第1話 我が家は代々忍者やってます
「わわっ。寝坊した!」
私、芹沢真昼の朝は、いつも忙しい。けど今日は、特別忙しかった。
目が覚めて時計を見たら、起きる時間はとっくにすぎてたの。
早く起きないと、お父さんに怒られちゃう。
って言っても、学校に遅刻するってわけじやないの。外はまだ真っ暗。こんなに早く起きる小学五年生って、あんまりいないんじゃないかな。
「真昼ー、起きたかー」
「いま行くー」
お父さんの声に急かされながら、素早く着替える。その格好は、黒い頭巾に真っ黒な着物。そして背中には刀。
忍者みたいって思った君、正解!
実は私の家は代々忍者やってて、毎朝その修行をしてるの。
今日の修行は、家のどこかにいるお父さんを見つけ戦うこと。
廊下を音もなく走り、お父さんを探す。
なかなか見つからないけど、見えないからっていないとは限らないの。
「気配を感じとって……そこっ!」
懐から取り出した手裏剣を、壁に向かって投げつける。
その瞬間、壁がフワッと動いて男の人が現れた。
「こんなにすぐに見破るとは。腕を上げたな」
黒い着物に頭巾っていう、私と同じ忍者スタイルのこの人がお父さん。
今まで姿が見えなかったのは、隠れ蓑っていう壁と同じ色の布で体を覆って見にくくしてたからなんだ。
「だが勝負はこれからだ!」
お父さんはそう言うと、懐から巻物を取り出し叫ぶ。
「忍法、分身の術!」
次の瞬間、お父さんの四人に分裂して私を取り囲んだ。
「じゃあ私も。分身の術!」
お父さんと同じように、巻物を取り出し叫ぶ。
四人に増えた私とお父さんが、手裏剣や刀で大激突!
って言いたいところだけど、ほんの少し戦ったら、私の分身はすぐに消えちゃった。対してお父さんは、さらに倍の八人に増えたんだ。
抵抗したけど、結局八人のお父さんに取り押さえられて負けちゃった。
「隠れ蓑を見破ったのは良かったが、それからがダメだったな」
「うぅ〜っ。もっと長く分身が使えたら」
「真昼の分身は使える時間が短いから、タイミングを考えるべきだったな。プロの忍者になるには、まだまだ修行が必要だな」
修行は勝ち負けだけじゃなくて、こういう反省まで含めての修行なの。
けどちょっと待って。今の言葉に、聞き逃せないやつがあるんだけど。
「私、プロの忍者になるつもりはないよ」
「な、なにっ⁉」
あんぐりと口を開けるお父さん。
あれ? そういえば、お父さんには言ってなかったっけ。
「だって、もう21世紀だよ。令和だよ。今どき忍者なんて、時代遅れじゃない」
「なっ……なっ……なっ……」
とたんにお父さんは、ガックリと膝を着いちゃった。
もしかして、まずいこと言っちゃった?