二十九、休息
「……お花、貰っちゃいました。」
「えー!いいなー!俺にも俺にもー!」
そう言いながら、錦さんは隣でブンブンと激しく手を振ってアピールしていた。私は檳榔子さんから貰った花飾りをどうすべきかしばし悩んだが、涅さんの案で着物の帯に挟んで身に付けておくことにした。そうして歓声冷めやらぬうちに檳榔子さんの出番は終わり、そこからは次々と綺麗なお姉様方の踊りが続いていく。お姉様方の踊りは思わず溜息が漏れるほどの美しさで、同性の私でも何だかドキドキしてしまう。溶けてほぼ液体となってしまったかき氷を食べながら見ていると、今度は真っ白な衣装に身を包んだ2人組が舞台上に現れた。
「あれってもしかして……」
「おや、姉弟での共演ですか。」
自身の毛色と同じ真っ白な衣装で現れたのは、妖狐の姉弟、白百合さんと月白くんだった。真っ白な衣装に真っ白な髪をなびかせ、ふわふわな耳と尻尾が可愛らしく揺れる。2人はれっきとした妖なのだが、その姿はまるで天使のようだ。「かわいい…!」と思わず口から漏れ出た言葉は、周りの観客達の歓声によってかき消される。普段はおどおどしている月白くんも、ステージ上での立ち回りはアイドルさながらだ。そうして大盛況のうちに衆合地獄の出し物は終幕となった。
「すごかったですね〜!これ、毎年やってるんですか?」
「うん、毎年人気でちょっとした名物になってるみたいだよ〜」
「昨年までは女性獄卒だけでしたが、今年は男性のお2人も加わってまた新鮮でしたね。」
2人とそんな話をしていると、出番を終えた獄卒達が歩いてやってくるのが見えた。すると白百合さんがこちらに気づいたのか、手を振りながら近づいてくる。
「茜ちゃ〜ん!来てたのね〜!」
「白百合さん〜!すごく綺麗な踊りで見入っちゃいました!!」
「ありがとう〜!頑張って練習したから嬉しいわ。」
白百合さんとわいわい話していると、その背後から身長ゆえ全く隠れきれていない月白くんがぴょこっと顔を覗かせてきた。
「あっ、お疲れ様です……」
「お疲れ様です!月白くんもすごく素敵でした〜!」
「あ、ありがとうございます…!!」
先ほどまでステージ上で堂々と踊り人々を惹きつけていた月白くんは、あっという間にいつもの可愛らしい彼に戻っていた。
「お二人は元から何かやっていたんですか?」
「えぇ、幼い頃に少し日本舞踊を習っていたの。」
「どうりでお上手なわけですね。」
まるで保護者の様な会話をしている涅さんと白百合さんを尻目に、錦さんは屋台で買った食べ物を食べるのに忙しそうだった。
「そういえば、月白くんはもうお祭りは見てまわりました?」
「実はまだなんです。仕事が終わってから踊りの練習をしたり準備をしたりしていたので……」
「それはお疲れ様です…!じゃあお腹空いてますよね。えーっと、とりあえず綿あめでも食べます?」
「あっ、いただきます…!」
そうして月白くんに餌付けをしていると、背後からまた賑やかな声が聞こえてくる。
「お〜!なんや皆さんお揃いで!」
振り向いた先にいたのは衆合地獄の鉛丹さんと鈍さん。
「お疲れ様です!お2人は踊りには参加しなかったんですか?」
「いや〜、踊りなんて盆踊りぐらいしか出来んから〜!ね〜、鈍くん!」
「うん……そもそもあんなに大勢の前に出ると思うと……」
「わははっ!そうやなぁ、鈍くんならステージに立っただけで緊張して倒れてまうかもしれんわ!」
鉛丹さんの言葉に鈍さんもウンウンと頷き、「そこは否定せいっ!」とツッコまれていた。性格は正反対のような2人だが、意外と相性は悪くないのかもしれない。
「そういえば、檳榔子さんと長春さんは一緒じゃないんですか?」
「あ〜、檳榔子くんはこれで私の仕事は終わりましたのでって言って踊り終わった途端さっさと帰ったわ。んで長春くんはさっきまで一緒やったんやけど……」
「……?」
「えらい美人な雪女のお姉ちゃんがおってな〜……気付いたらいつの間にかいなくなってたわ。」
「それはまた長春さんらしいことで……」
そうしてお祭りを楽しんでいるうちにあっという間に時間は過ぎ、提灯で照らされている会場の外は暗さを増している。そんな中、ドーンッとどこからか大きな音が聞こえてきた。もしやと思い音の正体を探して空を見上げると、そこには色とりどりに輝く光が空を飾っていた。
「わぁ……花火……綺麗ですねぇ。」
「おや、もうそんな時間ですか。」
「毎年お祭りの最後には花火が打ち上げられるんだ〜」
「そうなんですね!」
「そろそろ屋台も店仕舞いでしょうし、この花火を見終わったら帰りましょうか。」
「じゃあ最後にもう一回乾杯しよ〜!いつもお仕事お疲れ様!かんぱーい!」
「かんぱーい!」




