二、新しい職場
「では、本日から働いていただくわけですが……」
「はい、よろしくお願いします…!」
「えぇ、気合いは十分のようですね。では早速貴方に働いていただく部署までお連れしましょう。詳しい話はそこで。とりあえずついてきて下さい。」
地獄で働かないかという驚きの提案を受けた日から3日後、今日はとうとう地獄での初出勤日だ。成人式以来初めての着物を見に纏い、スタスタと歩く篁さんの後を慣れない足取りでついて行く。
期間は約1年。ここに残るためにはその間に何としても成果を出さなければならない。そもそも働くと言ったはいいものの、地獄での仕事とは一体どんなものなのだろうか。地獄での仕事と聞いて真っ先に思いつくのは、罪人たちの拷問。窯で茹でたり舌を抜いたり針山に登らせたり……血液検査で自分の血を見るだけでフラッとしてしまう私にも出来るだろうか。今更ながらに不安になってきた。
そうこうしているうちに、薄暗い廊下の突き当たり、1番奥の部屋の前で篁さんが立ち止まる。
「――今日からここが貴方の職場になります。」
そう言った篁さんがドアを開けると、
「おっ!その子が新しく入った子!?わぁ〜!本当に人間じゃん!」
「はぁ……錦、そんなに騒がないで下さい。すみません篁さん……」
部屋には金髪で二本角の派手な見た目の鬼と、茶色がかった黒髪に一本角で眼鏡をかけた真面目そうな鬼がいた。
「錦さん、涅さん、お疲れ様です。そしてお伝えしていた通り、こちらが今日からここで働いていただく茜さんです。」
「茜です…!よろしくお願いします!」
篁さんの紹介を受けて、目の前の2人の鬼に挨拶をする。2人とも身長180センチ以上は優に超えるであろうという大きさだ。さらにその角や牙からは人とは違う存在であることが判然と伝わってきて、改めて地獄で働くということを実感させられる。そんな私の緊張も他所に、錦と呼ばれていた鬼はずいっと近づいてきて私の顔を覗き込むように屈んで話し出した。
「茜ちゃんって言うんだ〜!よろしくね〜!俺が錦でこっちが涅!」
「涅です…よろしくお願いします。」
「転生したくないって大王相手にごねたって聞いた時はどんな子かと思ったけど、普通に可愛いじゃ〜ん!ラッキー!」
「いきなりすみません、こういう奴でして……」
「い、いえ…大丈夫です…」
人間である私と働くことに嫌悪感を持っていたらどうしようかとも思っていたが、どうやらそんな心配は必要なかったようだ。どちらかというと、寧ろかなり好意的に迎え入れて貰っているのではないだろうか。
「――はい、自己紹介はその辺にして頂いて……」
篁さんの一言で錦さんも渋々立ち上がり、自席へと戻って行く。
「では、早速本題の仕事の話をさせていただきますね。ここは閻魔庁 業務推進部 地獄改革課。主な仕事内容は、現世の情勢に合わせて地獄の見直しをする部署になります。」