EPISODE 19: WICKEDEST MAN ALIVE / AIN’T GONNA HURT NOBODY
Still my shit-head spinnin’ ‘round, stickin’ ‘round, それでも朝はやって来る。朝は嫌いだ、太陽の光を浴びるのは得意じゃない。夜に色々考えるとアイディアは上手くまとまるし、夜なら昼よりも素早く、そして気分良く快活に行動できる。けどこれじゃまるで、kinda like a nightcrawler, 夜行性動物みてえだな。
Damn, my gosh, 今朝の目覚めと共に、オレは自分の頭が熱っぽい事にすぐに気づいた。うげぇ、調子悪い。参ったな、今日ファストフードのバイトの日なんだよなぁ──最近のオレはファストフードとコンビニと倉庫作業のバイトをかけ持ちしてる──よりによってファストフードの日に熱出んのかよ。店長からは、食品を扱う仕事に風邪の持ち込みは絶対NGって言われてんだよなぁ。
目覚めたばっかの今も、例えどれだけ熱っぽくても、オレの頭ん中ではいつもと変わらず音楽が鳴り響いてる。けどあんまりにも身体がダル過ぎて、布団から立ち上がって、たった数歩先のターンテーブルの前に行く元気すらない。
毎朝頭ん中の音楽に合わせてレコードを選んで、ターンテーブルの針を落とす習慣は、もはやオレにとっては毎朝の祈り、儀式みたいなもんだ。体調が悪くてそれができないってなると、どうにもリズムが狂うし、決まった型通りにならないってだけでも激しくイラつく。
仕方がないから応急処置として、枕元に置いてある携帯音楽プレイヤーとイヤフォンに手を伸ばす。音楽をイグニションキーにして身体と心にエンジンをかけて、音楽に合わせながら自分を動かさないと、feel the beats, spit the lines, make some noise and ride the boogie, オレは1日を始める事すらできない。
Flippin’ through the beats, this one—Sound, sound, sound, sound, sound, sound, sound, sounds sweeter through the echoplex, it'll spin me around and throw me in a hex, until I feel no pain inside my brain, all my worries are soothed by the sound effects, bet I’m wondering what's been going on, bet you think I've almost lost my mind, don’t ya think so, yo, still my shit-head spinnin’ around, stickin’ around, I’m the king of beasts livin’ in the concrete jungle, Lion-Tiger man, barkin’ loud ‘n’ spittin’ real, though, huh?
オレは布団を被ったまま全身でリズムを取りながら、大きく溜息を吐いて身体から力を抜いた。
Why did I get drip-drop my lines, そういやこないだの夢ん中で受けた点滴、あれは一体、マジで何だったんだろ──先週、リタリンって名前の薬を初めて飲んで、その結果派手にやらかして、皆んなにすげえ迷惑かけて、公園のベンチでぐったり寝てる時に見た夢だ。
点滴を受ける夢を見たその後からは、砂漠の国の皇子様の夢に続いて、今度は『白い獣』の夢ばっかを見る様になった。この間の夢ん中だと、砂漠の国の皇子であるオレが突然道端で倒れて──けどその後に意識が戻ったと思ったら治療を受けていたのは皇子じゃなくて『白い獣』としてのオレで──もう何がなんだかマジで全然分からない。それに、忍士 (しのびざむらい) や赤い肌の先住民の少年は、夢ん中でここしばらくその顔を見ていない。
Ain’t it a joke, man, にしても、今度の夢は SF かよ?
しかも獣が8匹、皆んな軍人で、おまけに刀持ってたり何か唱えたりしてて、ちょっとニンジャっぽかったし? 動物がニンジャって、何だか “TMNT” みたいだよなぁ、yeah, everybody let's move, Taiga is here wit’ the new jack groove, gon’ rock and roll this place, wit’ the power of the Ninja beasts’ bass, Liger-man, ya know I'm not playin’, devastate the show while the beasts are sayin’, Ninja, Ninja, rap! Ninja, Ninja, rap! Go, go, go, go! Go Ninja, Go Ninja, go: go Ninja, go Ninja, go! Go Ninja, go Ninja, go: go Ninja, go Ninja, go! Go, go, go, go!
