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素敵な神様

作者: 多之 良世

江梨花(えりか)、彼氏はまだできないのか?」

「何度目?その質問」

 私は丸っこい顔の親父にそっけない返事をした。そもそも親父、高級感漂うフランス料理を前にして、そんな下世話な質問しないでよ。てゆーか、あんたが男には近づくなって散々言うから、今でも男の人とまともに喋れないんだよ。あ、親父、あんたは例外ね。

「ハハ、お前は言いたいことがすぐ顔に出るぞ。確かに昔は厳しく言ったかもしれんが、今は分別できる歳になっただろう?もう二十歳、自分の選択に責任を持つ頃だぞ」

 親父はとあるIT企業の社長。中年太りの似合う50歳の男だ。20代後半で仲間たちとともに独立、独自のサービス・画期的なシステムの開発などで起業から数年で急激に業績を上げて、今や妙なあだ名もつけられて、成功者として頻繁にTV番組に取り上げられるようになった。

「じゃあ一人暮らしさせてよ」

「そりゃいかん」

「自分の選択に責任ぐらいもつから。迷惑かけないから。…ね、いいでしょ?」

「駄目だ」

 このオッサン急に目を合わせなくなったんだけど。そりゃ心配なのはわかるけどさ、過保護すぎて嫌なんだよね。一人暮らしの友達を見てると、あの解放感、自由感は魅力的すぎる。

「大体あれだ。母さんが許さないぞ」

「母ちゃんはそういうとこ緩いじゃん」

「じゃあアレだ。お前は家事できないじゃないか」

「う…」

 悔しいがそれは確かにある。生まれついての不器用さで、高校生になっても包丁を握らせてもらえなかった。機械にも弱い。そんなウィークポイントを突かれるのは辛い。ついついいつもの癖で自慢の金髪のロングヘアーの毛先をいじっていた。

「やっぱそういうのって、一人暮らししていくなかで上達するもんだよね。というか、むしろ上達した姿を見せたくて、みたいな?」

「うーん…」

 必死に頭を捻って絞り出した言い訳に、親父苦戦。そうか。先人たちもかような言い訳で丸めこみ、自由の権利を勝ち取っていたのでしょうな。なんだか賢くなった気分。私はテーブルに頬杖をつけかけて、あわてて止めた。さすがにこんな格調高い店でこれはまずいか。

「しょうがないか」

 この一言のお礼に歓喜の舞でも披露したかったのだが、場所が場所。代わりにワインを一気に飲み干した。柔らかく包み込むような芳醇な香り。口いっぱいに広がる覚えたてのアルコールの味。あからさまに寂しそうな親父。ああ、とうとう一人暮らしできるんだ!



 一人暮らしをして二ヶ月。正直、しんどい。自由というものは実は大変な作業の上にあるもので、とてもじゃないけど私に自由は掴めそうになかった。なんか詩が書けそうな気分。でも、親父はやっぱり相変わらずで、仕送りの額が半端じゃない。そこそこ豪華な生活をしてもまだまだ有り余るほどだ。金で自由を買えたらどれほど幸せだろうか。


 …グダグダと愚痴っててもしょうがない。そんなこと以上に、相変わらず男への苦手意識が消えない事の方が一大事だ。あの親父から離れて一人暮らしをすれば、男女問わず家に呼びやすくなって、そのうちに男の人とホーム、まさにアウェイではなくホームの雰囲気で話せるようになるのではないか、なんて目論見があった。だが現実はドSだ。結局アウェイだろうがホームだろうが関係ない。親父との会話並みに砕けた会話が全くできない。これはお前には彼氏ができないよっていう神様のお告げなのかも。神様ってひどい。






 …あれ?ここどこ?ちゃんと家で寝たはずなのに。お酒は飲んでないし…。家具どころか何もないんだけど。それに一面真っ白。雪景色並みに真っ白。どうなってんの?

「お主の夢、叶えてやろうか?」

 うおっ、びっくりさせないでよ。後ろから声掛けるなんてマナーが…ってあんた誰?

