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彼女がタンクだった……別れたい  作者: 鴉野 兄貴
愛に生き、愛に死ぬ。それが孤高のファンタジスタ

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10/13

ガイアが俺にもっと輝けと囁いている

「うわあああああああああああっっ!?」


 指を砕かれても壁につかまっていられるのは漫画の主人公だけだろう。俺は遥か下界に墜ちていく。


「つくなあアアアあああ」


 クソッタレえええッッッッ!!

 涙は出ない。恐ろしい暴風に吹き飛ばされてだろうか。悔やむべくはつくなのことだけ。

 クソッタレどもの願いなんて知るか。


「!?」


 落ちていく。

 その視界が広がる。

 そらに俺がとどまる。

 風が止まる。

 俺の意識が拡張されていく。


 太陽の光が世界を照らしていく。

 海が輝いて。街が輝いて。

 大地が、森が、川が、眼下の雲がキラキラと。


 まだ。死ねない。


 アイツが泣いているんだ。

 泥に、血にまみれて。



「銘刀『風鳴かざな』よっ!?」


 銘刀風鳴。その力は風を操ること。


 最強武器にも色々ある。

 風鳴は何処にでもある、「ユニ●ロ武器」と揶揄されるコスパのいいだけの武器。

 イベントや『神の塔』ドロップ品とは明らかに違う武器。金で買える程度のつまらない武器。ネットゲームでよくあるその程度の武器だ。

 だが、この剣には公式情報にてある伝説が付随している。俺は叫ぶ。俺は願う。この世界の神に。腐れた運営の設定した神なんてどうでもいいが、それでも願う。神に善意も悪意もないことを。


「『伝える者 (メッセンジャー)

 魔王・ディーヌスレイトよッ」


『そよ風に人々の思いを乗せて伝えるだけ』


 魔王にしてはちゃちでささやかな力しか持たないこの世界の神が俺の剣。『風鳴』を自らうったという伝説。

 魔王・ディーヌスレイトはその想いを風に乗せ、星々に届け、運命すら変えるといわれる。


「風よッ 俺を推し戻せッ」


 まだ、まだ死ねないんだッ!!



 俺の願いが通じたか。

 俺が求める風の強さに耐え切れず、俺たちが一緒に買った『風鳴かざな』は砕け散った。

 わるい。つくな。借金は後で倍返しするから。


 暴風が俺を押し上げる。

 輝く天が、地が、人々の夢と希望が見えた。


 ――……希望を求める者よ 汝の願い…… ――


 誰かの声が聴こえたが。気のせいだろう。

 ゆっくりと舞いおりた俺に。


 俺の希望の。寝ぼけた声が聴こえた。


「あれ。ちーちゃん……みんなは」

「さぁな」

 どうでも。いいことだから。

 俺はそういって、錆と血と泥の味のする車体にゆっくり唇を合わせた。

 いろいろあった。泣きたいことも辛いこともあった。悔しいことも呪いたくなることもあった。


 だからこそ。

 いいよな。これくらい。


 青々とした空を塗り替えていく白い光。

 どこか遠くから潮騒の香りがした。



「♪ ♪ ♪」


 機関銃座と砲塔がグルグルグルグル回るポンコツを冷たい目で見ながら周囲を見回す俺。


「キスされちゃった~~!

 キスされちゃった~~~~!?」


 顔が熱い。マジで黙れ。これはVR空間だ。つまり俺たちはまだキスしていない。

 これは幻影だ。幻影だ!

 未カウントだ! カウントに入ってないからなッ!

 いかん。そんなことより。


「特別パッチがあるなら、『みなの解放』を頼む」


 幾多の犠牲を超えて百階に到達した。D'sの意思を無駄にするわけにはいかない。

 白い光が夜闇を駆逐し、蒼い空が広がっていく。

 反応が無い。


 おかしい。

「……おい。運営。聴こえているだろ」

 頬に当たる風の感触が生々しい。


「キスされちゃった~~!

 キスされちゃった~~!!

 ちーちゃんにキスされちゃった~~!」



「キスされちゃった~~! 嬉しいッ! 嬉しいよッ! もう死んでも良いかもッ! ちーちゃんだ~~いすきっ!」


 一方、俺たちを無視してクルクルクルクル砲塔を回していた挙句、ついに動かなくなったつくな。戦車チハの癖に目を回すな。


 ……なぜ、返答がない。

 何故ログアウトできないのだ。


「おいっ! 俺たちプレイヤーーの全開放を願うッ! それが俺の願いだッ!?」


 ----== SystemMessage ==----

 あなたたちのパーティの総意ではないようです。

 パーティメンバーーによりその提案は却下されました。


 戦車の癖に目を回しているアホウを見る。まさか。


「つくながこの世界を望んでいる?

