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一、はじまり

――よって、赤銅 茜(しゃくどう あかね)は転生とする。


 地獄って本当にあったんだなとか、閻魔様って想像以上に大きいんだなとか考えているうちに、どうやら私の判決が言い渡されたようだ。


「最後に何か申し立てはあるか?」


 普通は自分の罪を釈明したり、天国行きを懇願するのかもしれないが、私にはそんなことはどうだっていい。それよりも大事なのは……


「すみません、1つ質問なのですが、転生の場合何に生まれ変わるかは決まっていますか?」


 予想外の質問だったのか、目の前の閻魔様と思しき大男はその風体に似合わず少し戸惑った表情を浮かべながら答えた。


「……うむ、転生先については基本的に人は人として転生する。また性別やどの様な家族の元に生まれるかなどは無作為に決まることとなるだろう。」


 ここで私の1番懸念していたことが現実となってしまった。人は人として生まれ変わるのか……もしも転生するなら、次はクラゲや微生物、なんなら植物なんかがいいなと死ぬ前から思っていたのに。また人として生きなければいけないなんて絶対に嫌だ。


「あの……どうにか人以外に転生させてもらえたりとかは……」


「それは出来ぬ。」


「ですよね……あ、じゃあいっそのこと天国に行きたいとは言わないので、転生じゃなく地獄に変えてもらうことってできますか?」


「なんだと!?自ら地獄で罰を受けたいと申すのか。」


「罰は出来れば受けたくなかったですけど、転生してまた人間として生まれ変わるぐらいならそっちの方がいいかなぁなんて……」


「そうは言われてもだな……地獄に行くほどの罪は犯しておらんし、閻魔として罪は公平に裁かなければならんから……」


 閻魔様が突拍子もない私の発言に如何したものかと頭を悩ませる横で、先ほどから私たちのやり取りを聞きながらクスクスと笑っている男がいた。


「そんなに転生が嫌なのですか?」


「はい。」


「転生するぐらいなら地獄に落ちる方がマシだと。」


「……まぁ、そうですね。人間の世界も地獄みたいなものですし。」


「ふふふ……地獄も随分と舐められたものですね。まぁいいでしょう。では貴方、地獄で働いてみますか?」


「「えっ!?」」


 男からの突然の提案に、私と閻魔様は同じ反応をとる。


「もちろんただでとはいきませんが。1周忌まで地獄で働いていただいて、その間に我々が納得するような成果を出して自分が役立つ人間だということを証明して下さい。それが出来た暁には正式採用ということでいかがでしょうか?」


「ちょっ……ちょっと待って(たかむら)くん。本気で言ってるの!?」


「えぇ、私はいつでも本気ですよ?」


 もはや目の前の閻魔様から最初のような威圧感や威厳は感じられない。どう見ても破天荒な部下に困らされている上司といった感じだ。


「いや、でも人間を働かせるなんて……」


「私と言う前例もあるじゃないですか。」


「うーん、まぁそれはそうなんだけど……篁くんは異例中の異例というかなんというか……」


 2人の話を聞く限り、この篁という人も人間のようだ。確かに周りにいる鬼達のようにツノも生えていないし肌の色も私と変わらない。そして閻魔様の横に秘書のように控えてこれだけ意見出来るのだ。たぶん相当上の地位で権限のある人なのだろう。2人の話は当の私を置いて盛り上がり、篁さんが昔井戸を通って冥府に通っていただのなんだのという昔話まで。


 話を聞くと、やはり篁さんは閻魔様の補佐役のようだった。なんと平安時代の人のようで、生きている時から井戸を使い現世と冥府を行き来して、昼は朝廷の官吏、夜は冥府で閻魔様の裁判の補佐をしていたらしい。そして現世で亡くなってからもそのまま冥府で働いているようだ。


 現代でもちょっとした逸話として残っているそうで、そういえば確かに古典の授業で習ったような気がしないでもない。私が2人の興味深い話に聞き耳を立てていると、暫くしてとうとう私の処遇に対する結論が決まったのか、疲れ果てた様子の閻魔様から再度尋ねられる。


「――では茜よ、其方、地獄で働く気はあるか?」


2人が話している間に、私の答えは既に決まっていた。


「はいっ!ぜひ働かせて下さい…!」

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