もうやめてっ! つくなのライフはゼロよっ!!
九七式車載重機関銃
正式名称九七式車載重機関銃
全長114.5cm
銃身長70.0cm
重量12.4kg
口径7.7mm
使用弾種九二式(九七式)普通実包
銃口初速735m/秒
最大射程3420m
有效射程540m
装弾数20発(弾倉)
製造国大日本帝国
製造名古屋工廠
製造数約18000挺
九七式車載重機関銃とは、日本陸軍(以下陸軍という)の制式車載重機関銃である。1937年(昭和12年、皇紀2597年)に採用されて以来、陸軍の戦車、装甲車に搭載された。
(※ウィキペディア日本語版より転載)
「『遊ぼう』ぜ。栗山ァァッッ!?」
巨大な龍が笑う。レベルは356。
対する俺はレベル42。つくなが限界を超えて20。
震えが止まらない。足が動かない。勝てるわけがない。勝てるわけがない。
「どうしたぁ? モップの一撃で俺を伸した勇者様ァ!?」
巨大な腕がうご……速い。
ダメだ。かわせない。
『轟!!』
つくなの57㎜砲の音。
「ポンコツめ」
蜻蛉が『笑う』。
振り下ろされた龍の短い腕が俺の鼻先で停止。
「ちーちゃんに。……ちーちゃんに」
ボロボロの九七式中戦車が俺と巨龍の間に割り込んだ。
「ちーちゃんにさわんなああああッ!!?」
砲塔に本来後ろ向きについている7mm機銃が巨龍に吼える。
「ちーちゃん。耳塞いで、口開けてっ!?」
つくなの指示に従いコソコソと彼女の後ろに隠れる俺。
「くたばれェええええ!?」
轟音と共に放たれる57㎜砲。
弾数無限のチーートチハの真価発揮である。
しかし。
「惜しかったな。356レベルのドラゴンは第二次世界大戦期のブリキの玩具には負けない」
蜻蛉は嘯き火を噴いた。
「熱っつっ!!?」
凄まじい炎が俺を。
俺の前を塞ぐつくなに降りかかる。
咄嗟に『霧雨』で俺たちを包む水のバリヤーを張ったがまさに糠に釘。
見る見る赤熱していくつくな。
しかし、彼女は射撃をやめない。
何度も何度も砲を放ち、機銃を撃つ。
「無駄だと言っている」
龍の足がつくなの上に振り落とされる。なんとか下がるつくな。危うく轢き殺されそうになるのを避ける俺。
「プッ」
唾棄。
だがドラゴンの唾棄は強烈な酸を持つ。
あらゆる毒から護る霧雨の防護すら貫き、ウォーターカッターに比類する強烈な圧力をもってその追加装甲を切り裂いていく。
「負けるもんかッ!! 負けるもんかッ!?」
普段の温厚な彼女とうわはらに信じられない闘志をもって巨龍に挑むつくな。
何度も何度も砲を放ち、試製四式車載重機関銃を放つ。
しかしその攻撃は巨龍の鱗にはことごとく弾かれていく。
身を乗り出し、彼女を援護しようとするが。
「ごおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
ぐああああああああああああああッ??
