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九 自由を求めて

「これで終わったの……?」

「ああ。おまえたちがここを出ても誰も追ってこない」

「そっか……自由になるんだね。みんな」

「おまえもだ」

「えっ…だって私はここを出たら村木の」

「依頼内容を忘れたか?おまえの依頼は〝自由になりたい″だ」

どういうこと?

「鯨螺の仲間を殺す合間にやっておいた」

「ありがとう……」

予想外だった。

まさか村木まで殺すなんて。

「こいつらは?おまえの仲間はなぜ殺された?」

横たわる夏樹と恋華の亡骸を指して聞いてきた。

私は起こったことを説明した。

「そこまでの状況でおまえはなぜ口を割らなかった」

「あなたと約束したから。破ったら殺すでしょう?」

「まあな」

「それに私の依頼のために命を懸けてくれてるあなたを裏切る選択、私にはなかった」

邪羅威は冷たい瞳で私を見ると、くるっと背を向けた。

「適当な頃合いで他の奴らを連れて街へ行け。そうすればここから永遠に解放だ」

そう言って歩き出した。

「待って!お金!」

「いらん。最後の標的を殺し損ねた。完遂できなかった仕事の報酬は受け取らない」

「いいじゃない!」

「俺は俺のルールでのみ生きている」

「じゃあ……私も連れて行って!」

「なに」

邪羅威が脚を止めた。

「あなたと一緒に私も連れて行って!」

「なぜ?」

「私も自由になりたいから!本当の意味での自由に!あなたの傍にいれば、その術が分かると思う!」

背を向けていた邪羅威が振り向く。

「私も地獄の王になりたいの」

「ほう」

邪羅威の瞳に残虐な光が宿る。

「そいつを殺してどうだった?なにか感じたか?」

「なにも……ただ〝自由になりたい″としか思わなかった。後悔とか罪悪感なんて見当たらない」

「それでいい」

私の前に来た邪羅威は腕を伸ばし、私の顔にかかる血まみれになった髪を払った。

「名前は?」

「愛泉」

「俺は金で抱ける女に興味はねえ。だがお前はもう違う。それに別格だ」

「あなたもね……極悪だけど外道じゃない……極上ね」

「極上か。悪くねえな」

邪羅威はフッと笑った。

私も血塗れの顔で微笑んだ。

「どうせ外に出てもクソみたいな世の中でクソみたいな奴しかいないし……似非ばっか」

でも邪羅威は違う。

私が今まで生きてきた中で出会った、たった一つの真実だ。

「おまえを仕込むのも一興だ。殺戮の日常についてこい。愛泉」

「うん……」

血の香りが充満する中で私はようやく辿り着いた気がした。

自分を「人間」として認めてくれる相手に。

私の胸の奥に宿るこの気持ちはなんだろう?

まっすぐ言葉にできないような、邪羅威に抱く気持ち。

まるで心が溶けてくる。



邪羅威とここを発つ前に、日向に邪羅威に支払うはずだったお金を渡した。

日向はホールで起こった凄惨な出来事を知らない。

私たちの計画も何も。

もう会うことはないだろう。

さようなら日向……。


この世は地獄だ。

奪い、殺し、憎みあう。

人は地獄の中でルールを作り、偽りの天国を作った。

私はそこに真実も自由も見いだせない。

自由も真実も〝悪″にある。

極上の悪に魅せられた私にとって、それ以外は似非にしか感じない。

エゴの塊のモラルや偽善に染まるなら、極められた極上の悪を知れ。

そうすれば解放される。


あなたは?

あなたは自分の中の悪の誘いに身を委ねる?



END


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