、怖いなんて心すら閉じようと思っていた。そのまま成すがままになっていても良かったのに。

 なぜだろう。助かったと解るとその気持ちが惜しくなる。これって一回優しくしてひどくする苛め方なのかな。


「当面、学校に来ないほうがいいぞ」


 鼻水を垂らして泣く私の肩を抱いて歩いてくれる。

 ああ。このひとはちがうって思っていいのかな。



「なんて名前だったっけ」

栗山智明くりやまちあき


 クラスメイトだけど、名前は知らない。

 目立たない子だし。

 教育委員会とか学校の先生とかマスコミとか向こうの親御さんに内容証明付きの手紙が来たらしい。もちろんうちにも。

 全ての騒動が終わり、学校をかえてから栗山君にお父さんとお礼に行ったら「なんのことだか忘れた」と彼は無愛想に言った。


「もう、いじめられんじゃねぇぞ」


 最後に言われた言葉が嬉しかった。ちなみに、お父さんは彼に叱られたらしい。


 勇気を振り絞って告白して、今に至るわけだけど。


 『司教になれ』


 学校も違うし、一緒に遊ぶ機会があまりないのでゲームであうことにした。

 最近のゲームはほとんど時間を使わずに遊べるらしい。初めて知ったけど。


「何故司教なの」

「強いし、鑑定も出来るからな」



 彼が教えてくれた。

 勇気って。怖いことなんだ。

 だから立ち向かえるんだ。

 失いたくない怖いことのため。


「やっぱ。騎士がいいなぁ」

「はぁ? ゴミジョブだろ」


 電話の声は呆れ声。


「いいか司教にしろよ。そうしないと遊んでやらんからなッ?!?」


 だって、司教って後ろで護ってもらうだけじゃん。強いのは嬉しいけど。

 ちーちゃんが私を護ってくれたみたいに、私もちーちゃんを護ってみたい。

 ちーちゃんは口が悪くて、友達もいないけど、私にとっては最高の『騎士』さんだもん。

 肩をならべて、護りあう。それって素敵だと思う。

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