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二十、息抜き

「へぇ〜、あの人が茜ちゃんが三途の川を渡る時に会った獄卒だったんだ。」

 

「世の中は意外と狭いですね。」

 

「本当ですよね。まさかあんなにすぐ会えるとは……」

 

 三途の川から戻った私たちはもう少しで終業時間ということもあり、残り時間は雑談をしながら軽めの作業をこなすのみに留めた。そして今日は金曜日なので、もう少しで待ちに待った休日である。とは言っても、あの世に来てからの休みといえば基本的には部屋にこもってダラダラと過ごすだけなのだが……。せっかくなのであの世を見てまわりたいという気持ちもないことはないが、やはり土地勘が全く無いことと、こちらでの常識を知らないのとでなかなか気軽には出歩けないのが実情だ。


 ドォーン、ドォーンという銅鑼(どら)の音が鳴り響き、本日の仕事の終わりを告げる。これが地獄での終業の合図だ。私はすぐさまデスクを片付け、涅さん錦さんに挨拶をして職場を後にした。

 

 地獄での仕事は新鮮なことばかりでなかなかにやり甲斐があるが、元々現世にいた時の私の夢といえば、お金持ちと結婚して専業主婦になり働かないで暮らすことだった。結果、生前はお金だけ持っている最低な男と付き合い、死んだ今もこうして地獄で一生懸命働くことになっているわけだが……

 

 まあそんなことを考えていても仕方がないので、今はこのわずかな休みを満喫するとしよう。実は閻魔庁の中には色々なものが揃っており、獄卒寮、食堂に加えて売店もある。閻魔庁の売店は現世でのコンビニぐらいの品揃えを誇っているため、大抵のものは外に出ることなくここで手に入るのだ。そしてその中でも今日私が狙うのは……お酒!おつまみ!スイーツ!お菓子!そう、明日は休みなので部屋で1人飲みをしようという作戦である。そうしてカゴに次々と物を入れていると、

 

「あれ?茜ちゃんだ。」

 

「ほんまや!お疲れさんです〜!」

 

 思いもよらず、仕事終わりと思しき長春(ちょうしゅん)さんと鉛丹(えんたん)さんに遭遇してしまった。そういえばこの2人も閻魔庁の獄卒寮に入っているのだった。

 

「お2人ともお疲れ様です。」

 

「随分ぎょうさん買うて……って、それ!煉獄堂(れんごくどう)のあんみつやん!」

 

「有名なんですか?これ美味しいですよね。」

 

 地獄で働き始めてから見つけたお気に入りのスイーツ、煉獄堂のあんみつ。人間疲れている時は無性に甘い物が食べたくなるもので、よく仕事終わりに買っては自分へのご褒美として食べていた。

 

「結構人気やと思うで〜!昔ここでバイトしててん。」

 

「え、そうなんですか…!?」

 

「これも美味しいけど、店舗限定の白玉クリームあんみつもオススメやで!」

 

「それは絶対美味しいやつじゃないですか。お店はどこにあるんですか?」

 

深淵湖(しんえんこ)の近くやで〜」

 

「深淵湖……ってここから近いですか?」

 

「そっか。茜ちゃんは人間だからこの辺の地理とかわかんないよね。」

 

「そやった!普通に地獄で働いてるからすっかり忘れてたわ。」

 

「観光地だからそこまで危なくはないと思うけど、ちょっと遠いし1人で行くのはやめておいたほうがいいと思うよ?」

 

「ですよねぇ……白玉クリームあんみつ……」

 

 近ければ歩きかもしくは以前使った朧車に乗って行けるかもしれないと思ったが、遠いとのことなので諦めるしか無さそうで少々気を落としていると……

 

「ほな、俺が案内しよか?明日休みやし!改革課は土日休みやったよね?」

 

「はい、明日は休みですけど……いいんですか?」

 

「話してたら俺も久しぶりに行きたなったし!じゃあ明日10時に閻魔庁の玄関前集合でええ?」

 

「はい!大丈夫です!」

 

「ちょっと待って。話早過ぎじゃない?君たちそんな親しかったっけ?……僕も行くから。」

 

 鉛丹さんからのまさかの提案に喜んでいると、急に長春さんが間に割って入ってきた。

 

「お〜、ええやん!じゃあ3人で行こな〜!」

 

「長春さんもあんみつ食べたかったんですか?」

 

「……うん、そうだね。そういう事にしておいてくれる?」

 

 なにやら歯切れの悪い物言いが引っかからないでもないが、こうして私は鉛丹さん長春さんと3人で深淵湖へと行くことになった。

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