ってまぁ確かに『南総里見八犬伝』は大好きで、今まで何度も繰り返し読んできたけどさ──でもこれじゃあ、like, not “TMNT” nor “Ninja Gaiden”, or rather “4 Bad Big Cats, 4 Bad Wolves, Or Some Like That; Ill-Considered Roasts ‘n’ Burns”, 『ニンジャタートルズ』でも『ニンジャガイデン』でもなくて、『四猫+四狼=八獣伝』じゃん、マジで全然意味分かんねえし、ya feel me?
けど、以前からたまに読み返す中国の古典に、こんなフレーズがある。
「むかし、荘周は自分が蝶になった夢を見た。楽しく飛びまわる蝶になりきって、のびのびと快適であったからであろう。自分が荘周であることを自覚しなかった。ところが、ふと目がさめてみると、まぎれもなく荘周である。いったい荘周が蝶となった夢を見たのだろうか、それとも蝶が荘周になった夢を見ているのだろうか。荘周と蝶とは、きっと区別があるのだろう。こうした移行を物化 (すなわち万物の変化) と名づけるのだ」
そして、ゲーム好きのクラスメイトから借りて最近プレイしたプレステのRPGのオープニングにこの本、荘子のフレーズが引用されてたんだけど──途中まではほとんど同じ意味の文章なんだけど、最後だけがちょっと違った表現になってた。
「──きっと私と蝶との間は、区別があっても絶対的な違いと呼べる物ではなく、そこに因果の関係は成立しないのだろう」
オレが元々読んでた本の翻訳者は、該当のフレーズの注釈部分にそのゲームの言葉と同じ表現を使ってた。だからこのゲームを作った人も、たぶんオレと同じ本を読んでるんだろう。確かに、オレと忍士、赤い肌の先住民の少年、砂漠の国の皇子、そして『白い獣』では、確かに外見や立場、属してる文化や時代とかでちゃんと区別はつく。けど、主観が移動しない。全員が間違いなくオレだ──そこだけには絶対的な違いがない。
にしても今日の夢ん中の『白い獣』、何かすっげえ頑張ってたな、on top of his game wit’ his own work, 自分の仕事、ちゃんとこなしてた。偉いよな、今のオレとは大違いだ。こっちのオレは身体がダル過ぎて、今日のバイト行けそうもないってのによ。あー休みてぇ。
あの日、リタリンって薬を飲んでから、体調は一向に酷いままで元の調子に戻らなくなった。もともと飲む前からハルシオンの減薬で調子悪かったのに、それに輪をかけてさらに悪くなったって感じがする。主治医のクロキ先生の説明を思い出してみると、それはつまりオレには合わない薬だった、って事なんだろう。机の上には、封を開けたけど結局その時に飲んだ1錠以外、まったく手つかずのボトルが無造作に置かれてる──こんなの、もう二度と飲みたくねえ。
皆んなオレの体調の心配はしてくれるけど、どうしてオレがあんな醜態を晒す事になったのかは誰からも訊かれなかった。自分から話さない限り、周囲は見守りに徹して余計な詮索はしない──Even if down wit’ o.p.p., プライベートに土足で踏み込んでその中身を暴く権利なんて、赤の他人にはない。This is how we get through the streets, それがオレ達の流儀だから。
けどしゃあねえ、とりま体温計、計っとくか。
オレはずるずると部屋の床を這いつくばって、机の引き出しの中に入ってる体温計を取り出し、再び布団の中に潜り込んだ──やがて、ピピピッと短い電子音が鳴った。Feelin' like got a fever, feelin' kinda sick, 目が覚めた時に熱っぽい、調子悪ィと確かに感じたのに、体温計に表示された数値は36.9℃と微妙な結果だった。
But only the fire burns inside my head, jammin' wit' lines inside my brain, でも額に触れてみると明らかに高熱があって、頭ん中は酷いノイズだらけで、とてもじゃねえけどまともな判断ができる状態じゃない。何と言うか、『頭だけ発熱してる』って感じだ。
でっかいパソコンを持ってる知り合いが言ってたな、コンピュータは使ったら毎回きちんと電源を落とさないと次第に熱を持って機械が壊れたり、熱を持った状態のままで作業を続けると、処理が遅くなったり、同時に複数のタスクをこなす事が難しくなったりもするらしい。
シンヤくんの言う通りに『俺達の脳はずっと興奮してんのかもしれない』んだとしたら、オレの頭ってコンピュータに例えたら、毎日電源が落とせてない、ちゃんと休めてないって事なんだろうか? だから毎日夢を見続けてる、って事なのか?
