第4話 本の中にあるもの
「実は涼子ちゃん、本を読んでた訳じゃないの。本の中に別のものはさんでて、それが気になって何度も見てたの」
「別のものって、なに?」
「えっと、その………………ラブレター」
最後の一言は、消えちゃいそうなくらい小さな声になっていた。
「えぇーーーーーっ! ラブ………モガモガ」
「ダメーっ!」
思わず叫びそうになった私の口を、ユキちゃんがふさぐ。
「まひるちゃん、大声で言わないで」
「ご、ごめん。ビックリして、つい……」
涼子ちゃんが真っ赤になりながら言う
ごめんね。けど、本当にびっくりしたんだよ。
「ラブレターって、涼子ちゃんが書いたんだよね。好きな人がいるの?」
「……うん」
「すごーい」
私なんて、恋愛はマンガの中の出来事みたいな感じだよ。
「相手は誰なの?」
「えっとね……」
話を聞くと、涼子ちゃんの好きな相手は、ひとつ年上の六年生。涼子ちゃんの家の近所に住んでて、ずっと仲良しだったんだって。
「けど来年には卒業して中学生になるし、そしたら今までみたいには会えなくなるかも。その前に好きって言いたくて、ラブレターを書いたの」
話をする涼子ちゃんは、パッと明るくなったり、さびしそうになったり、表情がコロコロ変わってた。
きっとそれだけ好きなんだろうな。
「涼子ちゃんに好きって言われたら、きっとその人もすごく喜ぶよ」
「そうかな?」
間違いないよ。だって今の涼子ちゃん、とってもかわいいんだもん。
だけどそこで、ユキちゃんがしょんぼりした声で言う。
「でもそのラブレター、あの本の中にあるんだよね?」
「うん。誰かに見られたら恥ずかしいから、お気に入りの本に挟んで持ってきたんだけど、ちゃんとあるか気になったの」
それで、授業中も何度も見てたんだ。
「また新しく書くことはできないの?」
「できるよ。でも、本に挟んでるのを坂田先生に見られたらどうしよう」
そっか。
せっかく書いたラブレターを別の人に見られたら、きっとすごく恥ずかしい。
三人で悩んでたけど、二時間目の授業開始のチャイムが鳴って、これ以上相談することができなくなってしまった。
「ごめんね、力になれなくて」
「ううん。心配してくれてありがとう」
涼子ちゃんはそう言うけど、やっぱりどこか不安そうに見えた。
(坂田先生にラブレターを見られる前に何とかしないと。でも、わけも話さず返してほしいって言ってもダメだよね。そうなると、もうこれしかない?)
実は、みんなで悩んでいる時、ある方法が思い浮かんだ。
坂田先生にバレないように、こっそりラブレターを取り返すんだ。
こんなの、ユキちゃんや涼子ちゃんが聞いたら、きっと無理だって言うよね。
坂田先生は、没収したものは職員室にある自分の机にしまっているし、しかもその机には鍵がかかってるって聞いたことがある。
そんなところからこっそり取り返すなんて、そりゃ無理だよね。普通なら。
だけど私は、普通とはちょっと違う。忍者だ。
正確には忍者の修行中で、将来忍者になるかもわからないけど。
なんだかドロボウのマネをするみたいだけど、このまま何もしなかったら、涼子ちゃんがかわいそう。
お父さんからは忍者ってバレちゃダメって言われてるけど、バレなきゃ忍者の力を使ってもいいよね。