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七、邪淫 ⑵


 「――ここが団処(だんしょ)で、牛や馬を相手に性行為を行った者が落ちるところね。亡者は炎によって身体が焼き尽くされるわ。そして隣の朱誅処(しゅちゅうしょ)は羊やロバ相手に行為を行った者が落ちるところで、鉄の蟻に肉や骨を食べられるの。」

 

「動物系は1箇所にまとめてもいいんじゃないでしょうか?」

 

「実際かなり特殊な罪だしね。ちなみに現世では動物って身近にいるの?」

 

「うーん、犬や猫ならペットとして飼ってる人は結構いると思いますけど、牛とか馬ってなると牧場とかに行かないといないかと……羊やロバもそうですね。牛や馬より珍しい気がします。」

 

「そうなんだ〜。じゃあ何の動物かは限定しないで、動物全般でまとめた方が良さそうだね。紅梅(こうばい)さん的にはどうです?」

 

「そうね〜、確かに滅多に新しい罪人は来ないし、問題ないと思うわ。」

 

「じゃあこれも帰ったら要検討ということで……」

 

「さぁ、次がメインの刀葉林(とうようりん)よ。ちょうど誘惑係の子達も休憩中みたいだから行ってみましょうか。みんな〜、地獄改革課の方が見学に来たわよ〜!」


 それからは冒頭の通りで……

 

「あら、貴方が噂の子?想像より遥かに可愛いじゃない!」

 

「閻魔大王に啖呵切ったんだって?お話聞かせて〜」

 

「ちゃんと着飾ったらうちでも働けそうじゃない?誰か化粧道具持って来て〜!」

 

 衆合地獄で働く獄卒は、女性は誘惑係、男性は拷問係の2種類しかいない。そして誘惑係のお姉様方は皆さんとても大迫力な美人のため私のような平凡な女が珍しかったのか、それとも単純に人間が珍しかったのかはわからないが、珍しいおもちゃでも見つけたかの如く可愛がられることになってしまったのだ。それに私が裁判でやらかした事も何故か尾鰭がついた噂として広がっているようで……

 

「よしっ!出来たわよ〜!どう?大成功じゃない?」

 

「ちょっとこっち向いてみて?わぁ〜!可愛い〜!」

 

「もう、その辺にしてあげなさいな。ごめんなさいね〜、うちの子達が。」

 

「い、いえいえ……」

 

 お姉様方の努力の甲斐あって、私も花魁風の煌びやかな姿に見事変身を遂げた。もちろん誘惑係のお姉様方には到底敵わないが、それでもそれなりの見た目にはなったのではないだろうか。

 

「わっ!茜ちゃんすごい華やかになったね〜!似合ってる!」

 

「あはは……ありがとうございます……」

 

「せっかくだし、実際に体験してみたら良いんじゃないかしら?」

 

「体験ですか?」

 

「えぇ、刀葉林で亡者を誘き寄せる体験よ。」

 

 そう言った紅梅さんの一言により、ただの見学から一転。私は衆合地獄で誘惑係のお姉様方に混ざり、一緒に亡者を誘き寄せることになった。そんな私の指導についてくれたのは、白百合(しらゆり)さんという白狐の妖。

 

「なるほど……こうすると普通に登れるようになってるんですね。」

 

「そうなのよ〜。それで亡者が上まで登って来たら、今度は私達が降りて下で誘惑するの。じゃあ早速やってみましょうか。」

 

 そうして刀葉林での体験をすること1時間。私も何人かの亡者を誘き寄せて林を登らせ、苦しみを与えることに成功した。正直生前の私怨も相まって、性欲に溺れた男に罰を与えることには何の罪悪感も感じなかったので助かった。

 

「茜ちゃんほんとに初めて?十分うちで働けるわよ。」

 

「いえいえ、そんなそんな……」

 

 私は生前普通の事務員として働いていたが、休日はお金のために副業としてガールズバーやコンセプトカフェで働いていたこともある。そのためこういった仕事には特に抵抗も無いし、どちらかというと慣れていると言えなくも無い。そしてそういう仕事をしていると、どうしてもこの地獄に落ちるような部類の男達とも関わりが出来るので、生前の私怨から心置きなく仕事ができた。

 

「そういえば、地獄改革課って各地獄の相談事も受け付けてたわよね?」

 

「はい。何かお困りごとがあるんですか?」

 