心臓麻痺を起こすという『咆哮』。辛うじて即死は避けたものの鼓膜を破かれ、方向感覚を狂わされ、混沌の意識の元でのたうつ俺。
「やめろ。つくな」
もういい。
鼓膜が破れた俺の頭蓋に機関銃と57㎜砲の振動。
龍の爪が易々と彼女の無限軌道を切り裂き、装甲板をひしゃげさせる。
「やめてくれ。つくな。もう充分だ。がんばった」
『よく言うだろ。リア充。爆発しろって』
蜻蛉のテルが届いた。
つくなの声が聴こえない。彼女の声が聞きたい。
あのバカな言葉を。暢気な笑い声を。場をわきまえないはしゃぎっぷりを。
無限軌道を破壊され、動く事もままならぬ九七式中戦車はそれでも尚、迫り来る龍に固定砲台としてひたすら弾を撃つ。
真っ赤に燃える世界の中、赤い亡霊のように。
龍の尻尾の一撃をくらい、横転したつくなはそれでも砲塔を龍に向けようとする。
必死で止めようとする俺の目の前で龍の爪が彼女を切り裂き、砕き、鉄くずにしていく。
果たして、龍の炎が噴出された。
『護ってあげる』
つくなの声が聴こえた気がした。
炎のなか、子供たちの笑う声が聴こえる。
彼らを抱き上げる、軍服姿の老人や青年たちが見えた。硝煙の中、穴だらけになり、血かそれともオイルかわからぬものにまみれそれでも空しく壊れた車輪を走らせる九七式中戦車たち。
「負ける。ワケには。いかないんだ!?」
『護ってあげる』『護ってやる』『護らなければ。ならないんだ』)
赤く燃える世界の中。俺を炎から護り続ける赤熱した戦車の幻影。
俺の恋人。俺の大事な彼女。
つくなは狂ったように砲をうちながら、キラキラとした光と共に……消えた。
鳥肌が立つ。
怖い? ……違う。
―― 富を欲するもの ――
「次は貴様だ。栗山」
巨龍は俺に歩を進める。
―― 夢を追う者 ――
つくな。
―― 知識を追う者 ――
つくな。
―― 絶望に抗うもの ――
掌に残るかすかな火傷。
『運命を変えんと欲するものよ』
荒木、いや新木のくれた回復のスクロールを握り締める。
『我に挑め』
俺の身体が光に包まれる。
『我の問う謎に答えよ。我の許に来い』
光は俺の身体を癒し、力となって包み込んでいく。
『欲するものが全てある』
霧雨を一気に抜き放つ。
『なぜか? 答えを教えよう』
地響きを伴い、俺の眼前まで迫った龍の爪が吹っ飛んでいく。
「こここそが『神の塔』だからだ」
居合いによって手首から先を消失させた龍を俺は睨んだ。『霧雨』は消えたはずの『風鳴』の風を受け、水と風のしぶきとなって俺を包んでいく。
「これは一体なんだ」
「知るか」
風と水のしずくは俺を護る翼となるとともに刃となって蜻蛉に襲い掛かる。
銀色に輝く霧雨の中、俺は駆け抜ける。両手で突き。
「お、俺の鱗を砕いただと」
そのまま2mの刀身をぶん回す。
地面を、空を、敵の鱗を。
易々と高圧の水と風に護られた『霧雨』が切り裂いていく。
真っ赤な炎が俺を包む。
俺は『霧雨』を目の前にかざした。炎を『霧雨』によって裂き、更に高水圧の刃を放って龍を切り裂く。
「バカな。ポンコツの57mm砲が通じぬ私の鱗を」
「つくなは。九七式中戦車。チハは……。
……ポンコツじゃねぇ!!」
日本がポツダム宣言を受託したその日も、彼らは戦い抜いた。日本人が戦争を忘れようとしていた日も日本の為に占守島で赤き帝国を迎え撃った。
それが九七式中戦車。通称チハだ。
「つくなに搭載されている機関銃は、弾数が少ない反面、精密でね」
つくなの撃った場所を狙って、剣を振るう。
「『ココを狙え』って、わかるんだよ」
空気をゆがめて迫る巨龍の尾をかわし、『霧雨』を構える。いや、もう『霧雨』ではない。
「バカな。たとえ『霧雨』でも俺の鱗は」
俺の剣。その刀身は周囲の水を、霧を、風を、『願い』を吸収し、凝縮してよくあるサイズの刀の長さになっていく。
妖気と清涼を同時に孕んだ、不思議な剣へと。
「『村様』!? それはデータ上にしかないはずだ」
「らしいな。ハゲ」
龍の炎を防ぎ、爪をかわし、咆哮を止める。
「いくぞ」
「来い。栗山ッ!!」
爪を、炎をかわし、剣を何度も打ち込む。つくなの狙った場所を的確に。
そして狙う。龍の最大の弱点。
喉もとの『逆鱗』を。




