えっ! 俺の彼女……ランク低すぎ
よくあるだろう?
VRMMOでデスゲームってヤツさ。
ラノベでは定番だよな。
アレ、身体とかどうなっているのだろうとか、マッドな運営は訴えられているだろうなだの、妄想がSFジャンル荒らすんじゃねぇボケとか言うだろ。
で、不遇職を選んだ主人公が無双とかが定番中の定番。……俺? まさか。最強職の『サムライ』を選んだよ。当然だろ。
因みに『サムライ』は極めればすべての魔法使い系魔法を使いこなせるし、刀系最強武器も使える。リーーチのある槍や弓も使えるから対人でも強い。
ゆえにサムライか司教を選ばないヤツは莫迦だと思う。
因みに司教は鑑定能力を持つ魔法使いと僧侶のハイブリット職だ。設定が某ゲームだってか。
仕方ないだろ。伝統だと思ってくれ。
でだ。
司教にしろ。司教にしろと煩く教えたにも関わらず初心者的な間違いを犯した莫迦がいた。
困ったことに俺の彼女だったりする。
リア充だって? よしてくれ。
ブッ細工だけど、向こうから告白してきたから嫌々ひきうけてやっただけだしな。
そう。今俺たちを囲んでいる珍妙な状況。
それもSFとは到底言い難いアホ臭い設定。
『VRMMOでデスゲーム』
こんな状況は莫迦でありふれたものなので多くは語らない。重要なのはうちの彼女が『タンク職』なんざ選んだって事だ。
ヤツは『騎士』を選びやがった。
死ね。前線に出て死ね。
「ログアウトできない! !?」
ああ。地獄だ。阿鼻叫喚の地獄だ。
というか、運営は何を考えているのか? 間違いなく告訴である。
五感フルダイブVRMMOシステム。
こんな危険なものがタダで配られ一般化したほうが変だが今となっては運営の掌の上にいたのだろう。
「おーーい。九十七~~!?」
馬鹿馬鹿しいので引きこもっていよう。それが無難である。
なんでも無謀な莫迦どもは『神の塔』に挑んでゲームクリアを目指すそうだが、俺達には関係のないこと。
「!!?」「!?!」
なんか揉めているわ。しらねぇけど大変だな。
「タンクがいないんだ」「騎士の人、いませんか」
嫌な予感がする。
『騎士』
それは最強の防御力を持つ鎧を唯一その身に纏え、馬に乗ることができ、長ずれば僧侶系の魔法をすべて使えるという上位職。初期ボーナスステータス次第では最初から選ぶことも出来るというのが運営の用意した売り文句だ。
実態は装備代がアホほどかかり、馬や騎士剣、ランスなどの専用装備もまた莫迦にならない価格。
その上、ハッキリ言って弱い。不遇職である。
当然、このゲームがデスゲーム状態になるまでは最も少ない職だったが、度重なる迫害に耐えかねてほとんどの騎士は退会していた。当然である。
「盾お願いします。忍者さんいませんか」
「この際戦士でもいいよ」
「もうこの際ナイトでもいいや」
忍者ならいるんだが。……何故忍者が盾役なのかと問われても困る。運営も想定外だったらしいし。忍者とは装備代がかからず、錬金術系の独自魔法が使えてしかも盗賊の真似事までこなせるというチート職だが最初からなれるわけではない。
忍者になるためには特殊なアイテムを必要とする。限られたヤツしか成れていないし、そいつらときたら性格が最低すぎる。戦士も盾役が出来る設定だが効率が悪い。戦士が盾出来るなら侍もできる。やらないけど。分身の術の触媒一つで攻撃をすべて無効に出来る忍者にレベル上げでは完敗である。やるならアタッカーだろJK。(※じょーしき的に考えて)
「騎士なら私が」
あ~~。
このウザい声には聞き覚えが。
何をやっているお前は?!
何を言っているんだお前は?!
「おい。つくな!
