第5話 ラブレターを取り戻そう!
次の休み時間。私は急いで教室を飛び出した。
この休み時間の間に、涼子ちゃんのラブレターを取り返すんだ。
まずは、教室前の廊下から窓の外を眺める。ここからだと、ちょうど職員室の中が見えるの。
坂田先生の机を見ると、そこには誰もいない。
次の授業は体育で坂田先生もジャージに着替えるから、今がチャンスだ。
それから職員室に向かうけど、いくら坂田先生がいなくても、このまま中に入ったら、他の先生に見つかっちゃう。
「そんな時こそ、これの出番」
ポケットにしまっていた巻物を取り出す。
実はこれ、忍者には欠かせないアイテム。その名も、忍法の巻物。
詳しく話すと難しくなるけど、巻物には特別な力が込められていて、そこに気を送り込むと、忍法が使えるの。
今朝お父さんとの修行で使った分身の術もそうなんだけど、今回使う巻物はそれとは別のやつ。
どんな忍法が使えるかは、巻物毎に違ってて、気の送り方も、専用の修行をしなきゃいけないんだ。
そして、今回の忍法はこれ。
「忍法、雲隠れ!」
叫んだとたん、私の体が透明になっていく。
よし、成功!
この雲隠れの術は、透明人間になったみたいに使った人の姿が誰にも見えなくなるの。
これで、職員室に入ってもバレないよ。
けどね、実はこの術、大きな弱点があるの。
私が未熟なせいで、使える時間がすごく短いの。
術が解ける前に、ラブレターをとって戻って来なきゃ。
「急がないと!」
まずは、大急ぎで職員室に向かってダッシュ! だけど、ドカドカ足音を立てないようにする。
職員室に入っても、私に気づく先生は誰もいない。
そのまま坂田先生の机に行き、大きな引き出しに手をかける。没収したものは、ここに入れてるんだ。
だけど、開かない。話に聞いてた通り、鍵がかかってた。
そこで私は、一本の針金を取り出す。
ヘアピンを曲げて伸ばしたやつなんだけど、簡単な鍵なら、これでカチャカチャってやれば開けられるの。
だけど、問題は時間。早くしないと雲隠れの術が解けちゃう。
素早くやらなきゃ。だけど、決して焦っちゃダメ。焦ったら余計に失敗するから。
集中してヘアピンをカチャカチャやること、ほんの数秒。
カチリと音がして、鍵が開いた。
(やった!)
心の中でガッツポーズ!
それから引き出しを開くと、涼子ちゃんの本が入ってた。
さあ、持っていこう。と言いたいところだけど、それはダメ。 本ごと持っていったら、坂田先生が無くなっているのに気づいちゃう。だから、中のラブレターだけ抜き取るんだ。
本をめくると、かわいいメッセージカードが入ってた。
間違いない。これがラブレターだ。
それからまた針金を使って引き出しの鍵をかけ、これで完了。
来た時と同じように、足音を立てずに素早く職員室から出ていく。
廊下の角を曲がったところで、それまで透明だった私の体に、色が戻った。雲隠れの術が解けたんだ。
けど周りには誰もいないから、それを見られる心配はなし。
「やった!」
けっこう難しかったけど、見事成功。
ラブレターを返したら、涼子ちゃん喜んでくれるかな?
けど私が忍者だってことは秘密だから、涼子ちゃんには何も言えない。こっそり机の中にでも入れることになるかな。
でもいいの。こうして密かに誰かの役に立つのって、すごく嬉しいから。
実はね。今までも、ナイショで忍者の力を使って、人助けしたことが何度かあるんだ。
将来忍者になるつもりなんてないけど、毎日の修行はする。
それは、こういうことやってるからなんだよね。