第8話 忍者対決!
勝負が始まってすぐ、沖君は手裏剣を投げてくる。
たけど私は、それを見てすかさず鉤縄を取り出した。
鉤縄ってのは、縄の先に大きく曲がった針がくっついていて、高いところに登るために引っ掛けたり、縄の部分で敵を縛ったりと、色んなことに使える忍者道具なの。
ブンブン振り回した鉤縄で、手裏剣を、ひとつ残らず地面に叩き落とす。
さらに、先についてる針で攻撃しようと、沖君に向かって投げつけた。
「くっ!」
沖君も、サッとそれをかわす。むむっ。これは、なかなか手強いかも。
その直感は、間違ってなかった。
それからも、鉤縄を何度投げても沖君にはかわされ、刀で斬りかかったら、沖君もすかさず刀を抜いて、それを受け止める。
(沖君、こんなに強いんだ)
お父さん以外とこうして戦うなんて初めてだけど、今までずっと修行してたから、自信はあった。
男子と一緒にスポーツする時だって、負けることはほとんどなかった。
だけど沖君は、そんな私でも勝てるかどうかわからない。
(けどそれは、沖君だって同じだよね)
私だって、まだ沖君の攻撃をまともにくらってはいない。
今のところ、互角と思っていいよね。
「へぇ。思ったよりやるじゃないか」
「当たり前でしょ。私が勝つんだから」
こうなったら切り札を使おう。懐から、忍法の巻物を取り出す。
忍法を使えば、魔法みたいに凄いことや不思議なことだってできる、だけど使うには巻物に気を送らなきゃいけないから、とても疲れるの。
使うタイミングしだいで、勝負を決めることもあればピンチにもなる、まさに忍者にとっての必殺技だ。
「忍法、雲隠れ!」
「なにっ!?」
巻物を手にして叫ぶと、私の姿が消える。
学校で使ったのと同じ、雲隠れの術だ。
姿が見えなくなるから、攻撃だってし放題。
って言いたいところだけど、油断はできない。
沖君を見ると、私の姿が見えなくなったことに驚いてはいたけど、すぐに集中するようなポーズをとる。
きっと、私の気配を探してるんだ。
いくら姿が見えなくても、考えなしに近づいたら、気配で気づかれて攻撃されるかもしれない。
けど、あまり時間をかけすぎると、雲隠れの術が解けちゃう。
ならばと、沖君の周りを円を描くように走り回る。
「そこか? いや、こっちか?」
よし。上手く気配が捕まえられず、混乱してる。
このチャンス、逃さないから!
(今だ!)
後ろから、沖君目掛けて飛びかかる。このまま不意打ちを仕掛けて、一気に勝つんだ!
けどその時だった。沖君が、手に巻物を握って叫ぶ。
「忍法、変化の術!」
そのとたん、ポンって音がして、沖君の体を煙が包む。
そしてそこに一匹の巨大なカエルが出現した。
「へっ……?」
私と同じくらいはあるんじゃないかってくらい、すごく大きなカエルが、ギョロっとした目で辺りを見回す。
急に目の前にそんなのが出てきたもんだから、驚かないわけがない。
「ふぇぇぇっ!?!?」
思わず足を止め大声をあげた瞬間、巨大カエルがまた煙に包まれ、沖君に変身する。
そして、まっすぐ私に向かって飛びかかってきた。
「そこか!」
しまった! 声が出たから、どこにいるかわかっちゃったんだ!
沖君に体当たりされた拍子に、ショックで雲隠れの術が解ける。
それだけじゃない。沖君は私の体を掴んで、そのまま床に押さえつけた。
それを見て、お父さんが声をあげる。
「それまで! この勝負、沖君の勝ち!」
えっ? 私、負けちゃったの?
沖君を見ると、よしって感じでガッツポーズをする。
「ちょっと待って! 今のずるくない!?」
だっていきなりカエルに化けるなんて、そんなのあり?
「なに言ってるんだ。忍者の戦いはなんでもありだろ」
「その通りだ。沖君の使った変化の術。これはその名の通り、自分の思った通りのものに変身する術だが、その使い方が実に見事だった。沖君の勝ちだ」
そんなーっ!
く、悔しい。お父さんとの修行ではほとんど勝つことはできないけど、同い年の子相手に、体を動かすことで負けるなんて思わなかった。
「じゃ、じゃあ、もう一回。今度は私が勝つから」
「ああ、いいぞ。次も俺が勝つけどな」
よーしと身構えるけど、お父さんがそれを止めた。
「こらこら二人とも。まずはしっかり休みなさい。それに、修行っていうのは、戦うだけじゃないだろう。しばらくの間、修行内容は基礎練習にするつもりだよ」
「えぇーっ!」
せっかくやる気になったのに。
けど結局、お父さんの言う通り、今日の修行はこれでおしまい。
い、いいもん。
修行は明日もあるんだから、基礎練習でもなんでも、私の方がいい成績出してやるんだから。
私、忍者になる気はないけど、負けず嫌いなの。