ここでしゃべるな。黙っておけ」
「でもちいちゃん。騎士としてここは」
だから、黙っていろ。あいつらがほしいのはお前じゃない。前線で矢面に晒され、勇者であるあいつらを引き立ててくれる脇役でしかないのだから。
「いるのか!」「助かった?」「これでかつる!?」
くそったれ。つくなの阿呆。
「おいつくな! フケっぞ!!?」
「なんで? 困ってる人は助けないと」
ナニボケている。
困っているって言ってもこいつらは自業自得だろ。
俺もそうだが優遇職と言われたプレイヤーしかいないこの状況はなんだ。
生産職? ナニソレ?
盗賊? 何処にいるの?
盾? ハハハご冗談を。
こんなアホどもを護るために前線に出て、敵の矢面につくなを晒す。莫迦な話だ。
「と、いうわけで逃げる」
「うん……」
しかし、疑問がある。
「おい。つくな。お前何処にいるんだ」
「さっきからちいちゃんの隣にいるじゃん」
はい?
おそるおそる。
俺は近くにあったこのゲームの世界観とはまったく違うブリキのゴミの山を見る。
それが何か認識する前に俺の本能が蹴りを放つ。
ガッシ! ボカッ! スイーツ(笑)
「いたいよう。ちいちゃん」
「お前はタンクじゃなくて、チハやないかっ!!」
その名は九七式中戦車。戦前の大日本帝国が作ったブリキで出来た粗大ゴミであった。
―― 九七式中戦車 チハ(きゅうななしきちゅうせんしゃ )は、第二次世界大戦時の日本軍の戦車。八九式中戦車の後継中戦車として1930年代後半に開発・採用された。開発は三菱重工業。
1939年(昭和14年)のノモンハン事件で初陣を飾った。
(ウィキペディア日本語版より抜粋) ――
「それ、チハやっ! タンクちゃう!?」
そもそもチハは中戦車と名前がついているが戦車というより(以下略)。
「ぐ~~。 ぐ~~」
「戦車が寝るなッ?! !?」
戦車談義中に寝やがったつくなにおもっくそ蹴りを入れる俺。
「あ~~ん。ちいちゃんが蹴った~~」
「いいか。要するに、戦車と戦えない戦車は戦車とは言わんッ! 判ったか!」
アホな会話をしている俺達の周囲では「タンクは何処だっ」「騎士は何処だッ」とか廃人さまたちが勝手気ままなことを抜かしている。
俺はつくなにささやく。
「と、とりあえず黙っておけ」
「……うん。目を閉じて待てばいいのね」
ごごご。砲塔が俺のほうに。
すわ発射と思いきや微動だにしないつくな。
……。
「……」
これってもしや。
「戦車に目があるかッ」
飛び蹴りを入れる俺。泣くつくな。
「あ~~ん! キス! キスしてくれないと死んでやる~~!」
ああ。もう。厄介なブスだぜ。どうしてこんなヤツを彼女にしちまったのやら。
「とりあえず、この場を離れ……」
俺は気がつかなかった。周囲の連中の熱い視線に。
「戦車だ!?」「戦車が喋ってる!?」
口々に、呆然とした声があちこちから漏れている。
「いえ、これは戦車じゃねぇっす。チハには対戦車能力ねえから」
「でも、戦車なんだろ」
「……まぁ、そうっすが」
一応、戦車といえば戦車ともいえなくはないが。
実際には(以下略)。
「では、『神の塔』攻略に向かおう。皆の者っ! 続けっ!!?」
「おーー!?」
廃人様の無責任な煽りに、クソバカでかいだけのブリキのオモチャは能天気に応えた。
先ほどまで意気消沈していた莫迦どもや廃人どももテンションフルマックスになった。
いやいやいや?! ちょっとまった??!
俺はいきたくない。いかねえからなって乗せるんじゃねぇつくなどこに連れて行くやめ
『彼女がタンクだった……別れたい』