「実はあそこなんだけど……」

 

 そう言って白百合さんが指し示した先には、誘惑係の美女達には目もくれずに林の前で座り込んでいる男が数人いた。

 

「たまに居るのよねぇ〜私達がいくら誘ってもなびかない亡者。あの調子でずっと座ってて、全然林に登ってきてくれないから罰が与えられなくて困ってるのよ……」

 

「なるほど……それは困りますよね。」

 

「なになに〜?どうしたの?」


 私たちの話を聞いて入ってきたのは錦さん。私が刀葉林で体験を行っている間は、紅梅さんと仕事の話を進めていたようだ。

 

「それが、あそこの人達が全然誘いに乗らなくて罰を与えられないみたいで……男性目線だと何が原因だと思います?」

 

「う〜ん、そうだなぁ〜……シンプルにあの亡者のタイプじゃないとか?」

 

「え!でもみなさんめちゃくちゃ美人じゃないですか…!」

 

「もちろんそれはそうなんだけど。」

 

「……はっ!もしかして美人すぎてダメとか…?」

 

「そんなことがあるの?」

 

「ちょっと素朴な子の方が好きとかあるもんね。」

 

「それです…!皆さんは現世だとなかなかいないレベルの高嶺の花の綺麗なお姉さんって感じで、どちらかというと高級キャバクラとかラウンジ寄りだと思うんですよね。でも中には素人っぽい素朴な子とか、垢抜けきってない子が好きな人も結構いて、そういう人はキャバクラじゃなくてメイド喫茶とかコンセプトカフェに行くんですよ。」

 

「なるほど…?」

 

「ちなみに白百合さんって狐の妖でしたよね?」

 

「えぇ、私は妖狐よ。」

 

「じゃあもしかして変身とかって出来たりしますか…?」

 

「変幻なら出来るけど……」

 

「わぁ〜!やっぱり出来るんですね!じゃあ人間の高校生ぐらいの女の子に化たりとかって……」

 

「こんな感じかしら?」

 

「最高です!ちなみに髪型と服装も変えられますか?こんな感じで……」

 

 狐の妖というと姿を変えて人を化かすイメージがあったのでお願いしてみたのだが大正解だった。これでどんな好みにも合わせられる為、もはや亡者は抗えないだろう。更に服装は日本人男性の好きなアレでお願いしておいた。それから台詞や表情の指導もして、いざ亡者の元へと向かう。

 

「ねぇ、お兄ちゃん…?」

 

「……!!」

 

「何でそんな遠くに座ってるの…?」

 

「えっ?あっ、えっと……その……」

 

「そんなに遠かったら寂しいんだけど……」

 

「……!あ、はいっ……今そっちに行くからね……へへっ」

 

 こうして端の方でただ座っているだけだった亡者はみるみるうちに刀葉林を登り始めた。白百合さんに変幻してもらったのは制服姿の10代の女の子だ。髪は黒髪ツインテールで靴下はニーソックス。これでロリコン共はイチコロだろう。

 

 「お〜!本当に動いた。現世ではああいうのが流行ってるの?」

 

「流行っている訳ではないんですけど、なんていうか一部の層からは絶大的な支持があるというか……王道、みたいな?」


 秋葉原のメイド通りで5万回は見たであろう風貌の亡者だったので、勝手な偏見からこの様な姿に変幻してもらったが思いの外上手くいったので良かった。

 こうして見学も終え、無事問題も解決した私達は衆合地獄を後にすることになった。ちなみに白百合さんたち誘惑係のお姉様方には他にもいくつかマニア受けしそうなものを伝えておいたので、しばらくはどんな亡者が来ても大丈夫だろう。

 

「今日はありがとうございました!」

 

「いえいえ〜、こちらこそよ。またいつでもいらしてね。」

 

 最後に紅梅さんに挨拶をしていると、刀葉林の上から白百合さんが手を振りながら声をかけて来た。

 

「茜ちゃん!誘惑係の男獄卒の件だけど、見つからない時は声かけてね!良いの知ってるから〜!」

 

「はーい!ありがとうございます!」

 

 白百合さんとは何だかこの1日で少し仲良くなれた気がした。あの世へ来てからというもの周りは大柄の男性たちばかりだったので、職場に同性の頼れるお姉さんがいるというのはなんだか嬉しい。

 

「じゃあそろそろ帰ろっか。閻魔庁に!」

 

「はい!」

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