第十五話:竜術と遅めの昼飯
またすっかり時間が空いてしまいました。申し訳ないです。
1か月ごとや早い人だと1週間ごとに投稿している方もいるのに…。
どうにかしたいなぁ……。
色々と相談した結果、仕方なく燃鼬にもう一度火を使ってもらってその様子をよく見て学びましょうという事になった。
『分かりやすいようにゆっくり使ってやるから目ん玉 かっ開いて見とるんじゃぞ。全くこんな事では何時までたっても元の毛色に戻れんじゃないか!』
ブツブツ文句を言いつつもやってくれる燃鼬に二竜は顔を見合わせて小さく笑う。始めるぞと言う燃鼬に慌てて二竜が居住まいを正して真剣な表情で頷く。
それを確認し、燃鼬が身体に力を込めるような姿勢になる。すると少しして燃鼬の周りに紅い何かがまとわりつく。それはまるで炎が揺めくが如く燃鼬の身体の表面を流動していたが、ゆっくり燃鼬の口元に集まり始めた。十分集まった所で燃鼬は軽く口を開けて集まったその紅い何かを吸い込み、すかさずヘリオスの捕った魚に向かって…
ゴオォォォ
燃鼬が吐き出した炎は魚に向かい、魚だけを焼く。火が消えると良い具合に焼けた魚が現れた。
『おぉ。なんか…何て言うか…凄ぇ……。』
『背筋がぞくぞくしたけど嫌じゃない感じ。ちょっとわくわくしてきたよ、僕♪』
『ふむ。やはり竜じゃな。本能的に感じ取ったか、上々上々。あとはアレを自分でやれるように励むが良い。それでヘリオスが捕ってワシが焼いたこの魚どうするんじゃ?』
先程の能力の使い方を見て興奮している二竜を余所に、香ばしい香りを立ち上らせている焼き魚を燃鼬は涎を垂らさんばかりに見詰めながら聞く。
『じゃあヘリオスと燃鼬で食えよ。俺は自分で捕って自分で焼いてみるぜ!』
そう胸をはって宣言するガイル。
『ほっほっほ、では有り難く頂くかの。にしても今のところ成果無しなのにそんな事言って良いのか?後で食えば良かったと駄々をこねても出てこんぞ?』
なんだと!今に見てろ!と捨て台詞を放ってまた狩りを始めるガイル。心配そうにガイルの背中を見ているヘリオスに燃鼬が
『まぁ取れんかったら一匹だけは焼いてやるから大丈夫じゃよ。』
と耳打ちする。ヘリオスは最初目をぱちくりさせていたが、すぐ合点がいった様子で頷く。そして、一竜と一匹で焼きたての魚にかぶり付く。塩気がないので少々淡白な味だが、脂の乗った魚に夢中になって頬張るヘリオス。その様子にそんなに慌てんでも…と呆れながらチビチビ食べる燃鼬。
ところが、再度焼き魚にかぶり付いたヘリオスがいきなり凍り付く。原因は、悪寒が走る食感。ぐちゃりと明らかに焼かれた魚の食感ではない、むしろ生に近いそれに冷や汗さえ流し始めたヘリオスに燃鼬が不思議そうに尋ねる。
『どうしたんじゃ?ん?あぁ、内臓に到達したか。どうじゃ?なかなかいけるじゃろ!内臓だけ火を通さないように焼くのは至難の技なのじゃぞ。やはり内臓は生でないと上手くないからの〜♪』
楽しそうに話す燃鼬に内心ガックリと肩を落とすヘリオス。
(確かに普通、動物が人間みたいに魚の内臓を取る事はないだろうし、生で食べるのが当たり前だから感覚が違うのはしょうがない…けど、だからってなんでせっかく焼いたのに内臓だけ生なのさ……)
しかも食感は精神的に嫌いな部類なのに、噛めば噛むほど味覚は上手いと感じてしまい、咀嚼するのを止められない。吐き出してしまうと不振がられるというのも理由の1つだがもったいないと思ってしまう方が強いのだ。
結局、燃鼬と半々(しかもヘリオスは腹側)で平らげてしまい、精神的にちょっと凹んで突っ伏すヘリオス。そこに
『おっひゃー!ほうひゃく、ふははへへひゃっはへ!ごうば、べんぐう!』
(訳:おっしゃー!ようやく、捕まえてやったぜ!どうだ、燃鼬!)