睡眠薬を飲めばそん時だけは力が抜けて多少眠れはするけど、次の日の体調が確実におかしくなって何もできなくなるし、何より気分が最悪になるしで、I’m still lost, what’s the deal for real, though, 結局何が正解なんだか、今のオレにはイマイチ良く分からない。
けど──『脳そのものは痛みや温度を感じない』って前に読んだ科学雑誌に書いてあったよな、だから脳ミソを直接手で触れても痛くも痒くもないらしい。身体は痛いって感じるのに、それを動かす司令塔である脳ミソは痛いって感じないなんて、何とも不思議な話だよな。
ん? じゃあオレの頭ん中に熱があるって感覚、変だよな? 痛いって感じねえんなら、熱いとかもきっと分かんないはずだよな? ──オレの頭、ブッ壊れてんのかな、やっぱそれとも生まれた時からもともと狂ってんのかな。深く考えようとして、got stuck in a foggy, noisy maze in my brain, オレの頭ん中のノイズはますます酷くなった。
オレは枕元の携帯電話に手を伸ばして、連絡帳のリストをスクロールする。
はぁ、夢ん中の宇宙船でネコ族専用って言われた点滴を受けた時に、『五感と直感がこれからのオレ自身を助ける』って言われたはずなんだけどなぁ。助けてくれるどころかオレの身体、全然動けねえじゃん、詐欺だろ、詐欺、it’s only ‘bout a hustlin’ score ──って夢のせいにしても何も始まらねえよなぁ。
そんなんオレにだって良く分かってるけどさ、でもそうぼやきたくなるぐらいに、今までずっと低空飛行を維持してた人生が、たった1回だけリタリンを飲んだけなのに──それからのオレはさらに高度を落としてついに地表スレスレ、墜落ギリギリを飛んでるって感覚が強くなった。
宇宙船の窓から見た宇宙の景色、めっちゃキレイだったよなぁ。でっけえ輝く星が2 つも同時に見れてさ、あーあ、今すぐ宇宙船で宇宙まで飛んで逃げたい気分だよ。また布団で寝て夢を見れば、あの宇宙の景色をもう一度見れたりすっかなぁ。
やがて携帯電話の通話が繋がった。
「あ、店長すか、タイガっすけど、おやざっす、あ、今日熱あるんで休みます、さーせんっす」
「Mornin’, タイガ、my bad, 遅れてすまない、思ったより道路が混んでてな」
「Mornin’, my bro. I’m cool wit’ that, glad to get a ride (おはよ兄貴、気にしてないって、だって乗せてもらうのはこっちだし), 今日もありがとコータローさん、マジ助かる」
Wit’ our fist bumps, コータローさんとオレは互いの握り拳を突き合わせて朝の挨拶を交わす。
オレは朝のギンガとの散歩を終えた後、meetin’ up the corner, コータローさんとの待ち合わせ場所で赤マルを吸いながらのんびり待ってた。遅れてすまないと言ってもたかが5分なんだけど、真面目なコータローさんからすれば5分でもきっと大遅刻なんだろう。
ここ最近はオレの ZEPYHR でのバイク通学の回数を減らして、高校へはコータローさんのインパラに乗せてもらって通学する機会が増えた。コータローさんは道の途中だし、運転好きだし、遠慮する必要ないぞっていつも言ってくれるけど、さすがに毎回ずっとって訳にもいかない。けど満員電車は吐くから乗れない。一応トライはしてはみたんだけど、やっぱオレにはどうしても無理だった。
このインパラのカーステレオからは今日も相変わらず物騒な曲が爆音で流れてる。Wit’ the swing, swing, swing and chop, chop, chop, get the mop, bro, 'cause tonight we're havin’ chopped liver, and I'ma cut out'cha heart, コータローさんの外見でこの曲をかけるとマジでちょっとシャレになんねえ気がする。「今からお前を殺 (や) りに行くぞ、今向かってんぞ」ってサビでカジュアルに連呼するとか、さすが、西海岸系だとしか言えない。
道が混んでたってコータローさんは言ってたけど、今の時間はもう道路はスムースに流れてるみたいだった。これならもう遅刻しない、今日の1限目には余裕で間に合うはずだ。
