彼氏がコスプレマニアだった。死にたい
残暑がまだ残る秋の陽光頬に受け縁側で居眠り。
正直、まだ暑い。かなり汗ばんで不愉快だったり。
くるくる首を回す扇風機の風が時々俺に当たる。
「ちーちゃん。そんなところで寝てると暑いよ」
誰かが縁側に座る。
「ね。ちーちゃん」
俺の頬をつつくヤツがいる。
しかし意地でも起きてやらん。
俺の快適な眠りを妨げるヤツは「ふふふ」と笑い出した。
うとうととまどろみに身を任せる俺に歩み寄る、白いワンピース。
パンツ見えるぞ。つくな。
「起きているでしょ~~。起きているでしょ~~」
起きてない。寝かせろ。
「パンツ、覗いているでしょ~~」
覗いてない。今日は白のレースだな。
俺の頭が持ち上げられ、柔らかい膝の上に乗せられる。額を撫でる感触。柔らかな風。ああ。『あっち』もいいけど。『こっちの世界は』。いい。
甘い吐息が俺の髪を揺らす。
「起きないと、キスしちゃうぞ」
それは、ノーーカウントで頼む。
唇を襲う柔らかい感触。思わず口元が緩む。
がつん。
「いっ……てぇ?!」
「うふふ(⋈◍>◡<◍)。✧♡ しちゃった! しちゃった! やっほーー!」
後頭部を押さえてのたうつ俺を尻目に、奇声を発してはしゃぐつくなの声。
一方、縁側の冷たい感触に身をゆだねつつ激痛に苦しむ俺。……コイツ、やっぱりアホの子かも。
あいててて。
俺は家宅侵入してきたおばかな彼女に問いかける。
「人の家でなにやってるんだよ」
「テスト勉強。教えてくれる約束」
そういってニコリと悪びれも無く言ってのけるヤツの唇は薄いピンク色に濡れている。
悪戯心が起きる。
俺は彼女の肩を掴み。
自分から唇を重ねた。
ぽとりと彼女の手から九七式中戦車(※チハ)のねんどろいどストラップが落ちた。
(「彼女がタンクだった……別れたい」おしまい)
私の彼氏はちょっと凄い。身長は172センチくらいしかないけどモデルさんのように顔が小さくて綺麗な顔立ち。ちょっとポーっとしているけど、頭もよくて成績はいつも上位。その上バスケのレギュラー。なんで私なんかと付き合っているの? ってよく友達には言われちゃっている。
発端は聖地こと同人誌即売会でのこと。某枢機軸国家の軍服コスプレをした私たちはWW2限定の歴史系BL本を売っていた。
「意外と順調だねぇ」
この子は潤子。山の上のお嬢様学校に通う。私の同志である。
「やっぱり、ルーデル様総受けが正義ね!」
激しく同意しあう私たち。
遺族様御免なさい。BLの道は修羅と宿業の道。外れることなどできやしない。
そうやって盛り上がる私たちにものすごい美人の女の子が声をかけてきた。
彼女の周囲は遠慮を知らないカメラもちが写真を何枚も撮っている。
ほっそりとした体つきに綺麗で長い繊細な手足。
その身を包むは人気RPGシリーズの女性キャラクター『サンダーボルト』嬢のコスプレ。
「あれ? 君は木下さんじゃ」
「わ、私、何処かで貴女とお会いしましたか」
「うん。オレオレ。加藤隼人」
ぺろんと長髪のかつらをとる彼。
私のコスプレを見て声をかけてきたのは、学校の女子みんなの憧れの青年だった。正直、ショックで死にたいと思ったのはここではおいておく。
これがきっかけで私の腐女子を隠すためコスプレ仲間としての付き合いが始まり今に至る。
そして。
「遅い」
イライラ。キャラクタークリエイトのカスタマイズにどれだけ時間がかかっているのよ。
どうせ彼のことだから、憧れの『サンダーボルト』に似せた女性キャラにするつもりなんだろうけど。
『いや、もうキャラできてるよ木下~~!』
唐突に彼の遠隔通信(※テル)が入った。
「だったら、ここにいていいはずでしょ」
声はするのに姿は見えず。不可解だ。
変な銀色の鳥が周囲を旋回している。へんなの。
『いや、このゲーム初プレイだから操作に慣れなくて』
「普通に歩けば歩けるし、コマンドを発動で達人の動きもできるようになるわ」
『なかなか巧く飛べないんだ』
飛ぶ?!!!
銀色の翼が、こちらに突っ込んでくる。
思わず頭を引っ込めた私の上を超高速で飛び去る銀色の影。ヴァーチャルリアリティ化された私の髪が完全に乱れて視界を覆い隠すが、私は確実に去り行く『ソレ』の姿を確認していた。
「そっちはA-10サンダーボルトじゃないのっっ?!」
間違ってもゲームキャラではない。ルーデル神様の魂宿る無敵の爆撃機。A-10サンダーボルト。
その銀の翼ははるか遠くで手を振るように揺れていた。
To Be Continued……?




