第6話 謎の男の子
その日の放課後。私とユキちゃんは、涼子ちゃんに心からのおめでとうを贈ってた。
「「おめでとーっ!」
「二人とも、ありがとう」
涼子ちゃんは、涙ぐんでいる。
先輩にラブレター渡して告白して、返事をもらったの。見事OKで、付き合うことになったんだって。
「それにしても、ラブレターが机の中から出てきた時はビックリしたよ」
「ごめんね。本に挟んだと思ってたけど、途中で落ちちゃったみたい」
あれだけ騒いだラブレターは、三時間目の休み時間、私たちが体育の授業を終えて教室に戻ってくると、涼子ちゃんの机の中から見つかった。
「こんなことなら、もっと机の中を探せばよかった」
本当は私が職員室に忍び込んで持ってきたんだけど、それはもちろんナイショ。
「それより、これからまた先輩に会いにいくんでしょ。放課後デート、楽しんできてね」
「うん。本当に、ありがとね」
そうして涼子ちゃんは、先輩のところに行っちゃった。
私もあんな素敵な恋してみたいなぁ。
それから私は、ユキちゃんと一緒に帰る。
って言っても、一緒なのは途中まで。これからユキちゃんは、ピアノ教室に行くの。
ユキちゃんはコンクールで入賞するくらいピアノがうまいんだけど、その分練習も欠かせない。
「たくさん練習してすごいね」
「好きでやってるだけだよ。それにお父さんが、帰ってきたら私のピアノ聞きたいって言ってくれたの」
楽しそうに言うユキちゃん。
ユキちゃんのお父さんは家にいないことが多いけど、毎年この今の時期には必ず帰ってくるの。
その理由は、ユキちゃんのお母さんの命日が近いから。親子揃ってお墓参りに行ってるんだって。
校門に近づくと、側にとまってた車から、女の人が降りてきた。
「小雪お嬢様、お迎えにあがりました」
「ありがとう坪内さん」
この人はユキちゃんの家のお手伝いさん、坪内さん。ピアノ教室は少し遠くにあるから、迎えに来たんだ。
「移動中、芹沢さんのおうちの近くを通りますが、そこまで乗っていかれますか?」
「はい。ありがとうございます」
私も坪内さんとはすっかり顔見知り。時々、こんな風に車に乗せてもらってるんだ。
車の中でユキちゃんとお喋りしてると、すぐにうちに到着する。
「それじゃ真昼ちゃん、また明日ね」
「うん。練習頑張ってね」
こうしてユキちゃんは、私と別れてピアノ教室に行く。
私は家に入ろうとするけど、玄関の鍵が開てるのに気づく。
(あれ?)
お父さん、このくらいの時間は家にいなくて、鍵がかかってることが多いのに。
「お父さーん?」
お仕事、早く終わったのかな? 忍者のお仕事って、詳しいことは教えてもらってないけど。
まさか、泥棒じゃないよね。もしそうなら、やっつけてやる。
そう思っていながら茶の間の戸を開けると、私は凍りついた。
「えっ────?」
そこには、私が立っていたの。
いや、何言ってるのかわかんないよね。
けど、本当にそうなの。まるで鏡を見てるみたいに、私そっくりな女の子が、そこに立ってたの。
「あ……あなた、だれ?」
ビックリ仰天しながら尋ねると、私そっくりなその子はクスリと笑う。
次の瞬間、ポンと音がしたかと思うと、その子の周りに煙が立ち込める。そして煙が晴れた時、そこにいたのは一人の男の子だった。
私そっくりな女の子が、男の子に変身した!?
「なに? 誰? どういうこと?」
すると、そこでようやく男の子が口を開く。
「驚かせて悪かった。けど、俺のことを知ってもらうには、こうした方が早いと思ったんだ」
えっと……つまり、どういうこと?
改めてその子を見ると、歳は多分私と同じくらい。かなりのイケメンで、ちょっとだけドキッとする。
そして気づく。その男の子が、手に巻物を持っていることに。
「それって、忍法の巻物だよね。もしかして君、忍者なの?」
聞いてみると、男の子はニッと笑う。
「ああ。俺の名前は、沖悠生。お前と同じ、将来の忍者を目指す者だ」
……な、なにこれ?
男の子、沖君が真剣な顔で言うけど、何が何だかさっぱりわからない。ただ、ひとつだけ言えることがある。
「えっと……私、将来忍者になる気はないから」
「はっ?」
どういう勘違いをしてるか知らないけど、これははっきり言っておかないと。
その言葉に、彼は目を丸くする。
「け、けど、君の家は代々忍者やってるんだろ。君が継がないと、途切れることになるんだぞ」
「いいよ。私は私でなりたい仕事見つけるから」
「なぁっ!?!?」
声をあげる沖君。
だけどそれから、丸くなってた目が、だんだんとつり上がっていく。
もしかして、怒ってる?
嫌な予感がしたけど、遅かった。
「ふざけるな! お前それでも忍者か! もっと忍者としての誇りを持て!」
「ふぇぇーっ!?」
顔がきれいな分、怒るとすごく迫力がある。
勢いに圧倒されそうになるけど、私にだって言い分はあるもん。
「将来何になるかは自由じゃない。私はやりたいこと探してる最中なの!」
お父さんといいこの子といい、どうして私を忍者にさせたがるのかな。
そもそも君、誰なの?
するとそこで、別の声が聞こえてきた。
「真昼、帰ってきてたのか。沖君とは、もう挨拶したみたいだな」
声の主はお父さん。
沖君のこと知ってるみたいだけど、どういうこと?