体調は一向に戻らない、今日も変わらず低空飛行のままだ。あまりにも動けなさ過ぎて昨日はバイト休んだけど、こう何回も続けて休んだら──chop, chop, chop, got the chop, bro, こりゃあそのうち、間違いなくクビになるだろうなぁ、また別のバイト探さないといけないかもなぁ。
ってバイトの事を考え始めたら、急にあくびが止まらなくなった。減薬の離脱症状に強い眠気があるなんてクロキ先生言ってたっけかな、今日夕方の定期診察で聞いてみるか。あまったリタリンのボトルも、ちゃんと忘れずに持ってきてる。後は今日の授業の合間に、この1週間の様子やクロキ先生に伝えたい事をルーズリーフにメモしておけば大丈夫だ。
「Sup (どうした), タイガ、まだ眠いのか」
ハンドルを握りながら、信号待ちでコータローさんがオレに目線を寄越す。
「Ah, yah, オレ最近さ──どんだけコーヒー飲んでもずーっと眠いままなんだ。朝イチで濃い目のブラック飲んで来たんだぜ? けどオレ、I be real ‘bout dozin’ off right now, though (マジで今すぐ寝ちゃいそうなんですけど).」
両目をこすりながらそうオレが言うと、再びインパラを発進させながら軽く肩を竦 (すく) めて、コータローさんがオレに応えた。
「Yup, I got’cha (そんな感じだな), こないだも授業中に良く寝てたもんな──元々カフェインが効きにくい体質なのか、それとも体調がまだ良くなってないって事か──What’cha doc sayin’ ‘bout it (医者は何て言ってるんだ), と言うか、病院にはちゃんと行ってるんだよな?」
「For sure (もちろん), ちゃんと行ってるよ。Next up is today (次の診察は今日でさ), 学校帰りの夕方に顔出す予定」
コータローさんとオレは、2人きりの会話になるとスラングが増える。2人ともキレイな言葉遣いや難しい言い回しを知らない、似たり寄ったりの英会話力なので、結果こういう感じになる。
「Glad’cha hear it (なら良かった), じゃあ夕方、学校終わりにそのまま病院の送り迎えもやってやるぞ。How do we get to the hospital? (病院までの道順を教えろ)」
「Ugh, I be good, gotta bounce (え、いいよそんな事しなくて、遠慮しとく), 駐車場あるのかも分かんねえし、nope, I be like, いやもう本当大丈夫だからさ」
コータローさんの善意の申し出を、オレは慌てて断った。
オレの全身に緊張が走り、朝からずっとオレの頭に居座ってた睡魔が一気に吹き飛ぶ。オレがどの診療科目を受診しているのかがバレたら、きっと真面目なコータローさんの事だ、オレは絶対嫌われる。もう口を利いてもらえなくなるかもしれない。
「Why don’cha hop on (黙って乗れ) , 居眠りするぐらいに調子が悪いんだったら、病院にも素直に俺の車に乗ってけば良いだろう? Yo, my lil’ bro (お前は俺の弟みたいなもんなんだぞ), 俺がお前を心配する事が、そんなに不満なのか?」
コータローさんは眉間 (みけん) に皺 (しわ) を寄せながらそう言った。
少しぐらい機嫌は損ねたかもしれないけど、コータローさんは本気で怒ってるって訳じゃない。厳つい外見のイメージが、コータローさんをいつも怒ってるみたいに見せてるってだけだ。そう理解はできてても、he’s solid, a real red-eyed samurai, ya know, 真剣な調子で話す時のコータローさんはやっぱりちょっと怖い。
Freakin’ out more, spittin’ my lines, thuogh, オレはますます慌てて弁解した。
「No way, my big bro (まさか、違うって兄貴), そうじゃなくてさ──well, how can I explain it (何て説明したら良いのかな), 上手く言葉が見つからないんだよ──now I’m stuck, no spit, my bad for real (今頭動かなくてさ、マジで悪い), 説明すんのがホントに難しいんだよ」
