アルスの暮らし
「おぎゃあ、おぎゃあ」
人間として生まれてきたと分かり、女神が約束を果たしたんだなと思った。
目の前に母親と父親らしき人がのぞき込んでいた。
父親らしき人が、
「かわいいな。俺たちの子供なんだ。」
と言いこちらを見ている。母親らしき人が、同調するように、
「元気に愛されて育って欲しいわ。」
と笑顔でこちらを見ていた。父親が俺を抱きかかえながら言った。
「名前はアルスにしよう。」
元気よく産声を上げて応えた。
それから数日。
俺はどういった生活をしているのか、寝たまま周りを観察することにした。
父親は村長をしている。シュルトウォルテインという貧しい村だが、下働きのメイドも
いて、料理は父親が作っている。他の家事は分担していて、父親は、母親の尻に敷かれて
いるようだ。
「自立した子になってもらうため子供にもさせないといけないからな」
なんて話している。
これは育つ上で見本となる大人が居るなと感じた。
歯も揃い、字をいくつか読めるようになったころ、この国の世界観がわかり始めた。
この世界は、俺のいた元の世界のギリシャ神話と北欧神話と同じようなところがある。
それは、もともと神々の手によって男神フレイという神がこの世界を造った。
他の神の指示もあって、国を作って王も置いたが、フレイも暴力と破壊を行い、人間を
裏であやつり、人間同士の戦争や争いも絶えなかった。神権によって世界を作り、神力を
人間の祈りによって高めたが、体の一部を捧げるなどの儀式を行っていた。その儀式は、
フレイが楽しむために行っていて、傲慢と形容された。国は荒れ、国民に貧富の差が出来
た。
その上、この世界の領地をすべて神のものにした。政治もフレイ一人で決めていた。
神話では、剣と加護を失ってフレイは殺されるが、こちらでは聖剣を失い、病死すると
いうふうになっていた。
妹のフレイヤは宣下を下し、男神フレイはそういう運命だったとされて、こっちの神話と
同じフレイヤがフレイと名乗り、この世界の統治を始めた。
男神フレイは、男社会の権力で物事を進めていたので男尊女卑の文化もあり、必ずしも
国民から歓迎されていたわけではなかった。その死を国民は悼んだが、男神フレイの統治
によって、虐げられていたと感じていたものもいた。
女性の社会進出なども王都には何人かいたが、数は少なかった。
そこで兄に代わり、統治をするにあたって、フレイは政策として男女平等や女性の進出
を訴えたが、すぐに取り止められた。そのかわりに、女性が仕事で、社会性や格差差別に
おいて男も利用するように営めばいい、という考えを広めたのだ。
歴史からいうとその考え方が広まったり、別の時代では男に隷属化した方がいいという
解釈が広まったりして、800年間を様々な形で、社会権や男女の権利がぶつかり、国や
社会が出来てきた。
この世界では、概ね、それぞれの時代がこうやってできたんじゃないか、という認識が
この世界の歴史だ。
もう一つの特徴は、人を見たら助けよという考えが浸透しているなという話だ。
この町は皆が助け合って生きている。
「アルス、困っている人がいたら助けなくてはだめよ。
その恩は私達にもその次の人にも回るの。」
母さんが優しく教える言葉を受けて育ったので、物心がつく頃には自分の人生が定められ
ているならなにか新しい事が生み出せないかと考えるようになった。




