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八 絶対悪の刃

「どうした!?」

「く、車がいきなり爆発しました!それも全て!!」

「なにっ!?……ん?」

肩で息をする黒服の顔をまじまじと見て鯨螺が首を傾げる。

「おまえ、その顔どうした?」

「えっ?」

「それだよ。なんで顔の真ん中に赤い線ひいてるんだ?ふざけてんのか?」

「えっ?線……?線って……あれれ……」

パカッ……パリパリパリ……

黒服の顔には確かに赤い線があり、それが徐々に太くなり股間まで達した。

「あ、あれ?なんか変…ボス……」

脳天から黒服の体が真っ二つに別れた。

ぶしゃあああああーー!!

噴水のように血を噴き出して二つにわかれた体が左右に倒れる。

「わわわわッ!!なんだこりゃああッ!?」

鯨螺は斧を取り落とし、腰を抜かしたように床にヘタった。

「フン…。来たな」

アドルが短く言う。

するとドアの陰から人が現れた。

スリーピースのブラックスーツ。

右手にはギラギラと光を反射する日本刀。

邪羅威だ!!


「来たな。邪羅威」

アドルが不敵に笑う。

「ア、アドルさん!お願いします!」

鯨螺が後退りしながら叫んだ。

アドルが一歩前に出る。

すると邪羅威は止まった。

「おまえが邪羅威か?」

「そうだ。誰だおまえ?」

「フフッ…。死にゆく者に名乗る必要はない」

「いいねえ~。自信たっぷりだ」

邪羅威の双眼に殺意が篭った。

ゾゾゾゾゾッ……!!

背筋が震えるほどに寒気が走る!

はじめて二人になったときに感じたプレッシャーとは比較にならない……。

鯨螺も、部下の黒服達も、邪羅威から発せられる殺意に震えだした。

「なかなかの殺意だな」

アドルの顔からさっきまで浮かんでいた余裕が消えたように見えた。

「まだまだ。こんなもんじゃねえ」

反対に邪羅威が笑う。

そのまま腰を屈めて抜刀の姿勢になった。

「おまえ本当に刀だけなのか?」

「それがどうした?」

「フフ……フハハハハハッ―――ッ!!」

アドルが高笑いする。

「銃は剣よりも強し!この勝負決まった!」

たしかにそうだ。

邪羅威とアドルの距離は10メートル近い。

一足飛びに距離を詰めるには遠すぎる。

この時点で銃が圧倒的。

加えてアドルの風よりも速い射撃術。

「邪羅威……」

私は呻くように名前を口にした。

「そいつは人の理屈だ。人を超えた俺にはあたらねえ」

なおも邪羅威には余裕がある。

どうやってこの危機を!?

「あっ……」

邪羅威から発せられていた殺意が消えた。


邪羅威はさっきまでと変わらずに、斜に構えて腰を落としたまま。

腰の横に刀を構えてる。

静かだ……

アドルも鯨螺も部下たちも一言も発しない。

殺意の代わりに張り詰めたような緊張感が場に満ちた。

私は邪羅威の姿を凝視した。

瞬間、邪羅威がカッと双眼を見開いた。

「きゃあっ!」

突風のような殺意が自分にあてられた!!

そう感じたきにものすごい音がした。

ドンッ!!

見ると邪羅威の姿は一足飛びに距離を半分、目にも止まらぬ速さで詰めた。

元いた場所の床がひび割れて凹んでいる。

アドルは――!?

えっ…!?

アドルはコートの中に手を入れたまま固まってる。

なんで!?

ドンッ!!

邪羅威がさらに床を蹴ってアドルに向かって距離を詰めた。

「うおおっ!!」

アドルは我に返ったように銃を抜く。

しかし邪羅威はもうアドルの一歩前の場所にいた。

ここまでのことは、本当に瞬きするような刹那の出来事だった。

「遅え」

邪羅威の手元、腰から上に閃光が煌くと、アドルの右手、肘から先が銃を握ったまま鮮血をまき散らしながら宙を舞った。

「うわあああああッ!!」

アドルの悲鳴が上がる。

「弱えな」

上段に振り上げた刀を振り下ろす邪羅威。

速すぎて私には光が走ったようにしか見えなかった。

「な、なんだ!?どうなった!?」

我に返ったように鯨螺が叫ぶ。

見てなかったの!?

「こ…これが邪羅威…」

アドルが呻くと、体の後ろから裂けはじめ真っ赤な血を噴き出しながら倒れた。


「わわわわわ―――ッ!!!撃て撃ておまえら!!」

鯨螺に言われて部下の黒服たちが懐の拳銃を抜こうとする。

しかし、それよりも早く邪羅威は彼らの前に来た。

「うわあああ!!」

「ひいいいい――!!」

パニックになった部下たちは次々に倒された。

悲鳴と鮮血が飛び交う。

銃弾は邪羅威の動きをとらえることはできず、刀の煌きが走るたびに首が飛び、胴が別れた。

相手が血を噴き出して倒れる凄惨無比な中で、邪羅威は笑みを浮かべている。

殺戮を楽しんでいる。

悪魔……!

まさしく悪魔だ!

恐ろしさに体は震えるが目が吸い付けられるように離れない。

邪羅威の動きは舞のようで、血飛沫を纏い、殺戮を喜ぶその姿は恐ろしくも美しく見えた。


「ひいいいいい!!!」

鯨螺が悲鳴を上げて逃げ出した。

私は咄嗟に、手元に落ちていた斧を拾い飛びかかる。

自由になる!

自らの手で自由を勝ち取る!!

頭の中に無残に殺された夏樹と恋華の顔が浮かんだ。

「鯨螺!!」

私に呼ばれて振り向いた鯨螺の顔……

その真ん中に振り下ろした斧が経験したことのない手応えと共にめり込んだ。

鯨螺はゆっくりと膝を折って倒れる。


殺した……。

また人を殺した……。

「俺の獲物を奪いやがったな」

後ろからの邪羅威の声を聞いて振り向く。

二十人近かった鯨螺の部下たちは全員血の海に倒れていた。

その中をゆっくり邪羅威が歩いてくる。

「チッ」

舌打ちと共に刀を鞘に入れた。



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