第3話 学校にて
「間に合った!」
ダッシュで教室に入って時計を見ると、見事セーフ。
修行のおかげで、足には自信があるんだ。
「おはよう、真昼ちゃん」
「ユキちゃん!」
声をかけてきたのは、同じクラスの要小雪ちゃん。私はユキちゃんって呼んでるよ。
長い髪にクリッとした目が可愛い、お嬢様って感じの子。
って言うか、お父さんがとっても大きな会社を経営してる、正真正銘のお嬢様なの。
けど、それを鼻にかけたりはしないの。性格は私と違って大人しいけど、ずっと前からなかよしなんだ。
「遅刻ギリギリなんて珍しいね。何かあったの?」
「出かける前に、お父さんとちょっと言い合っちゃった」
「言い合うって、もしかしてケンカでもしたの?」
「そういうんじゃないから、安心して」
まさか、忍者になるかどうかで揉めてたなんて言えないよ。
それに色々言い合いはしたけど、だからって嫌いになったりはしないもんね。
「そうだよね。真昼ちゃんのお父さん優しいし、ケンカなんてしないか」
「そんなに優しいかな?」
「そうだよ。前に私が遊びに行ったら、友達が来てくれたってすっごく喜んでたんだもん。それに、たくさんおうちにいてくれるし……」
「あっ……」
ユキちゃんは、ちょっとだけ寂しそうにする。
ユキちゃんのお父さん、お仕事でいつも海外を飛び回ってるの。 それにユキちゃんのお母さんは、ユキちゃんが小学校に入ったばかりのころに亡くなってて、普段はお手伝いさんに面倒見てもらってる。
ユキちゃんにとって、家族が近くにいてくれるってのは、それだけで嬉しいことなのかも。
なんて考えてたら、担任の先生が教室に入ってきた。
坂田先生っていう、若い男の先生だ。
「さあ、皆さん席について」
というわけで、ユキちゃんとの話もここで中断。一時間目の授業が始まった。
朝の修行で疲れたけど、寝ちゃわないようにがんばらなきゃ。
なんて思ってたら、急に授業を進めている坂田先生の声が変わった。
「中井さん。今、机の中に何か隠しましたか?」
「えっと……」
声をかけられたのは、中井涼子ちゃん。おとなしい子なんだけど、今はいつもよりずっと無口でだんまりしてる。
「さっきから何度も机の中に何かを出し入れしてたみたいですが、それは何ですか?」
坂田先生、普段は優しいけど、叱る時はしっかり叱る。
涼子ちゃんはしばらく黙ってたけど、机の中から、一冊の本を取り出した。
「ごめんなさい。続きが気になって、読んでいました」
小さな声で呟くと、坂田先生は困った顔をする。
「中井さん。この本はお家から持ってきたものですか? 授業中に読むのがいけないことだというのは、わかってますね」
「……はい」
涼子ちゃんはちゃんと自分が悪いと思ってるみたいで、言い訳せずに静かに頷く。
「こう言う時は、没収して先生が三日間預かる。それも、わかりますね」
「えっ!…………はい」
授業中、本やマンガを読んでいたら、先生が三日間預かる。それがこのクラスのルールで、今までにも何人か没収されてる。
それを聞いて涼子ちゃんは慌てたけど、嫌だとも言えなくて、結局そのまま本を渡しちゃった。
坂田先生は、そんな涼子ちゃんを見て心配そうな顔をするけど、だからって特別に見逃したりはしない。
「大事な本が読めなくなるのは嫌かもしれません。けど、三日経ったらちゃんと返しますからね」
「…………はい」
涼子ちゃんが小さく返事をして、授業再開。
その途中、チラッと涼子ちゃんを見ると、なんだか落ち込んでるみたいだった。
授業中、関係ない本を読むのはダメ。それはわかってるけど、なんだかかわいそう。
それに涼子ちゃん、本を読むのは好きだけど、今みたいに授業中にこっそり読んだことは一度もないんだよね。
どうしてそんなことしたんだろう。
それがわかったのは、その後の休み時間。
ユキちゃんが、涼子ちゃんと話してたの。
「ユキちゃん。どうしたの」
「あっ、真昼ちゃん。実はね……」
ユキちゃんは、一度涼子ちゃんを見て、話していいかって確認をとる。
それから涼子ちゃんも頷いて、教えてくれたんだ。