「いわゆる神じゃな」

 え、待って、声に出してないよ。もしてかして心読めちゃったりすんの?スゲー。無駄に白髭蓄えてるわけじゃないんだね。

「確かに私は心を読むことはできる。しかし、お主に関しては顔を見ればわかる」

 …そんなに私の顔って正直なんだ。ってそんなこと関心してる場合じゃない。一体神様が何をしてくれるわけ?

「お主の願いでも叶えてやろうかと思ってな」

 マジ?この前ひどいとか言ってごめんなさい。うわーどうしよう?とりあえずお礼の舞でも…

「お主は彼氏が欲しかったのではなかったのか?」

 あっ、そういえば。というか、彼氏以前に、男の人と普通に喋れるようになりたいんだけどね。

「彼氏がいれば、話し方も自然と身に着くじゃろう」

 なんか身に覚えのある方法で説得されたけど…、確かにそうだよね。うん。よし、神様がせっかくプレゼントしてくれるんだから、有難く受け取ってあげましょう!




 うーん…。変な夢を見たなぁ。それにはっきりと夢を覚えてる。これも夢なのかな。カーテンを開けると、私に降り注ぐ太陽の光。暖かい。…これは夢じゃない。って、まだ朝の6時じゃん。まだまだ寝れたのにな。

 それにしても、夢に出てきたアレはホントに神様だったのかな?私に彼氏をプレゼントする、なんて。って早朝からピンポンピンポン、チャイムがうるさいんだけど。こんな寝起きの時に来られても…ってもしかして…。まさに夢見る少女のような気分で私はドアへと駆けより、鍵を開け、彼氏候補を迎えた。そこには、顔も知らないモデル級のイケメンがニコニコとした笑顔で立っていた。

「いきなりだけどさ、付き合ってくれない?」

 …いきなりすぎる。ちょっと待って。確かに期待はしてたけど、マジで?リアルに?いや、ドッキリ?あーそうか。まーたサークル仲間で芝居を打ってるわけね。伏線もなしにこんなイケメンの人から告られる展開なんてありえないもの。

「いいですよ」

 もういいや。騙されるだけ騙されよう。たった5文字ですら舌回ってなかったけど、気にしない気にしない。

「家入ってもいい?」

「え?え、うん」

 あ、もしかしたらこれ危ないかも。下品だけど、まさか体目的とか…。なんでOKしたんだ、私の本能め。こんなとこ親父がみたら叫び狂うだろうなぁ。男の人が部屋へと入っていく一方で、私は廊下に他に誰かいないか確認。誰か居てほしいような、居てほしくないような。…誰も居ないじゃん。これは若干怖いかも。とりあえず、ドアを閉めて、彼の元へと向かう。



 なんてことはないじゃん。この人、すごい良い人。私がしゃべりにくそうにしてると、優しく微笑んでくれる。でも、余計にちゃんとしゃべらないと、って硬くなって、何やってんだか私。それに気が利いて、お茶も出してくれた。私がしないといけないのに。しゃべるのも面白いし、ほんとに私なんかと付き合ってよかったの?ちょっともったいなさすぎない?


 ホントに楽しい時間を過ごして…、あれ…なんか眠くなってきた。この人だと安心感があるのかな?それとも早起きの疲れかも。あ、お昼ごはん作っておいてくれるの?そういえばあれからずっとしゃべってたもんね…。…じゃあ…悪いけど…おやすみ…。






 私は夢の中で、笑顔の神様に再び会った。ありがとう。本当にありがとう。今度こそ踊ってあげるよ?

「これは、双方ともの願いじゃったからな。よかったよかった」

 え?あの人も彼女が欲しかったの?

「いやぁ、彼の場合はちょっと違うんじゃ」

 ふーん。じゃあどういう願いだったの?

「彼は幼いころからの夢があってのう」

 へー、どんなのどんなの?

「若い女性をめちゃくちゃに切り刻みたいんだそうじゃ。そしてその人肉を食べたいそうでな。なかなか相手が見つからなかったんじゃが、ちょうどお主を見つけてな。これでお互いの願いも叶って、ハッピーエンドじゃな」

 え…。











おわり

またもや悪趣味なオチです。グロが好きなわけではないんですけどね。

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