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二十四、飲酒 ⑴

 この流れでいくと、順番的に次は叫喚(きょうかん)地獄に取り掛かろうか。いつものように資料のファイルに目を通しながら、1人考える。叫喚地獄は「飲酒」の罪、つまり酒に関する悪事を行った者が落ちる地獄である。私個人としてはお酒が好きなので、それ自体は悪では無いと思っているのだが、初期の仏教ではお酒を飲むこと自体も禁忌とされていたらしい。そんな時代の信者に生まれていなくて良かったなどと思いながら、細かい罪状に目を通していった。


 心身を清める斎戒(さいかい)を行っている人に酒を与えた者が落ちる大吼処(だいくしょ)という地獄がある。あまり聞き馴染みのない言葉だが、斎戒とは神仏に祈ったり神聖な仕事に従事する際に心身を清めることらしい。よって、主な対象者は僧侶などの聖職者に当たるだろう。


 現世でそんな人に無理やり酒を与える機会というのはあまり無い気がするので、ここは斎戒を行っている人に限らず嫌がる人に無理やり酒を与えた罪に変更しよう。飲み会などで無理やり飲ませようとする上司や先輩が落ちそうな地獄だ。ちなみにここでは人に酒を飲ませたように、今度は自分が獄卒から溶けた白蝋(はくろう)を無理やり飲まされることになる。地獄の中でもかなり因果応報な罰ではないだろうか。


 それから普声処(ふしょうしょ)といって修行中に酒を飲んだ者や、仏門に入ったばかりの人に酒を飲ませた者が落ちる地獄があるが、これも現世の人にはなかなか当てはまらないので、対象は修行中に限らず何らかの理由で禁酒中の人全般に変更した方がいいだろう。


 こういった地獄のルールはかなり昔に決められていることもあり、やはり今の時代にはそぐわない罪も多い。だから改革が必要なのだろう。そして中には見間違いかと思うほどの驚きの罪もあり……

 

「んん……?」

 

「どーしたの?分からないところでもあった?」

 

「分からないというか脳が理解できないというか……象に酒を飲ませ暴れさせて、大勢を殺した人なんて存在するんですか?」

 

「あ〜、雨炎火石処(うえんかせきしょ)ね!いや〜、俺も実際見たことないけどね。象に酒飲ませて暴れさせた人。」

 

「ですよね……」

 

 叫喚地獄にある雨炎火石処では、象に酒を飲ませ暴れさせて大勢を殺した者と、旅人に酒を飲ませ酔わせて財産を奪った者が落ちると書かれていた。そもそもこの二つの罪が同じ地獄というのも非常に不思議ではあるのだが……

 

「そもそも象って、日本だと動物園にしかいないですよね?」

 

「そのようですね。文献を見ると、昔は献上品として将軍などに贈られたりもしていたみたいですよ。」

 

「そんなに昔から日本にいたんですね……じゃあ将軍が飲ませたとか……?」

 

「真相はわかりませんが、一度見に行ってもらった方が早いかもしれませんね。」

 

「そうですね。実際見てみないと分からないことも多いですし。」

 

「よし、じゃあ早速行ってみますか〜!」

 

「あなたは別の仕事があるでしょう。先程(たかむら)さんから電話が来ていましたよ。」

 

「うげぇ……」

 

「ということで、すみませんが今回も茜さん1人で大丈夫そうですか?」

 

「はい、大丈夫です!」

 

「実は私もこの後会議が入っておりまして……何かありましたら教えて下さい。」

 

「わかりました!早速連絡して行ってみます。」


 

 ――――

 


「――ここが雨炎火石処で、あの大きな象がここの目玉なんだけど……おーい、(あんず)ちゃーん!ちょっと話聞かせてもらえる?」

 

「代表〜?なんか言いました〜?」

 

「地獄改革課の方が来てるからー!ちょっと話聞かせてってー!」

 

「は〜〜い!こっちの亡者潰したら行くからちょっと待っててね〜!」


 昔動物園で見た記憶の中の象よりも遥かに大きいであろうその象は、あっという間に逃げる亡者を踏み潰し、血の滴る足でそのままこちらに向かって歩いてきた。

 

