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十八、六文銭

 不喜処(ふきしょ)のストライキを始めとした等活地獄の問題も落ち着き、私は居室でお茶を飲みながら資料を眺めていた。

 

「やっと落ち着いたんだね〜」

 

「はい、とりあえずはひと段落着きました。」

 

「工事はもう少しかかりますが、完成した頃にまたご挨拶に伺いましょう。」

 

「そうですね。」

 

「そういえばさ〜、2人が等活地獄に行ってる間に三途(さんず)の川から相談が来てたんだよね。」

 

「おや、どんな内容ですか?」

 

「ズバリ、三途の川渡賃問題!!」

 

「三途の川渡賃問題……??」

 

 錦さんの説明によると、三途の川は現世での行いによって渡る場所が変わるらしく、悪い行いをしている者ほどより険しい流れを渡らなければならないらしい。しかし六文銭を持っていると船に乗って渡ることができ、自力で渡る必要がなくなるのだ。そのため、昔は亡くなる人を埋葬する際に六文銭(ろくもんせん)を持たせていたのだが……

 

「六文銭って現代だといくらなんですかね?」

 

「まさにそれ…!今って現世では六文銭なんて使われてないじゃん?」

 

「そうですね。」

 

「それで地域にもよるらしいけど、ちょっと前までは10円玉とか5円玉とかを棺に入れることが多かったんだよね〜」


「そういえば子供の頃ひいおじいちゃんが亡くなった時は、火葬した後に棺に入れていた小銭をお守りって貰った記憶があります。」

 

「でも最近は火葬の時に金属を入れたらだめってなってるらしくて、紙とか木で作った六文銭のレプリカなんかを入れるみたいでさ。」

 

「現世ではそのような事になっていたのですね。」

 

「私も全然知りませんでした……」

 

「んで、とりあえずそれでもOK〜!って事にしてたんだけど、レプリカだと紙だったり木だったり印刷したのから手作りっぽいのから色んなタイプがあるらしくて、三途の川の船守もどれが六文銭なのか判別が難しいらしくてね〜」

 

 たしかに貨幣なら均一にできているので一目でそれと判断できるが、各々が紙や木で作った物であればもちろん見た目の違い等も出てくるので判断に多少時間がかかるのも頷ける。さらには副葬品として手紙やご朱印帳なども棺に入れることができるため、紙を持っているから六文銭とも一概には言えないらしい。

 

「それで結局どうなったのですか?」

 

「まあ最終的には首から下げてる頭陀袋(ずだぶくろ)に入ってる物は六文銭とするって事になったよ〜」

 

 頭陀袋とは遺体の首からかけておく袋のことで、その中に何を入れるかは地域によって違いがあるらしい。

 

「亡者にとっては良い方に転がったんじゃないですか?」

 

「そうだね〜。まあ頭陀袋に何か入れて持たせるって時点で、その亡者に対してあの世で苦労して欲しくないと思っている人がいるって事だからね。そこは一つの判断材料になったんじゃない?」

 

「確かにそうですよね……」

 

 私が死んだ時、私の家族もそう思ってくれていたのだろうか。無事に天国に行けるように、あの世で困ることがないように。あの時首からかけていた袋の中には、私のことを思ってくれた家族の気持ちが入っていたのかもしれない。

 

「そういえばさ〜、茜ちゃんも三途の川を渡って来たわけでしょ?どうだった?」

 

「それはそんなに簡単に聞いていい話題なんでしょうか……」

 

「私は全然大丈夫ですよ…!と言っても、そんなに詳しくは覚えてないんですけど……」



 ――――



 気づいたら、私は大きな川の前に立っていた。白い着物のようなものを着て足には草履を履き、首にはポーチのようなものがかかっている。周りを見渡すと、そこには私と同じような格好の人が大勢おり、私と同じようにキョロキョロと辺りを見回していた。

 

「あ、私死んだのか……」

 

 そう思わず口から出た言葉によって、自分の状況を改めて認識させられる。死。多分今着ている白い着物は死装束だろう。そしてこの目の前を流れる大きな川がかの有名な三途の川。臨死体験をした人の話で、三途の川が見えたけどどこからか声がして、渡らずに引き返したら目を覚ましたみたいな話を思い出す。しかし私は現世に戻って生きたいとも思わないし、そもそも死装束を着ている時点でもう火葬も済んでいるのではないだろうか。そうなると、多分だがとりあえずこの目の前の川を渡るしかないのだろう。


 そう思って川へ向かい歩いていると、川岸に小さな舟のようなものと鬼と思しき者が見えてきた。三途の川……舟……あ、これはお金を渡したら船で渡れるやつだ、と思いつく。たしか三途の川の渡賃は六文銭とか言ったような気がするが、どう見ても財布は持っていないし、代わりと言っては何だが何故か手には小さい頃から大事にしているぬいぐるみがしっかりと握られていた。これはたぶん母が棺に入れてくれたのだろう。そんなことより六文銭……六文銭……と着物の袖周りを探していると、川岸にいた鬼から声をかけられる。

 

「おい、六文銭はあるか?」

 

「えっと……すみません、今探してて……たぶん母のことなので入れてくれてるとは思うんですけど……」

 

「……頭陀袋。」

 

「え?」

 

「頭陀袋の中を見てみろ。」

 

「すみません、そのずだぶくろって言うのは……?」

 

「その首から下げてあるやつだよ。」

 

「……あ!ありました…!これでいいですか?」

 

「おう。じゃあついてこい。」

 

 そうして三途の川の親切な鬼により無事に六文銭は見つかり、舟に乗って三途の川を渡ることが出来たのだった。


「――と、言うような感じでしたね。確かにあの時入っていたのは紙の六文銭でした…!」

 

「へぇ〜!三途の川を渡る時の話って初めて聞いた!その獄卒誰だったんだろうね〜」

 

「まあ我々は亡者と直接話をする機会はあまりありませんからね。それにしてもぬいぐるみを入れてくれるなんて素敵なお母上ですね。」

 

「あはは、25にもなって恥ずかしいですが……」

 

「いいじゃんいいじゃん!愛されてたって証拠だよ〜」

 

「でも、思い返してみると三途の川って亡者でいっぱいでしたね。」

 

「そうなんだよね〜。それに渡る場所も罪の重さに合わせて3箇所あって、六文銭を持ってたら舟に乗せなきゃいけないし、川を渡りたがらない亡者は捕まえて川に放り投げないといけないから大変みたいだよ。」

 

「ということは、六文銭の件だけでは三途の川の問題解決とはいかなそうですね。」

 

「亡者自身もどうしていいのかわからないと思うので、余計に時間がかかるんじゃないですかね?」

 

「そっか。当たり前のことだけど、みんな死ぬのは初めてだもんね〜」

 

「三途の川はこちら!とか、看板でも立てておけばいいんじゃないですか?」

 

「ははっ!それ面白いね…!」

 

「それですと、逆に恐怖から逃げようとする人も出てくるのでは?」

 

「うーん、確かに……じゃあ、日本人の心理を利用して列を作るとかどうですかね?」

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