四十一、石積み ⑵
そうして賽の河原から戻った私は早速計画を練る。賽の河原の実情を知った私は、あそこにいた子供達のためにも何としてもその仕組みを変えなければならないという使命感に燃やされていた。
「あれ、茜ちゃん帰って来てたんだ〜。賽の河原はどうだった?」
「要望は子供達が石を積まないからどうにかしてくれって事だったんですけど……」
「うんうん……あれ、なんか険しい顔になってない?」
「……錦、今はそっとしておいた方が……」
「そもそも賽の河原って誰が考えたんですかね…?」
「うーん、誰だろ?初期からあるだろうし大王達かイザナミ様かその辺の誰かじゃない?」
「あんなの設計ミスですよ。1日12時間も子供達にただ石を積ませるとか意味わかりませんし。そりゃ誰もやりませんって。そもそも親より先に死んだからって何なんですか?何も悪いことしてないでしょ。死にたくて死んでるとでも思ってるんですかね?全く……」
「え、なになに……なんか怒ってない…?」
「だからそっとしておいた方がいいと言ったでしょう。」
錦と涅は出会ってから初めて見る茜の姿にどうすればいいのか分からず戸惑いを隠せないでいる。居室には、しばらくの間妙な緊張感と重々しい空気、そしてカタカタと茜が叩くキーボードの音だけが流れていた。
「よしっ、終わった……では篁さんと閻魔大王に直談判に行ってきます。」
「あ、うん、行ってらっしゃい。」
「お気を付けて……」
――――
「賽の河原 改善案」と書かれた書類を手に持ち、早速2人の元へ向かう。いつものように、裁判所の前では2人に用事のある獄卒達が我先にと列を成している。そんな獄卒達の1番後ろに並び、私の後からやって来た者がいればお先にどうぞと通して最後尾を陣取っていた。
「それではお次の方〜。貴方で最後ですね。」
「はい、篁さんと大王のお2人に用事があるのですが。」
「畏まりました。では此方へどうぞ〜」
係の獄卒に案内されて裁判所の中へ入ると、裁判終わりでやや疲れ気味な表情の閻魔大王といつもと全く変わらない様子の篁さんがいた。
「おや、茜さんではありませんか。」
「なんだ、最後は君か。」
「お疲れ様です。実は賽の河原からご相談を受けまして……様子を見に行って来たのですが、とてもそのままにはしておけないなと思い改善案を考えてきました。」
「ほう?」
「こちらをご確認頂けますでしょうか。」
私は持参した改善案を2人に一部ずつ渡し、一先ず目を通してもらうことにした。
「どれどれ……うーむ、随分と大きく変えたいようだな。」
「はい。」
「よく出来ていますが、これだと子供達に甘くなってしまうのではありませんか?」
「逆に、何故そこまで厳しくする必要があるのでしょうか?」
私はついに、1番気になっていた疑問を地獄の作成に関わっていたであろう張本人にぶつけてみる。
「それは親よりも先に死ぬことが重罪だからであってだな……子が死ぬというのは親を苦しめていることにもなり……」
「その考えがそもそもおかしくないですか?」
「何だと!?」
「子供達だって何も好き好んで死んでいる訳じゃないですよね?多くが病気だったり事故だったりですし。そもそも子供の死が親を苦しめると言いますけど、賽の河原で死んでなお罰として石を積んでいる我が子を見たら、それこそ親を苦しめることにならないですか?」
「うぬぬ……」
「茜さんの言うことも一理ありますね。それと石積みの代わりにブロックや粘土や積み木を使うと言うのはまあいいでしょう。」
「本当ですか…!?」
「しかしその時間をいきなり半分の6時間に減らすのは流石に容認し難いですね。」
「……では、8時間はどうですか?」
「短くするとしても10時間までだ。これは罰であり修行だからな。」
「大人の一般的な労働時間も8時間ですよ?それなのに10時間なんて長すぎます…!」
「では9時間でどうだ?」
「8時間…!」
「9時間…!」
「8時間…!」
「9時間…!」
「……分かりました。間をとって8時間半にしましょう。」
「やった!ありがとうございます!」
「はぁ……これだから人間の獄卒は嫌なんだ……」
――――
それから数日が経った頃、私はまた賽の河原に顔を出していた。
「お姉ちゃん見てー!ロケット作った!」
「お〜!凄いね、かっこいい!」
「私はうさぎさん作ったの…!」
「上手〜!お姉さんもうさぎさん好きなんだ〜」
と、このように、当たり一面には石しかなく永遠とそれを積んでは壊されてを繰り返していた賽の河原には、ブロックや粘土や積み木と言った現世の玩具が増えた。そもそも何故石を積んでいたのかというと、あれは仏像や仏塔の変わりのようなものらしく、石で仏塔を作り功徳を積むという考えだそうだ。従って今回用意した玩具のラインナップは、積んだり形を作ることが出来るものという観点で選んでみた。
本当は上から降ってくる様々な色や形のブロックを重ねて消すゲームや、自由にブロックを配置して街や世界を創造できるゲームなども調達したかったのだが、案の定篁さんに却下されてしまった。
「おい、仏塔を作れ!仏塔を!」
「え〜、仏塔って何?わかんないもん。」
「むむ……仏塔っていうのはこう言う形でだな……」
「すごーい!鬼さん上手!」
「本当だ〜!どうやって作ったの〜?」
「お、そうか?これはこうやってだな……」
それから積んだ石をその都度崩していた獄卒達も、崩すのは玩具が足りなくなった時と1日の最後のみに留めるようになんとか融通してもらった。よって今では1日の殆どを子供たちとの遊び……もとい監視へと充てている。
「茜さん、お疲れ様です。」
「園長……じゃなくて、楝さん!お疲れ様です。」
彼はここ、賽の河原の責任者である楝さん。鬼にしては身体も小さめで、地獄の責任者というよりは保育園の園長のような優しそうな風貌をしている。
「やはり貴方に頼んで正解でした。人間の子供のことは同じ人間の方が良くわかるだろうと思いましてね。」
「いえ、こちらこそご相談いただきありがとうございました。相談いただかなければ知らなかったことも多くて……」
こうして相談事も無事解決し、子供たちとの触れ合いで癒され若干の名残惜しさを感じながら、賽の河原を後にした。そして今度こそは本当に、今まで後回しにしていた阿鼻地獄へ行かなければならない。最も罪の重い者が落ちる、最も辛い地獄とは一体どれほどのものなのだろうか。少しの不安を感じながらも、私は阿鼻地獄へ向かう準備をする。




