一 人殺しを決めたとき
雨……
窓を濡らし流れ落ちていく。
寝室に戻る途中に、窓を叩く雨を見て足を止めた。
私は雨が好き。
それは道路にある汚いものを洗い流してくれるから。
だから雨の翌日はもっと好き。
なんだか自分の中のなにかが清々しくなった気がする。
でも雨では洗い流せないものがある。
それは腐った大人たち。
善人面して見え透いたことを言い、裏ではどろどろのきったない奴ら。
客の神父から聞いたことある。
昔神様は腐った悪人が住む街を大洪水で押し流した。
塵芥とともに腐った連中は洗い流されたってわけ。
でもこの街にはそんなことは起こらない。
街の悪人の方が神様より強いから?
とにかく大事なことは……
こいつらがいたら私は自由になれないってことだ。
でもそれももうすぐ……
もうすぐだ。
部屋に戻ると真っ暗な部屋の中を歩いて、自分のベッドに音をたてないように気を遣いながら横になる。
ふう……疲れた……
「ねえ?上手くいった?」
右隣のベッドから夏樹が小声で聞いてきた。
「うん」
「マジで?大丈夫!?」
左隣から恋華が同じように小声で、でも少し興奮気味に聞いてくる。
「依頼はできたよ」
「良かった……」
「今はいくらある?」
「みんなの分合わせて一千万円……」
一千万円。
これが私たちが三年間貯めた額。
この部屋に寝ている……
私や恋華、夏樹の他にも、みんなが自由を求めて貯めてきたお金。
「大丈夫かな……?バレないかな?」
恋華が不安そうに言う。
「そこは腹括るしかないよ。もうやっちゃったんだから」
こんなことがバレたら殺される。
「そうだね……」
「わかった」
二人の顔つきも変わった。
「朝になったら…みんなに話そう」
「「うん」」
ついさっき……
私は自由になるために人を介して「殺し屋」に人殺しを依頼した。
なぜ私たちが「殺し屋」なんて頼んだか?
どうして人を殺そうと思ったか?
それは三年前に遡る。