やっとこさ捕らえた魚を高々と掲げて見せるガイルだが、口に咥えられた魚はそのまま丸飲み出来そうなサイズだ。
『ぶぁはっはっはぁ!あれだけやって狩れたのはそんなちっこい魚か!ひぃひっひっひ…。』
それを見てすっかり笑い転げる燃鼬。必死に狩った魚を笑われてガイルの堪忍袋の緒が切れたようでギリリと歯を噛み締めてしまう。当然、口に咥えられた魚は鋭い歯とかけられた力で…
ブツン
『!!?』
魚はギリギリ頭と尻尾の先だけ口の外に出ていた為に胴体と泣き別れを果たしてしまい、ガイルの口の中には魚の血とその匂いで充満する。ヘリオスと同じく、不快感と旨味に刺激される食欲との嵐にしばらく固まって堪えていたが、結局食べる事を選んだようだ。凄く複雑そうな顔で咀嚼しゴクリと飲み下す。げんなりした表情で燃鼬を睨むと、不思議そうに
『なんじゃ?美味くなかったのか?そんなちっこいと味もわからんか?
ほれほれ、いつまでもわしを睨んでないでさっさと次取らんか、次!こんな事では日が暮れてしまうぞ。今日中にせめて竜術を使う所までやってしまった方が良い。
特にガイルの竜術はな。大概の獣類は火を怖れて近寄らんし、夜中天敵に見付からんなら良いが、見付かってしまった時はその火の明かりと熱で驚かせば、慣れている獣も逃げ出す事があるくらいじゃからのぅ。』
と説教をされたガイルの頭に怒りマークの幻影が見える様な気がして、また言い争いになりそうだなぁと思ったヘリオスが早々にそれを納める為にぼそりと呟く。
『とか言って自分が力使わないようにしたいだけだったりして?』
『それもある!』
『堂々と宣言してんじゃねぇ!!』
ヘリオスが、大体ガイルが最後のつっこみ役になるとそれ以上燃鼬が口を出さなくなる事がなんとなくわかってきた今日この頃。というより燃鼬は、ただガイルをからかっているだけだから本気の喧嘩にする気はないのだろう。困った獣だ…。
その後、時間を置いた事でどうにか頭の上の大量の縦線を振り払って、復活を果たしたヘリオスとガイルが再度狩りに精を出す。
結果、ヘリオスが大きさ20cm強を3尾、20cm未満1尾。ガイルが20cm強を1尾、20cm未満2尾狩ることに成功した。そして、
『ゴアァァァ!』
『声を出してどうするんじゃ…。真面目にやっとるのか?』
『う、うるせぇ!しょうがねぇだろ!?』
当然、始まるのは竜術の練習である。自分で取った魚を、ガイルは焼き、ヘリオスは恐らく水属性の適性がありそうなので鱗のヌメり取り。
(なんか僕の凄く地味…。でも内臓や血を洗い流したりしたら不信がられるよね…はぁ。)
二竜とも必死に燃鼬の真似をして竜術を使おうとするのだが、なかなか上手くいかない。
ガイルはやけくそで息を吐いたり叫んでいるくらいだ。一方のヘリオスはと言えば、何をどうすれば水が出るのかいまいちわからない。ガイルや燃鼬の火のように口から出した水では色々問題があるし、かと言って川の水で魚を洗ったって竜術の練習にはならないし…と悩みながらも色々と試している。
しかし、しばらくそんな二竜を見ていた燃鼬が溜め息をついた。それに気付いてガイルはなんだよと言わんばかりに睨み、ヘリオスはちょっとショボくれる。
『お前さんらはわしの手本を見てどんなだったか思い出せんのか?形から入るのも良いが、根本が出来ておらねばいくらやっても上手くいくまいて。』
『うぐぅ……』
『ん…と……。…!!』
『ほぅ…』
ヘリオスが、燃鼬に言われた事を反芻している内に少しづつ身体の周りに水色の何かを纏っていた。
『え…あの………』
『これ、落ち着かないか。それをどこか一ヶ所に固めてみぃ。』
『は、はい!』
燃鼬に言われた通りにしようと若干寄り目になりながらも力を集中させる。すると、その何かは徐々にヘリオスの目の前に集まっていく。
『十分集まった所で…そうじゃな、ヘリオスなら水のイメージを強く込めるのじゃ』
『はい!』
ヘリオスはじぃっと集まった何かを見詰めていると…
ピチャン チョロチョロロロ〜
『え…あ…出…来た…?』
水色の何かを消費するように、同量分の水が出現し小さな小さな水たまりが出来ていく。
『ふぇ〜。凄ぇじゃん。えっと…こんな感じ……か………?』
ガイルもヘリオスと同じようにしてみるが、やはりただ叫び声が出るだけ。そこにヘリオスがガイルの肩を叩き、耳元が何か話し始めるとガイルは一瞬キョトンとした後頷いて、集中すると少しづつ赤い何かを纏い始める。
