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四、地獄について

 (たかむら)さんが去った後、ものすごい勢いで私に近づいてきた(にしき)さんは瞬く間に(くり)さんによって剥がされ自席に座らされていた。外から見ると暗い廊下に重厚な扉で重々しい雰囲気の部屋に感じられたが、中はいたって普通の会議室の様な造りになっており、中央に長机、壁際に個々人のデスクと思われる机と椅子が三つずつ置かれている。

 

「こちらが(あかね)さんの席になりますのでご自由に使って下さい。資料などはこの棚に入れていて、備品などはこちらに入っていますので……」


「ありがとうございます。あの、もしかしてこの部署って3人だけなんですか?」


「そうそう!昨日まで俺と涅の2人だったの!」


「えぇ、なにせ昨年新設された部署でして……」


「そうなんですね。」

 

どうやら篁さんの言っていた地獄の人手不足は本当に深刻なようだ。そして私の配属が拷問をする部署でなくて良かったと心の底から思った。

 

「それで去年から俺ら2人で明らかに使われていないような地獄はリストアップしてたんだけど、どうしても現世の実情はわからないし茜ちゃんが来てくれて助かったよ〜!」


「そうですね。浄玻璃(じょうはり)の鏡を借りて現世の様子をのぞいたり書物で勉強したりはしていますが、やはり体験しなければ分からないところも多いですし……」

 

 ちょうど現世の人間の手を借りたいタイミングで、都合よく転生拒否の私が現れたわけだ。理由は何にせよ、約1年の猶予をもらい転生を免れてここで働くことが出来たのだからこれ以上のことはない。もちろん一周忌までに成果を出さなければということもあるが、せっかく迎え入れて貰っているのだから少しでも役に立てる様に頑張ってみようと改めて思った。


「――では本題に入りますが、先ほど篁さんもおっしゃっていた通り、私たちの主な仕事は地獄の見直し業務になります。地獄はかなり昔に出来た物ですので、罪状が現代だとまず起こらないようなものもありまして……そう言ったものを現世での罪と近いものに当てはめて変更したりですとか、全く使われる事の無さそうな地獄は廃止したりといった仕事になります。」

 

「まぁ他にも今バリバリ稼働してる地獄の改善要望とか、雑多な相談事なんかも獄卒から受けて都度対応してるけどね〜」


「そうですね。その辺りは他の部署とも協力しながらやっていますので追々…。そして、これが私と錦でまとめた地獄のリストになります。」

 

 ドンっと机の上に載せられた沢山の書類には、地獄の名称とその詳細、そしてどんな罪を犯した者が落ちるのか等が事細かにまとめられていた。

 

「それで、この印付けてるところは俺らが既に変更したところなんだけど、他にも俺らじゃ気づかなかった所とか、そもそもまだ目を通せて無いところも沢山あるから一通り見てもらいたくて。」


「136個もあるので大変かもしれませんが、少しずつで大丈夫なので一度目を通して確認してもらえますか?」


「わかりました!……あれ?さっき地獄は272個あるって言ってませんでしたっけ?」

 

「良いところに気づきましたね。地獄は大きく分けると八大地獄(はちだいじごく)八寒地獄(はっかんじごく)の2つに分けることができるのですが、半分は八寒地獄の所有でして…何と言うかそちらは私たちの管轄外なんです。なので我々が担当するのは八大地獄の136個になります。」


「なるほど……では、とりあえず私が気になったところに付箋か何かで書き込んでいけばいいですか?」


「話が早くて助かります。ではその方法でお願いします。」


「分からないことがあったら俺たちにいつでも聞いてね〜!」


「はい、ありがとうございます…!」


 2人から渡された資料ファイルは全部で8冊。表紙にはそれぞれ等活地獄(とうかつじごく)黒縄地獄(こくじょうじごく)衆合地獄(しゅうごうじごく)叫喚地獄(きょうかんじごく)大叫喚地獄(だいきょうかんじごく)焦熱地獄(しょうねつじごく)大焦熱地獄(だいしょうねつじごく)阿鼻地獄(あびじごく)と書かれており、中にはさらに細かく分けられた地獄の情報が書かれていた。

 

 パラパラと見ただけでもそんなことをする人がいるのかというような驚きの罪が沢山書かれているし、似たような罪でも本当に事細かく分けられているのが見て取れる。中にはこんな事も罪になるのかというような意外なものまであり、地獄のことを全く知らない私からするとなかなかに興味深い。

 

「あの……これ、優先順位とかありますか?」


「そうですね、茜さんのやり易いところからで大丈夫ですよ。と言っても、どこがどんな地獄かわからないとそれもわからないですよね。」


「……はい、すみません。」


「いえいえ、では簡単に八大地獄だけ説明しますね。」

 

 そう言うと涅さんはホワイトボードにスラスラと文字を書きながら説明してくれた。

 

「上の等活地獄が比較的軽い罪で、下の阿鼻叫喚地獄に行くほど罪は重くなります。等活地獄は必要がないのに生き物をむやみやたらと殺す、などの「殺生」の罪ですね。黒縄地獄はそこに「盗み」の悪行が加わると落とされます。衆合地獄は更に倒錯した性嗜好などの「邪淫(じゃいん)」の悪行が加わると落とされる地獄です。」

 

「浮気とか不倫もここだね〜」


「……錦、貴方はご自分の仕事を進めて下さい?ええと、次は叫喚地獄ですね。ここは酒に関係する悪事を犯した「飲酒」の罪を犯した者が落とされる地獄ですね。そして大叫喚地獄は嘘をついて人をだますなどの「妄言」の罪で……」


「あ、そこ!そこだけ他の地獄より小地獄が2種類多いから気をつけて!」


「あ、ありがとうございます…!」

 

 横目で睨みを効かせる涅さんを物ともせず、横から錦さんが口を挟む。しかし言っていることは為になるので私としてはむしろありがたいかもしれない。

 

「焦熱地獄は誤った考えを民衆に広めて実践した結果、多くの人の生命や財産を損なった「邪見(じゃけん)」の罪。大焦熱地獄は子供や尼僧など清く聖なる者を犯した「犯持戒人(はんじかいじん)」の罪。阿鼻地獄は両親の殺害や聖者の殺害など、仏教における最も重い罪を犯した者が落とされる地獄になります。簡単にですが、以上が八大地獄ですね。」

 

 涅さんからの説明を聞き、私が最初に手をつけるべく選んだ地獄は……

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