「お、来た来た!杏ちゃん、こちら地獄改革課の茜ちゃんね〜」

 

「地獄改革課の茜です…!よろしくお願いします。」

 

「こんにちは〜!雨炎火石処の杏です。よろしくね!」

 

「杏ちゃんは地獄が出来た当初から働いてるからさ、俺より全然長いんだよねー。ここも杏ちゃんありきだし。だから雨炎火石処のことは杏ちゃんに聞いたらいいよ。」


 雨炎火石処では赤く焼けた炎の石が雨のように降っているため直接中に入ることは出来ず、こうして雨の降らない範囲まで杏さんに来てもらった次第だ。さらに雨炎火石処では溶けた銅やはんだ、血などが混ざった河も流れており、全体的にどこへ行っても熱い地獄となっている。その為ここで働ける獄卒はかなり限られているが、杏さんは火象という妖のため火には耐性があるそうだ。


「それで、何の話が聞きたいのかしら?」

 

「えっと、ここは象に酒を飲ませて暴れさせた人が落ちると聞いたのですが、そんな人本当にいるんですか?」

 

「ここにはいないわね〜。でも、インドにはいるらしいわよ!」

 

「え…!インドですか!?」

 

「あー、地獄は仏教の教えを元に作られてるからなぁ。」

 

「そうそう。たしか閻魔大王達が地獄を作るってなった時に、インドとか中国に視察に行ったらしくてね……」

 

 杏さんの話によると、地獄がまだ黄泉(よみ)の国と言われていた頃、地獄を整備するべく閻魔大王を初めとした数人が、黄泉の国の女王であるイザナミノミコトの命を受け諸外国へ視察へ行ったらしい。

 


 ――――

 

 

「はぁ〜、やっと最終日かぁ……どうせインドまで来たんだし、最後に現世観光でもしてから帰るか。」

 

「そうですね。せっかくですし一杯やりましょうよ。」

 

「お、いいね〜!インド料理も食べてみたかったんだよなぁ。」

 

「あそこのお店なんて良さそうじゃないですか?」

 

「よし、入ってみるか!」


 そうして閻魔大王たち御一行は、インド料理とお酒を楽しみに現地の飲食店へ入ったのだが……

 

「なんか外が随分騒がしくないか?」

 

「確かにそうですね。お祭りでもやっているんでしょうか?」

 

「キャアアァァァ!!!!」

「大変だ!酒を飲んだ象が暴れてるぞ!!」

「逃げろ逃げろー!!」


「象?たしかこちらの動物だったか?」

 

「随分な騒ぎになってるみたいですけど……」

 

「おい!お前達も早く逃げろ!巻き込まれるぞ…!」

 

「えっ!あの、頼んだ料理は……」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!早くしろ!!逃げ遅れても知らないからな…!」

 

「えぇ!?まだ一品も食べてないのに……」

 

 結果、現地の象の大暴れにより、辺りの家やお店はことごとく潰され壊滅状態。閻魔大王たちも食事をするどころの騒ぎではなくなり、そのまま日本へ帰国することになったという。


「と言うことがあったらしくてね……ちなみにその時象に酒を飲ませたのは象使いなんですって。なんでも仲間内で飲んでて余興として象にも飲ませたとかなんとか……」

 

「な、なるほど……でも日本でその状況ってなかなか無いですよね…?」

 

「そうね……まあ半分は大王たちの私怨かしらね〜あはは!」

 

 話を聞く限り、半分どころかがっつり私怨が入っていそうな気がしたがそこは一旦置いておこう。現代の日本で酒を飲んだ象が暴れると言うのはやはり考え難い。そこでもう1つの旅人に酒を飲ませて財産を奪った罪のみにするか、象の方の内容を変更するかしたいところである。


 そこで、まずはインドでの象の立ち位置について考えてみた。インドでは象は高貴で縁起の良い生き物であると同時に、神話では神が象に乗って登場したり、また、王族の移動手段としても利用されてきたらしい。現在でも観光客向けに象タクシーなる文化が残っているそうだ。象は移動手段……つまりは乗り物であると言えなくもない。それを踏まえた上で現世での罰に当てはめるとするなら……

 

「………飲酒運転と飲酒運転幇助罪でどうでしょう!?」


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