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09

 その日もギルドに顔を出そうと歩いていると、桟橋近くでトレスに呼び止められた。


「おう、オミ。アレはどうなってる?」

「どうですかね、かなり色は薄くなったと思うんですけど、、、」


 俺は首に巻いた布の結び目を解いた。

 この吸魔石はペンダントになっていないため、持ち歩くのに不便だったので筒状に畳んだ布で包み、捻って首に巻くことにしたのだ。


 この時間は漁具の片付けも終わり、みな家路についているため浜には誰もいない。

 俺とトレスはどちらともなく浜へ向かった。

 さりげなく桟橋に停めた船の様子を見るように歩きながらトレスに吸魔石を渡すと、トレスは船に飛び乗りヘリに隠れるようにしゃがみ込んで石に目を近づけた。

 船といっても帆がある訳ではなく手漕ぎボートだ。とはいえボートと言っても公園の池に浮かんでるのよりは全然大きい。

 燻製した魚を詰めた大樽を数個積んで沖に停泊した軍艦に運べるくらいには大きい。

 人間だけなら20人くらい乗れるのではないだろうか。


「お前、本当に魔力多いんだな。もう魔石になってるじゃねえか」

「本当すか? 見てみるタイミングがなくてよく分かんないんですよね」

「なってるなってる。鑑定表で見てみる必要もないくらいなってるよ。しかも色まで出てるじゃねえか」

「色?」

「ああ、薄いけど青が出てる」


 俺は船のフチに手をかけて覗き込んだ。


「おい、触るなよ」

「あ、すんません」


 ギルドの船は村人は触れてはいけないことになっている。軍の財産だからだ。うっかり沖に流したりしたら大変なことになる。


 船に触らないように身を乗り出して石を覗き込むと確かに水色っぽく光っている。


「色付きの方が高く売れるんですか?」

「そうだな、宝飾品としての価値がつくから形と透明度と色の濃さによっては10倍にもなる」

「マジすか?!」

「おい勘違いすんな、コレだったらちょっと色が付く程度だよ」

「色付きだけにね」

「、、、お前、たまに言うことがオッサンだよな」

「こりゃ失礼」


 トレスは桟橋に戻ると石を返してよこした。


「次の十四の月まで魔力を注ぎ続けてみろよ。もっと色が濃くなるかもしれない」

「そしたら?」

「こっちも色を付けてやるって!」


 俺たちは下品に笑いながらギルドへと足を向けた。



 そして、ギルドの扉を開けるなりバルドムが待ち構えたように声をかけてきた。


「おい、遅いじゃねえか」


 一瞬、心臓が止まるかと思った。内緒で魔石を作っているのがバレたのかと思ったのだ。

 しかしよく見るとバルドムの脇には女児がふたり。


「こいつらも魔術を覚えたいってよ」


 見るとふたりはギルドの直ぐ裏に住んでいるシータの家の娘のイータとイオタだった。


 イータはなんていうか、エキセントリックな所があるというか、何を考えているのか分からない娘だ。

 畑仕事の途中で突然けたたましく笑い出したり、夜に浜にずっと立って海を見ていたり。意味の分からない行動をとることがある。

 もちろん声をかければ話は通じるし喋れもする。仕事もちゃんとこなしている。畑仕事もするし、貝拾いも以前はよく一緒にしたものだ。

 だが、話の途中でどこかに行ってしまったり、聞いてもいないのに突然に花や芋について滔々と自論を述べ出したりするのだ。

 ちょっとコワイ。


 イオタはそんな姉を守るように、いつもイータにくっついて回っている。

 大人しくて、姉思いで、生真面目で、普段は目立たない娘だ。


 イータは俺のふたつ上の12歳。イオタは同い年の10歳のはずだ。


 ふたりは他の子供たちと同じく真っ黒に日焼けして髪は長いボサボサ。荒い麻の布の肩を出したワンピースを着てウエストを麻紐で縛っている。

 ワンピと言えば聞こえが良いが、ズタ袋に頭と腕を出す穴を開けたものだ、多分。


 ちなみに男児の服装は同じ素材のフンドシいっちょうである。

 この村の住人は髪を切る習慣がないため男も髪が長い。しかし男は海に入ることが多いため邪魔にならないよう頭の上で纏めて縛っている。

 いわゆるお団子ヘアーだ。


 という訳で、って何がどういう訳なのか俺も分からないがこの二人が塾に来るのはすごく意外だったのだ。


 村では周知の事実だが、ふたりには父親が居ない。

 この村の最初期に沖に出すぎて魔物に殺られてしまったのだそうだ。


 だからなんだと言われても俺も良く分からないがとにかく意外だったのだ。

 じゃあ誰なら意外じゃないかと問われたって全員意外なのだが。


「オミ、お前が読み書きを教えてやれ」


 固まっている俺に向かってバルドムがそう言った。


「え、なんで俺が、、、」

「人に教えると案外と理解が深まるもんだ。それにイータはもう魔術が使えるぞ」


 イータは右手を胸の高さに掲げると呪文を唱えた。


「“精霊よ、水の精霊よ、乾いた我らに潤いを与えたまえ、清らかな水の流れを” ウォーターボール!」


 イータの掌の上に光の粒が集まり、水球になっていく。それを押し出すようにすると水球は俺の脇にあった水樽へ飛んでいき中にポシャリと落ちた。


 バルドムやラムダのウォーターボールと比べれば小さく、飛んでいく速度も遅かったが、完璧にウォーターボールの体を成していた。


 「お前が毎日毎日同じ文句を唱えるのが聞こえてて覚えちまったんだそうだ。それで真似して唱えてみたら発動しちまったから、おっかさんがビックリして相談してきたんだ」


 意外なうえにあっさり魔術で抜き去られて膝をつきそうになった。

 フラフラとベンチに座るとバルドムは説明を続けた。


「お前にも言ったが魔術は独学でやると呪われる、そうシータに説明してちゃんと習わせることにしたんだ」

「だからって何で俺が、、、」

「お前がウォーターボール使えるようになるまではお前の負けだ。教えてやれ」


 なんだかその理屈はおかしいが、負けという言葉が重くのしかかり、うまく反論が出来なかった。

 何も言えず座ったままでいるとイオタが前に出た。


「あの、オミくんゴメンね。イヤならあたしたちオミくんと同じように自分で勉強するから、大丈夫だよ?」


 うん? 別に嫌な訳ではないんだ。いきなりエキセントリックガールに負けたのがショックだっただけで、、、


 ふむ、そうと気付けば、別にどうということはない。


「ううん、大丈夫。イヤじゃないよ。ちょっとびっくりしただけ」


 こうして俺は女児ふたりに読み書きを教えることになった。どうせ読む物はあとは業務日誌くらいしか残ってなかったのだ。


 筋トレ、勉強、女に優しく!



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