八、人材募集
閻魔庁へと帰ってきた私達は、翌日から早速書類仕事に追われていた。私は篁さんに提出する女性亡者向け衆合地獄についての企画書の作成、錦さんは衆合地獄に付随する小地獄の改善点などについてまとめていた。
「地獄にもパソコンがあって良かったです。無かったらどうやって資料作ろうかと思ってました。」
「ここにあるのは古い型のデスクトップだけどね〜」
「地獄では何百年も働いている者が多いので、今でも主流は手書きですからね。最近の若い獄卒はパソコンを使える者もいますが。」
「じゃあ亡者の記録とかも全部手書きで保管してあるってことですか?」
「えぇ、その辺りは書記課が全て管理していますね。」
「すごいですね。現世じゃとても考えられないです。」
「私からしたら茜さんみたいにパソコンを使える方がすごいですよ。錦も新しいもの好きなのである程度は使えるようですが。」
「まあね〜。現世でバリバリ使ってたであろう茜ちゃんには負けるけど!」
「これでも一応何年も会社員をやってましたので!……よしっ!企画書出来ました!」
完成した企画書は涅さん錦さんに確認してもらい、無事OKを貰った後に印刷してそのまま篁さんの所へ提出に行くことになった。篁さんは基本的に閻魔大王の裁判に付き添っているため、裁判が終わる時間を狙って行くことにした。こういう時現世だったらメールに添付で一発なのに……と思わないでもないが、ここはあの世なので仕方がない。そろそろ終わる頃かと思い裁判所へ向かうと、扉の前では謁見待ちの獄卒たちが列を成している。
「大王へ直接の御用がある方はこちら〜、篁さんへ御用がある方はこちらに並んで下さ〜い!順番にお願いしま〜す!」
裁判所で働く獄卒の華麗な列整理に、まるでアイドルの握手会みたいだななんて思いつつ並んでいると、急に後ろの人から声をかけられた。
「あの……」
「あ、はい!何でしょうか?」
パッと後ろを振り向くと、大柄で筋肉質な男性獄卒が私を見下ろしていた。あの世に来てから知ったことだが、鬼は基本的に現世の人間よりも大きいようで初めの頃は少々驚きもしたが、涅さんや錦さんと仕事をするうちにそんなことにも慣れてきていた。しかし、2人よりもさらに大きく強面な男性に間近で話しかけられたことで一瞬固まってしまう。すると大柄な鬼は腰を屈めて「これ……」っと低い声でボソッと呟きながら何かを差し出した。その大きな手元をよく見ると、そこには1枚のピンクの付箋があった。
「……あ、私の付箋……落としちゃってたんですね。ありがとうございます!」
「いえ……」
彼を見上げる形でお礼を言うと、どこかホッとした様子で僅かに口角を上げて笑った。そのささやかな笑顔は最初の印象からは想像もできないほど優しげで、大きさだけで思わず萎縮してしまったことになんだか申し訳ない気持ちになる。そうこうしているうちにやっと私の順番が来て、後ろの彼に軽く会釈をして篁さんの元へと向かう。
「おや、茜さんじゃないですか。久しぶりですね。」
「お久しぶりです。」
「地獄での仕事には慣れましたか?」
「皆さんのおかげでなんとか……今日は企画書を持って来たんですけど……」
「涅さんから話は聞いていますよ。衆合地獄の件ですよね?どれどれ……」
篁さんがパラパラと資料に目を通す。これが地獄での初仕事なだけに、普段よりも緊張してしまいなんだか落ち着かない。普通の仕事でも上司からのチェックは些か緊張するものだが、今の私には今後の生活がかかっているのだ。何としても私が地獄において役立つことを証明しなければ、今度こそ転生させられてしまう。タイムリミットは私の一周忌までだ。
「……ふむ。なかなか面白いですね。」
「それじゃあ……」
「ええ、良いと思いますよ。この案で進めて下さい。」
「ありがとうございます…!」
「問題の人員ですが、地獄の内外問わず募集してみましょう。人事部にはこちらから言っておきます。」
「わかりました。では人材募集のポスターを作っておきますね!」
「ええ、良い人材がいたら直接スカウトしても構いませんからね。」
あの世に知り合いはいないのでスカウトはなかなか難しいのではと思いつつも、「わかりました!」と返事をして篁さんの元を後にする。帰り際に先ほど付箋を拾ってくれた彼とすれ違ったので、笑顔でペコッと軽く挨拶をして改革課の居室へ戻った。それから私は直ぐに現世での知識をフル活用して人材募集のポスターを作り上げ、閻魔庁の中にある掲示板や閻魔庁近くのお店など数箇所に貼り出してもらった。後は応募が来るのを待つだけである。
「応募、来ますかね……」
「大丈夫だって〜!ポスターいい感じだったじゃん!」
「ええ、かなりいい出来だと思いますよ。茜さんは現世でもそういったお仕事をされていたんですか?」
「いえ、現世では普通の事務員で、たまに社内の啓発ポスターを作ったり社内ホームページの作成を手伝ってたぐらいで……」
「えー!すごいじゃん!やっぱこういうのってセンスだよね〜。」
2人とたわいもない話をしながら仕事を進めていると、トントンっと軽くドアを叩く音がした。
「おや、誰ですかね。……はい、どうぞ。」
「失礼しますね。」
「あ…!白百合さん!」
「茜ちゃん、久しぶりね〜!」
扉から手を振りながら現れたのは、衆合地獄へ見学に行った際にお世話になった白百合さんだった。そして白百合さんの後ろに隠れるように、もう1人見知らぬ男性がそそくさと入って来た。
「ポスター見てきたんだけど、この子はどうかしら?私の弟なんだけど……」
そう言って白百合さんは後ろに隠れていた弟をグイッと引っ張って私の前に立たせ、挨拶しなさいとでも言うように背中を叩いた。
「……あっ、えっと……月白って言います。よろしくお願いします……」
自信なさげな様子でそう小声で言った彼は月白くんというらしい。白百合さんの弟というだけあって、その美貌は流石のものだった。白く透き通るような肌に、長いまつ毛はうるうるとした瞳を際立たせている。白百合さんと同じく雪のように白いふわふわした髪からは、ぴょこんと狐耳が生えていて思わず触りたくなってしまう可愛さだ。
少々猫背だが身長は170中盤くらいだろうか。本人は自身なさげで終始不安そうな様子だが、正直この顔だったら立っているだけで仕事になるので問題ない。そしてこの可愛さは年上のお姉さん受け間違いなしだろう。採用!!!!!