うわっ?……運営の口臭。臭すぎ??!
「ちーちゃん。なんかシステムメッセきてたね」
「死ねってまた物騒だよなぁ」
というか、告知時間と体感時間にずれがあるのでいつまでに逃げればいいのかが判らん。一年間の生活が八時間の夢だったとかが結構余裕であるのがこのゲームだ。正直、プレイすると超疲れる。
キュラキュラ無限軌道を鳴らす九十七式中戦車と馬に乗った侍。変な組み合わせだと思うが随伴歩兵と戦車兵と思えばいい組み合わせかも知れない。
後ろからは廃人様方がまだまだ追っかけて来るっぽいのだが、数がかなり減っている。どうも、俺達についてこれなくなった連中が魔物に襲われてそのままお陀仏になったらしい。ざまぁ。
「『神の塔』、意外と遠いな」
「魔法でばぴゅーーん! ってやっちゃう?」
一度行ったことのないエリアには行けないからなぁ。俺自身はさておき、つくなは残されてしまう。
「ねね。装甲、黒く焼けちゃったんだけど」
つくなには回復魔法や薬は役に立たないらしい。
多分彼女の傷を直せると思しき『機工士』は魔法の代わりに各種機械類を扱える生産職。本来銃が装備できるらしいが、現時点では未実装のままという不遇職である。
「大人しくしてろよ。……『浄水』」
「わぁい」
水を綺麗にする魔法は応用力が高く、体内に侵入している毒以外ならば消毒に使えるし掃除洗濯なんでもござれ。アイテムとしても売っていて便利である。
「……二人で洗いっこ……」
微妙にエンジン音を荒げている戦車については無視していい。VRMMOの名前に恥じないほど、水の感触は気持ちよい。たっぷり呑んで、たっぷり水の香りを堪能する。
「……」
壊れるんじゃね? といいたいほど隣でエンジン音がするのだが。 たかがVRMMOのアバターに興奮しすぎだ。俺が水浴びしているくらいで興奮するな。
VRMMOの容姿なんて変な種族や個性的な容貌にしない限り皆美男美女になるのだから意味がない。
おかげで俺は現実世界でも美人に興味が沸かなくなってしまった。重症である。
「あ~~周囲に敵の気配なし」
水場だから特に注意しないとな。
「りょ、了解!?」
……壊れるんじゃね?
このブリキの巨大廃棄物。
「水場、ちょっと離れて安全そうなところでキャンプだな」
「う、うん。わかった。(*´Д`)」
そういえば。
「おまえ、戦車だったっけ」
「うん」
対戦車能力のない戦車など戦車とはいえないが、エンジンを切ったら内部で快適に寝れる気もしないではない。
「テント、俺持ってないんだが」
「……」
なぜか戦車は停止した。
「ち、ちーちゃんなら。いいよ」
……。
冷たい風が吹いた。おかしいな。まだ秋になってないのだが。
「よし、今日は強行軍だ」
「わ、私の中にちーちゃんが」
「もういい。それ以上喋ると十八禁だ」
戦車の中に入るだけだからなっ?! 誤解すんなよ運営さんっ?
「や、優しくしてね」
「いい加減にしろ!?」
しかし奴は聞く耳を持たない。チハだし。
「乱暴に入ってきちゃダメだよ」
「もういい。しゃべんな」
そんなところに忍び寄る影。
「あ~~。5時の方向に敵発見敵発見。距離300m!」「えっ?!?」
まさに天佑。
マジ有能なタゲそらし。
自棄になったつくなの57mm砲(分間14連発)と機関銃の攻撃で灰燼と貸す食人鬼や岩鬼に俺は心底同情した。
お前らの犠牲は忘れない(敬礼)!
翌朝。
「ちーちゃん。頭の上に変な時計ついてるよ」
つくなに起こされて目が覚めた。
正直鏡がないのでわからん。
「『水鏡』」
本来、敵の視界をふさぐ術に所属するのだが、鏡の代わりにもなる。鏡に映った俺の頭上には謎のタイマーが。
「ホントだ。なんじゃコレ」
「システムメッセをみたら変なこと書いてるよ」
----== SystemMessage ==----
○月○○日、○○時より、特別イベントを開催します。
皆さんの頭上に『死の宣告』状態が表示されるようになりました。『神の塔』にいない皆さんにはゲーム内時間で24時間の猶予が与えられます。
速やかに『神の塔』攻略イベントに参加するようにお願いします。
また、移動手段を持たない皆様への救済措置として、他プレイヤーーをPKすれば24時間追加となります。
皆様、奮ってイベントに参加願います。
頭上を見ると凄い勢いで『◎◎ワールドサーバー:ログイン数』が減っていく。
「これって。大虐殺?」
「っぽいね……」
生産職や盗賊は純粋な戦闘職に敵わないからな。
「しかし。『神の塔』の罠とか、生産職や盗賊抜きでどうする気なんだ。考えなしの皆様は」
「さぁ」
怖気がする。さすがの俺も100レベルの忍者などに勝てる気がしない。
「えらいことになってきたな」
「うん……」
全裸の変態の手刀で首を跳ねられて脱落とか、絶対に嫌な死に方だ。
俺が忍者どもの恐ろしさに震撼しているとつくながとぼけた質問をしてきた。
「あれって、装備品でなければ別に服着てても良いんだよね」
「全裸がスティタスらしいぞ」
あいつらには関わりたくない。スキル「オトコプター」で空すら飛べるし。
そんな空には流石に忍者の姿はなく、蒼い蒼い光のに照らされた真っ白な雲。それを貫く異形の塔。
「あ~~。あれが『神の塔』? 綺麗な塔だね」
死地だけどな。確かにつくなの言うとおりこのゲーム最大最強のダンジョン『神の塔』の威容はピーテル・ブリューゲルの絵画を思わせる壮大なものだ。
ちなみに、内部には普通に河川があったりするし、戦車でも問題なく最上階を目指せるほど広い。
無限軌道の走破力を舐めてはいけない。
町や村も普通に内部にある『神の塔』だが、罠も極悪。毎日変わるさまざまな謎解きのほか、前はホームポイントに転送で強制ログアウト程度だったそれが致死性の極悪な罠になっているだろうし、そうでなくとも最強クラスの魔物に護られている。
「あ~~。やっぱり」
盗賊もいない。迫害の末タンク役もいない。
バックアップを行う生産職もいない。
そんな状態で挑めるほど『神の塔』は甘くない。
なんせ攻略に成功したプレイヤーーには専用パッチを与えると運営が公言しているほどの難易度を誇るのだ。その最奥をみたヤツは限られている。
「……みんな、死んでる」
戦車が恐怖しているかどうかはわからない。俺にわかるのはつくなのエンジン音くらいだ。
「死んでいるというか、ミンチだな」
阿呆どもの末路にはふさわしい。
「死体、どけないと」
つくなが通れない。
彼女は死体を踏んで進める性格じゃない。
「ね。ちーちゃん。弔ってやれないの」
「土のある場所までは三階層まで行かないといけない。俺たちは脇にのけて、冥福を祈ってやるしか出来ない」
俺達はつくなを前面に出しておけば、大抵の罠は踏み潰せるが、他の連中はちがうしな。
「ひっ?!?」
巨大岩。こういうのがくるとつくなでもヤバイが。
「『原子分解』」
魔法使い魔法を使いこなせる高レベル侍を舐めてはいけない。
「いくぞ。つくな」
「うん……」
俺達は後ろにコソコソついてくる臆病どもを尻目に塔の攻略を開始した。