『うそ!本当に出来ちまった!』
『良かった、上手くいって。』
『ほぅ、ヘリオスほど上手くはないが出来たな。そうしたらガイルは口元に力を集めよ。十分集まったら深く息を吸い、火のイメージを浮かべて長く息を吐く。さすれば竜術の完成じゃ♪』
『お、おう!』
『あと…そうじゃな。川に入って上流か下流に向かって竜術を使え。制御は後々教えねばならんが、今は後回しじゃからな。火事になってはたまらん。』
『わ、わかった。』
ちょっと複雑そうに耳をへたらせたが、気を取り直して川の真ん中に顔を出している石に飛び移り川下を向く。
そして、燃鼬に言われた通りに息を吸い、それに伴い口元に集めた赤い何かが吸い込まれ、グッと食い縛った歯を剥き出して、そのまま口を開けて…
ボゥ ポポポポ ポフン
小さな灯火のような火が口から吐き出され、その後を追うように大きめの火花が続き、最後に白い煙が立ち昇る。
『は?あ、は、はは、は、ははは…』
『あっえと、ちゃんと火出たよ!やったね?僕もさ、水、ドバーとか出なかったし、最初はこんな感じなんだよ。ね?ね?』
燃鼬が見せてくれた火には到底及ばないそれに、また馬鹿にされるんだろうとピクピク顔を引き攣らせ壊れたように笑っているガイル。そして、その展開が予想出来てしまったヘリオスは必死でフォローするが、あまり効果が見られずオロオロしている。
『ふむ…』
『笑いたきゃ笑えよ…』
『まぁまぁ落ち着いて。』
不機嫌に憎まれ口を叩くガイルにヘリオスが抑え役に回る。
しかし、燃鼬はニ竜の予想を外れて感心して少し嬉しそうに話し始めた。
『ふふ、なにを言うか。
よく咄嗟に制御したもんじゃ。
ガイル、先程お前さんが集めた力はそのまま力任せに出せば恐らく確実に火事になる危険があったのじゃぞ。
だからこそ川に入らせたのじゃ。万一、そうなっても被害が少なくなるようにな。
だが、結果はどうじゃ!無意識か意識的にかお前さんは力を抑え、あそこまで小さなものとして発現させおった。たいしたもんじゃて♪』
そんな物言いにガイルは言葉の意味を飲み込むのに時間がかかっているらしくキョトンとしている。一方のヘリオスは、まるで自分が褒められたかのように喜んでいる。
『え?どゆこと?』
『なんじゃ。まだ理解出来んか?褒めとるんじゃぞ?
わしは自分で使うているからようわかっとるが、赤き力は暴発させる事は容易く、小さく制御する事の方が難しいのじゃ。
そのうえ、小さくし過ぎれば発現しない。お前さんは、それを初めての訓練でやってのけたんじゃ。誇っても良い!』
と絶賛されて流石にガイルも顔を赤くして照れる。
それからニ竜はそれぞれの竜術に励みつつ、魚の下拵えをしていく。少し日が傾いて来た頃には、全部の魚が竜術の練習に使われた。
何故だかヘリオスが物凄く脱力していたが…。
『ふぐぅ……』
『お〜い大丈夫か〜?』
『ふむ、そんなに疲れたか?』
『だって〜…』
実の所ガイルは、ただの二、三回で焼き加減を覚えパッパと魚を焼いていた。同じく、ヘリオスだってある程度の制御はすぐに覚えたのだが、強い水流を魚にぶっかけるだけではヌメりは取れず、結局チョロチョロ水を出しながらせっせと前肢で魚を擦り、ヌメり取りしていたのだ。
集中が切れれば集めた力は霞みのように消え去り水は止まる、集中し過ぎれば手が止まってヌメり取りにならないというジレンマの中、かなりの時間をかけてようやく全ての魚の下拵えを終えたのだ。疲れるのも無理はない。
ヘリオスが回復するまでにガイルはヘリオスがヌメりを取った魚に火を通していく。そして、焼き終えた頃にはヘリオスも復活し、ニ竜と一匹で焼き魚を堪能した。
『あぁ〜美味しかった。』
『もう食えねぇ、食い過ぎたぜ…』
『食える時に目一杯食う、そうでなければ生き残れんぞ。時には追い回されて食事を摂る暇さえなくなる時もあるんじゃからな。』
『『………それ自分の事だろ(でしょ)…。』』
『もちろん!』
胸を張って言う燃鼬に溜め息をつくニ竜。
燃『そうそう魚のヌメり取りはな、魚の体とヌメりの間に水を滑り込ませるとすぐ出来るはずじゃぞ?』
へ『えっ!?それ先に言って欲しかったよ!?』
ガ『燃鼬、そういうの多いよな…。』
パシャパシャ
ヘ『む、難しい…。ほんとに取れるのこれ?』
燃『うむ。ただの思い付きじゃからどうなるかわからんの~』
ヘ&ガ『『うぉい!!』』