四十五、報告
「はははっ!それでその妖を倒したってのか?良くやったじゃねぇか!」
「でも本物じゃ無くて幻覚だったんですけどね。」
「幻覚だったとしても、その攻撃のお陰で消えたんだろ?初めての実戦にしては上出来だ。」
「そうでしょうか…?」
「あぁ、もっと自信を持て!自信を!」
今日は土曜日。仕事は休みなのでいつもの様に道場に顔を出し、護身術を教えてもらいながら先日阿鼻地獄で起きた出来事を話していた。あの時は何が起きたのかも分からず、無我夢中で教えられた事を必死にやっただけだった。結果的には妖に多少のダメージを与えて幻覚も溶け、なぜか山ン本さんのご機嫌もとることが出来たのでまあ良しとしよう。
「それにしてもこの細っこい腕はどうにかならねーのか?」
「うっ……結構食べてはいると思うんですけど……」
元々痩せ型で筋肉もつきずらい体質のようで、食べても栄養になっているのかいないのか。現世だと女性は痩せている方が良いみたいな風潮があるが、そんなものはあの世では何の役にも立たないのである。
「でも、ちょっと筋肉ついてきた気がしませんか?ほら…!」
「うーーーん、そう言われればそんな気がしないでもないような……」
着物の袖を捲り、精一杯腕に力を入れている私とそれを見ながら真面目な顔で首を傾げる土方さん。そして側にはそんな私たちの様子を見ながら、ニコニコと穏やかな笑みを浮かべている近藤さんがいた。
「ハハッ、何だか昔の賑やかな頃に戻ったみたいだな。」
「まあ若いのがいると活気があっていいかもな。」
「たしかに俺たちはもうだいぶ歳をとってしまったからなぁ。」
当然と言えば当然のことだが、見た目は生前と変わらず30代前後に見えている彼らも、実際の年齢はとうに100を超えている。
「そう言えば、平助がちょうど茜くんと同じぐらいの歳だったな。」
「たしかにそうだな。アイツは俺らより先に死んじまったが、今頃どうしているのか……天国は無理だとしても、転生出来ているといいんだがな。」
「あぁ!茜くんは知らないと思うが、俺たちが生前率いていた新選組という組織に藤堂 平助という隊士がいてな……若いながらに中々腕の立つ優秀な男だったんだよ。しかし、どうして君達みたいに若くて有望な人材は早死にしてしまうのか……」
近藤さんは私が知らないだろうという前提で丁寧に説明してくれているが、実は私はすでにその人物の名前を知っている。
「あの……藤堂平助さん、知っていますよ。今転生しているのかどうかは残念ながらわかりませんが……現世でも新選組の皆さんの活躍は記録に残っていて、その中に藤堂さんのお名前もきちんと書かれています。」
「そうか…!そうか…!!俺たちのやって来たことが後世に残っているだなんて、なんだか嬉しいなぁ。」
「そうだな。しかし普通そういうのは勝った新政府軍のことが良く書かれてるもんじゃないのか?」
確かに歴史は勝者によって作られるなんて言う言葉もあるが、少なくとも私が知っているのは新選組の存在が悪として教えられているような事実は存在しないということだ。
「うーん、どうなんでしょう?でも新選組は現世でも人気がありますよ。」
「そうなのか?」
「はい!新選組の活躍がモデルになった物語は沢山作られていて、漫画アニメ小説ゲーム、映画にドラマ……本当に沢山ありますよ。」
「ははっ、そんなことがあるんだなぁ…!知らなかったよ。」
現世に自分たちの功績が残っていると知って嬉しそうな顔を見せる近藤さんを見ていたら、つい、言うつもりの無かった自分の話までしてしまった。
「それで……あの……実はずっと隠していたのですが、私もその物語を読んで生前から皆さんに憧れていまして……」
「……ははっ!そう言うことは早く言え!」
「でも、稽古を受けに来る人が自分たちの事を好きでよく知っているなんて嫌じゃないですか…?」
「そんなことは無いさ!なぁ、トシ?」
「そうだな。それで、実際俺たちに会ってどうだった?想像と違って幻滅でもしたか?」
そう笑いながらあえて意地悪に聞く土方さんの顔は、どこか悪戯げな子供のようだった。
「そんなまさか…!!想像より素敵な人たちだなって……本当に強くてかっこいいなって思いました。」
「ははっ!そうだろう?まあ俺は特に男前だからな。」
土方さんは冗談のように言っているが、本当に顔が良いので否定できない。
「ありがとうな、茜くん。なんだか君の言葉で生前の俺たちも報われた気がするよ。」
「俺たちみたいな敗者は歴史から消されるか、悪者として書かれるのが関の山だと思っていたからな。」
「平助のことも知っているということは、もしかして沖田や永倉、原田のことも知っていたのか?」
「はい……皆さん隊を任されている方ですので……」
「ははっ、アイツらに言ってやったらきっと喜ぶぞ。」
その後、帰って来た3人に近藤さんと土方さんが先程の話をすると、皆その程度こそ違えどそれぞれに喜んでいる様子であった。こんなことならもっと早く話すべきだったかとも思いつつ、とりあえずお世話になっている人たちの笑顔が見れたので良しとしよう。ここにもあと何回来ることが出来るか分からないが、確実にあの世にいられる残り僅かな期間、仕事以外のところでも悔いの残らないように過ごしたいと思った。