助手席のオレを運転席から一瞥 (いちべつ) したコータローさんは突然アクセルを一気に踏み込んで、同時に左手で油圧サスペンションのスイッチを手早く操作、holy shit in three-wheel motion (まさかの3輪走行で), 街道沿いで混み合うコンビニの駐車場にインパラをキレイにねじ込んだ。
否、周囲の車が察してどいてくれた、の方が正しい表現かもしれない。朝っぱらから爆音のウエッサイをカーステで流す3輪走行のローライダー、しかも運転席に座っているのは厳ついコータローさんだ。それを目の前にして、察しないヤツの方が頭おかしい。
「Whassup, どしたのコータローさん、コンビニで朝メシ買う!? トイレ寄るの!? 何で今、いきなり3輪にしたの!?」
あまりの遠心力にシートからずり落ちた自分の背中と腰を戻しながら、オレはコータローさんに文句を言った。だがコータローさんはオレの言葉には応えずに、おもむろに携帯電話を取り出して電話をかけ始めた──電話の相手はタカヒロさんだった。
「──タカヒロ、俺だ。今タイガを乗せて途中のコンビニにいるんだが、道が混んでてな、ちょっと遅刻しそうなんだ。悪いが1限目の先生に伝えておいてくれないか」
「Whack, what the hell ya sayin’ (いやおかしいだろ、何言ってんだよ), 道めっちゃスイスイ流れてたじゃ──うごっ」
話の途中でコータローさんのアイアンクローが顔の正面から飛んできて、オレは最後まで抗議の声を上げる事ができなかった。電話の向こうから、タカヒロさんの呆れ声が聴こえてきた。
「分かった。だがほどほどにしておけよ、コータロー」
「ああ、そのつもりだ。じゃあな」
タカヒロさんのあの口調、交通事情での遅刻じゃないと完璧に察してる感じだったな。ああ、オレこれからコータローさんに説教食らうのか、got funky wit' g-funk so far, but now I’m gettin’ in a heavy funk for real, しかもコンビニの駐車場で公開処刑かよ、マジで憂鬱だ。つーかコータローさん、電話終わったんならもう良い加減このアイアンクロー早く離してくんねえかなぁ。コメカミめっちゃ痛えんだけど。
「Catch me outside, step to me (出ろ、外で話をするぞ)」
コータローさんが軽くため息を吐きながらようやくアイアンクローを離して、いつもよりもさらに低い声、厳しい口調で言った。
コンビニの駐車場の奥、物置の陰で、オレはヤンキー座りをしながら赤マルを深く吸って、その煙をわざとコータローさんの顔面に向かって吐きかけた。けど、同じくヤンキー座りをしてるコータローさんはオレの無言の抵抗をものともせず、微動だにしない。さすが、he is a real red-eyed samurai, I knew it, 普段セキュリティーの仕事をしてるだけあって、こういう挑発を受け流すのも普段から慣れたモンなんだろう。
「お前と一緒に行動する様になって、お前の性格はそれなりに把握しているつもりだ。この前も言った通り、お前が自分の事を話すのを酷く苦手にしているってのも俺はちゃんと分かってる。無理強いもしたくはない。だがな、listen up, my lil’ bro, it’s all ‘bout our bond, ya know (良く聞けよ俺の弟、これは俺達の信頼関係の問題だ), 苦手だからといって俺に何ひとつ話してくれないままってのは、それは一体どうなんだ、our bond‘s on the line right now, on top of that, we’re on the edge right here, ya hear me? (俺達の信頼関係は今まさに試されてるんだ、というか、正念場だぞ、分かってるのか?)」
コータローさんはおもむろに立ち上がりながら、太い腕を厚い胸板の前で堂々と組んで、そうオレに言った。
No xscape, no choices, ain’t no other way for me, now so I’m all in, うー今言うのかよ。嫌だなぁ、言いたくねえなぁ。オレはイラつきを抑えるために赤マルをもう一度深く吸い込んだ──あれ、何かまた急に眠くなってきたぞ。この赤マル、何か薬でも混ざってんのか?