 思えばブスブスといって一回も可愛いとか言ってやっていない。参ったねぇ……」

 そういって頭を掻いてみせる。

「VR世界では容姿だけなら自分でいくらでもカスタマイズできる。でもな」

 しかし。つくなは自らの容姿に逃げはしない。



「悪いけど、つくなはそういうヤツじゃないんだ。つまり」


 ----== SystemMessage ==----

 ふふふ。


「そういえば、何故か俺たちと同じエリア、同じ階層にいたよな。あんた」


 ----== SystemMessage ==----

 wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


「何のつもりだい? 『ファントム』蜻蛉カゲロウさん」

「おや、完全に気配を消していたはずなのに」

 すっと姿を現す若い男。

 長身でしなやかな身体。

 そして虎のような強靭さを忍ばせる動き。


「なかなかの余興だったよ。智明君」


 パチパチと手を叩くのはサーバー最高・最強の『盗賊』。××こと蜻蛉。



「アンタ、運営だったのか」

「微妙に違う」


 蜻蛉は笑った。


「不思議だったんだ。なぜ五人以上のメンバーが集まらないのか」


 俺は刀を蜻蛉さんに向ける。


「前に助けてもらってからアンタがずっとパーティメンバーに入っていた。ずっとバグか何かと思っていたけれどね」


 蜻蛉はニコリと微笑み、『あの』短剣を弄ぶ。

 盗賊がレベルを保持したまま忍者になることが出来る短剣。盗賊最強の武器・『トリプルダガー』。

「まぁ、余興のうちだ」

 そうつぶやいた蜻蛉は盗賊全ての憧れであると同時に彼のアイデンティティとまで言われた剣を。


 握りつぶした。


「……!?」

「ふふふ」


 蜻蛉が笑う。

 あ、あんた。ナニをしているんだ。



「どうでもいいのだよ。智明君」

「あんなに、皆に親切にしてくれて、皆に慕われて」


 どんなバケモノ相手にも後ずさりしなかった俺が。膝が震える。言葉が出ない。声が震える。


「そうだね」


「俺は、アンタに一番期待していたんだ」

「僕もだ。そしてその願いは半ば適ったよ♪」


「蜻蛉。皆にログアウトをさせろ」

「いやだ♪」


 それにねぇ。智明君。蜻蛉は泣き笑いをみせた。


「僕が『神の塔』をクリアしていないって思ってたの」

「な。……ん。だ……と」

 そんなばかな。

「とおの昔に、僕は願いを使っているんだよ♪」

「ばかな。一人で」


「楽しかったよ~~。最高の謎解き、デストラップの数々。仕掛けにモンスター」


 そしてこの指輪を貰ったんだ♪

 そういって彼は輝く指輪を俺に見せた。

 シンプルだがどこか不安になるデザイン。



「『変化の指輪』。レベルはそのままで如何なるジョブにも魔物にもなれる♪ 意味はわかるね」


 そんなものがあるならば、『トリプルダガー』はただの強力な武器でしかない。


「お金もカンスト。24時間フルタイムで皆を助けるヒーロー♪ 僕は望むものを皆持っている」


 でもねぇ。蜻蛉は笑った。


「知ってるかい。VR空間は脳死患者のリハビリ用に作られ、実際に成果を上げていると」


 どきん。


「多くは『異世界に転生した』とか思っちゃうみたいだよ♪ 楽しいよね」


 いや、まさか。やめろ。


「僕は脳死患者って言われているけど、ちょっと違う」


 蜻蛉は笑う。


「バカな女がいてねぇ。当時の僕もバカだったから、ちょっとブスでマヌケな女を甚振るだけの楽しい仕事をしようとしてさ」



 まさか。てめぇは。


「未成年なのにム所行きになっちゃってさぁ!?」


 てめえは。まさか。


「ム所では、婦女暴行犯ってメッチャクチャバカにされるんだよな。

 でもってアイツラ、飢えてやがるからなぁ!?」


 貴様は。


「気がついたら記憶をうしなってこの世界に囚われていたよ。

 奴らに気付かれぬよう理想的な人間を振舞い続け、逆にこの世界を乗っ取るのに苦労した」


「俺の望みはな。栗山!?」


 蜻蛉。いや、名前も言いたくない最低野郎は笑った。


「女の身体でも、金でも名声でも物でもない」


 蜻蛉の指輪が光り、ヤツの身体が膨張していく。


「なぜなら、俺は全てを手に入れた」

 べきべきとヤツの身体が砕け、骨が変形し、肉が飛び散り、内部から鱗が出る。



「『こい』の語源って『う』らしいよ。栗山。

 つまり、すべてを手に入れたら、後は一つだよね」


 もはや人間の姿をとどめていない蜻蛉。


「『無』だ。俺の望みは『無になること』なんだよ。

 だけど、僕は自分で自分を殺す度胸はないんでねぇ」


 俺はヤツの巨体に震えつつ、勇気を振り絞って刀に手を伸ばした。


「さぁ。はじめようか。栗山。昔のように。……一緒に遊ぼうぜ。……なぁ智明!」


 巨大な龍と化した蜻蛉は赤く舌を出す炎を舐めながら確かに『微笑んだ』。

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