三、地獄の現状
地獄の見直しをする部署と聞いて、とりあえずイメージしていた罪人の拷問等は無さそうでホッとした反面、地獄の見直しとはどういうことなのかという疑問が新たに浮かぶ。
「茜さんは地獄についてどの程度の知識をお持ちですか?」
「えっと……生前悪いことをした人が罰を受けるところ、と言うぐらいしか……」
「そうですね。一般的な人間の認識はその程度でしょう。では生前の罪に合わせて罰が決まることはご存知ですか?」
「はい、何となくは……」
「では、その罰を受ける為の地獄は何種類ぐらいあると思いますか?」
「種類って言うと血の池地獄…とかですかね?えーっと…血の池、針山、釜茹で…うーん、30種類ぐらいですか?」
「残念、正解は272種類です。」
「えっ!?そんなにあるんですか…!?」
「えぇ、細かく分けると272種類ですね。しかしこれだけ多いと殆ど使われていない地獄もありまして。昨今は現世の少子高齢化による亡者の増加などもあり地獄も常に人手不足ですし、そもそも地獄が出来たのは大昔ですので今の情勢に合っていない所も多く、昨年から大々的に見直しを行うことになったんです。」
「なるほど…地獄も大変なんですね。」
私の簡単な相槌に、うんうん、と後ろで聞いていた錦さんと涅さんも首を縦に振っている。一体どれだけ大変なのか……
「そこで現世の事情にも詳しいであろう亡くなりたてほやほやの茜さんにご協力いただこうと思いまして。裁判中に生前の行いも見ましたが、茜さんは歳の割に色々なご経験もされている様ですし……」
亡くなりたてほやほやとは何とも嫌な表現だが、私が働かせてもらえることになった理由には納得した。確かに現代の情勢に合わせて地獄の見直しを図るなら、現代の人間に聞くのが1番だろう。人間というだけなら篁さんも人間らしいが、平安時代の生まれとの事なので現代の事情には詳しく無いだろうし。見た目的にはどう見ても30代中盤からせいぜい40代前半ぐらいにしか見えないので不思議な感じはするのだが……
「――と言うわけで、後の詳しい話は錦さん涅さんから聞いて下さい。私は大王の裁判がありますのでこの辺で失礼しますね。では。」
そう言うと篁さんはニコニコと手を振りながら部屋を後にして行った。
「相変わらず篁さんは忙しい人ですね。」
「そうだね〜。まぁなんと言っても閻魔大王の補佐官だし。」
「えぇ、1番大変なのはあの人でしょうね。では早速……」
「よしっ!じゃあ改めて茜ちゃんと親睦を深めますか!」
「はぁ…親睦は深めなくていいので業務の説明をして下さい…!!」