第2話 将来なりたいもの
そう思ったけどもう遅い。
ガバッと顔を上げたお父さんは、凄い勢いで叫んだ。
「時代遅れで古臭いとはなんだ!」
いや、古臭いとは言ってないから。
「最近は、忍者だってドローンや発信機のようなハイテク機器だって使ってるんだぞ」
「けど忍者って、戦いのお手伝いをしてた人たちでしょ。今の時代に戦いなんてないじゃない」
「偉い人の護衛とか、悪いやつを捕まえるとか、忍者の仕事は今もたくさんあるんだ」
「とにかく、私は将来もっと楽しい仕事につきたいもん。将来の夢は自由だって先生も言ってたもん」
私も小さい頃は、何となく忍者になるのかなと思ってた。だけど、もっとやりたい事があるかもって思うようになったんだよね。
「そ、そんな……」
ガーンって音が聞こえてくるように、ショックを受けるお父さん。
それから、大慌てで駆けていく。
ついていくと、その先には仏壇とお母さんの写真があった。
「大変だよ。真昼が忍者になりたくないなんて言い出したんだ。毎日の修行が厳しすぎた? もう少し優しく教えてあげた方が良かったのかな?」
泣きそうな顔で、写真の中のお母さんに話しかけるお父さん。
お母さんは私が小さい頃に亡くなったんだ。
「このままじゃ、ご先祖さまにも申し訳が立たない。伊賀の流れを組み、代々忍者としての技術と誇りを受け継いできた我が芹沢家が……」
まずい。ご先祖様やわが家の歴史の話が出てきた。こうなると長いんだよね。
「ストーップ! そろそろ朝ご飯食べないと、学校に遅刻しちゃう!」
「確かに。今ごろお父さんの分身が朝ごはんの準備をしてるから、茶の間で待ってなさい」
というわけで、それからすぐに朝ごはん。
ただその途中も、さっきの話は続く。
「じゃあ真昼は、将来なりたいものがあるわけじゃないんだな。だったら忍者でもいいじゃないか」
「これからなりたいものが見つかるかもしれないじゃない。なのに絶対に忍者になるなんて言えないよ」
お父さんの質問に答えながら、味噌汁を飲んで二杯目のご飯を平らげる。
修行で体を動かした分、お腹が空いてるの。
「だったら真昼は、どうして毎日修行してるんだ? 真面目にやってるから、てっきり忍者になるものだと思ってたんだぞ」
「お仕事にするつもりは無いけど、鍛えたり忍法使えたりすると、役に立つことがあるからね」
「役に立つこと?」
そこまで話すと、お父さんはちょっぴり目を細める。
「まさかとは思うけど、人前で忍者だって話したり、忍法を使ったりはしてないよね。忍者の正体は、絶対に秘密だから」
忍者ってことは、絶対に誰にも話しちゃダメ。小さい頃から、何度も言われてるの。
「大丈夫。友達にも言ってないし、忍者ってバレるようなこともしてないから。それより、もう学校行くね」
「仕方ない。忍者になるかは、帰ってきたらじっくり話そう」
えっ、まだ続くんだ。
お父さん、よっぽど私を忍者にしたいみたい。
「ちょうど今日、これからの修行について重大発表があるんだ」
「重大発表? なにそれ?」
そんなの初耳なんだけど。
「おっ。知りたいか。これを聞いたら、真昼だってもっと修行を頑張ろうと思うだろうし、そうしていくうちに、やっぱり将来忍者になりたいって思うかも……」
「あっ、もう行かないと!」
お父さんはまだ何か言いたそうだったけど、さっさと家を出る。
重大発表ってのはちょっと気になるけど、遅刻しないかの方が大事だもん。
小学生と忍者修行。その両方をやるのは大変だ。