オレは眠気を振り払う様に、声を絞り出した。
「Yah, I know what’cha wanna say, man, but (あーもう、分かってる、何言いてえのかは分かってるって、けどさ) ──他人に言えない、墓場まで持ってく様な話なんて、誰にだって1つや2つぐらいあるだろ? コータローさんや皆んなに何をどこまで話して良いのか、言ったらどうなるかのか、ちょっと考えるだけでもオレはめっちゃ怖いんだよ」
「俺達の間に隠し事はナシだ。C’mon, my lil’ bro (言ってみろよ弟), いつも強気なお前なんだ、俺に正直に話す勇気ぐらいは持ってるはずだぞ」
「──What the fuck, ya tryna say I’m a scaredy cat, huh? (何だよ、オレがビビリだって言いてえのかよ、あ?)」
オレは咥えタバコのまま、普段よりも明らかに低く抑えたトーンでコータローさんに反応した。コータローさんの挑発に、オレはまんまと乗ってしまった。眠かったはずの頭はまた急に冴え始めて、同時に頭の奥底が痺れる様な不思議な感覚をも覚える。
「No way, ya trippin’ (おい、お前何か勘違いしてないか), オレはそんな事はひと言も──」
コータローさんが腕組みを解き、眉間に皺を寄せながら話を始めた途端、立ち上がって赤マルを地面に吐き捨てたオレは、コータローさんの着てるT-シャツの襟元を力任せにつかんだ。体格や力ではコータローさんに敵う訳がないと分かってたはずなのに、オレは自分の奥底から湧き上がる黒い衝動を制御する事ができない。オレはコータローさんの身体を腕の力で更に引きつけながら、自分の額もコータローさんの顔面に触れるほどに近づけて、ますます語気を強めて詰め寄った。
「Look at me in the eye, why don’cha face me!? (目ェ見て言えよ、やんのかコラ!?)」
「Why ya mean-buggin’ me (何で俺を睨むんだ), どうしてそうなる!?」
まさかここでオレが突っかかってくるとは想定してなかったんだろう、コータローさんからしてみれば、単にオレを元気づけるつもりだったのかもしれない。コータローさんは慌てた様子で、両手でオレの肩を上から抑えつけながら応えた。
「タイガ、I know ya ain’t just some wimp, man, so calm down!! (俺はお前がただのヘタレじゃないって分かってる、だからこの場は落ち着けって!) Ya got the heart of a real strong beast, the Lion-Tiger Man, aight? (お前はマジで強いハートを持ってる、ライオンとトラの血が混ざってんだろ!?) 」
コータローさんのそのひと言で、オレは我に帰った。
オレの頭の中を再び眠気が支配していく。けどその眠気はさっきまでよりも遥かに強烈で、その場で立っていられないほどのものだった。睨みつけてたはずのコータローさんの顔がにじんで、オレの視界の中でぼやけていく。コータローさんのTシャツの襟首をつかんでた腕からは力が抜けて、オレはその場にドスンと尻餅をついた。
「Whassup, タイガ、are ya ‘kay!? (どうした、大丈夫か!?)」
目の前にいたはずなのに、コータローさんの声はずいぶん遠くから聴こえた気がした。




