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 ジロ河はデカい河だった。

 対岸が霞む程度には広い。河口部の河幅は1キロはあるのではないか。

 河と海のはっきりとした変化も感じないまま、湾にでも入った感じで侵入し目的地の軍港にたどり着いた。


 軍港と聞くと物々しいフェンスに囲まれた厳重に警備された施設を想像するかもしれないが、いや実際そうなのだが、フェンスのすぐ横から小さな町が密接しており案外賑やかな雰囲気の漂う施設だった。

 太い柱の立派な桟橋と石畳の立派な搬入路、奥には巨大な木造の建物が鎮座し感動を覚えるのだが、船の上から見たイメージとしてはバラックの立ち並ぶ漁村に隣接して急に立派な学校を建てちゃったみたいな変なアンバランス感を感じるのだ。


 上流側の町というか村というか、そちらには小さな船が河面にひしめき合っており、岸からさほど離れていないところから木造の小屋が密集している。

 ひしめき合う船の上には犬が寝ていたりしてなんとも牧歌的だ。


「さあ、荷下ろしだ!」


 副船長の掛け声で倉庫から欄干まで船員が並び、バケツリレー方式で小麦の袋やら魚の樽やらを渡していく。桟橋から船までは木の板が2本渡されて片方は荷物を持って降りて、もう片方でまた上がっていく。

 桟橋に積まれた荷物はおそらくサナ人であろう人夫が担いで倉庫近くまで運んでいく。

 倉庫前に積まれた荷物はおそらくこの軍港に勤めているであろう人々が倉庫へ運び込んだ。


 当たり前なのだが、荷物を運ぶのって凄く大変なんだなと思い知らされた。

 コンテナもトラックも、台車さえ無いとなると全部が人力なのだ。

 本当のところは荷下ろしから倉庫への運び入れもサナ人の人夫に任せたいはずだが、やはり船や倉庫といった設備に外国人を立ち入らせる訳にもいかないのだろう。


 2時間ほど掛かって荷物を全部降ろすと船上の目線が随分高くなっていることに気づいた。

 軽くなったので沈むぶんが減ったのだ。

 降りて船体をみるといつも水に沈んでいた部分にはフジツボのような貝が張り付いている。


 感心して伸びなどしながら眺めているとパコに肩を小突かれた。


「休んでる暇はないぞ。これから船内の掃除だ」

「あ、はい」


 いつもの嫌味ったらしい言い方ではなく普通の言い方だ。

 なんだか肩を小突かれたのも親愛の印のような感じがした。

 なんなんだ?


 甲板や船内を隅々まで掃除した後にモップのようなもので何やら桶に入った液体を塗り付けていく。

 強烈に酸っぱい。

 この酸っぱい臭いは絶対お酢だ。

 殺菌とかカビ防止とかそんな理由だろう。


「おい、オミ」


 今度は長官だった。


「私とロンドは司令部まで用を足しに行ってくる。10日ほど留守にするのだが、作戦室は施錠してしまうのでその間は村の宿に泊まるか船の他の部屋で寝るかしてくれ」

「わかりました」


 気づけば全ての船員が甲板に集まっている。

 こう見ると結構人数多いよな。

 皆、下船が楽しみなのか浮き足だっているように見える。

 ブリッジに立った船長が口を開いた。


「さて諸君、マシュトマ港を出てから約3ヶ月ご苦労だった。この滞在に際してひと月分の給与を渡すがくれぐれも気をつけて過ごすように」


 ドッと歓声が上がった。

 気づくと副船長が甲板に机を置いていてそこには各種硬貨が積まれていた。

 群がるように机に並ぶと一人一人に給与が配られた。

 俺ももらえるのだろうか?

 長官の方を見ると「少しな」とのジェスチャー。


 見るているとみな副船長と話しながら、いくらか返しているのもいる。

 副船長は逐一それを帳面に書き記しているので、貯めておきたいならそうしても良いらしい。

 一体幾ら貰えるんだろうか。


 10分程待っただろうか。

 俺の番が来ると副船長は顔をあげ皆に聞こえるように少し大きな声でこう言った。


「オミには正式には給与は出せないがその働きには実際助かったので褒賞を与えることにした。25ラーミだ」


 何気にみんな注目していたようで、そこここから「ふむ、まあまあだな」というような声が聞こえた。

 多くも少なくもない妥当な金額らしい。


 25ラーミっていうとどれくらいだっけ?

 確か船大工の1日の手間賃が10ラーミとかって話だったから凄く大雑把に換算するとニ万五千円円くらいかな。

 約ひと月の小僧の小遣い稼ぎとしては充分だ。

 これだけあれは服とナイフくらいは揃えられるだろう。


「では我々は船を空けるが外出は1日おきに半数ずつやってくれ。さっきも言ったがくれぐれも慎重に過ごすように」


 そう船長が締めると順番でいうと今日が甲板組だった連中が歓声を上げて船を降りていった。


「俺らは船で留守番だ」


 キコはそう言って俺の肩に手を置いた。


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