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 フンドシのジレンマは想像だにしてなかった意外な流れで解決した。


 説明しよう。


 ある日、いつも通りにロッコと厨房で働いていた時、頭が痒くてボリボリと掻いていたらロッコに腕を掴まれた。


 船員に提供する食事にフケでも入ったら不潔だとか怒られるのかなと思ったら、ロッコは真剣な眼差しで俺のお団子ヘアを掻き分けた。

 そしておもむろにこう言ったのだ。


「オミ、お前シラミ湧いてんな。卵がある」

「え、マジすか? 毎日洗ってますけどね」

「海水でか?」

「いえ、水魔法で」

「それだよ」

「え」

「定期的に海水で髪や服を洗わないと虫なんかすぐ湧くぞ」

「え?」


 俺はその場で甲板に連れて行かれ、座らされ、超適当にチョキチョキバッサリと髪を切られた。

 鏡も無いし、どんな仕上がりかわからないがそのスピードから恐ろしく雑な事くらいわかる。

 憮然として肩に乗った髪をはらっていると、手で顔を隠せと言われたので両手で顔を隠すと背後からロッコの詠唱が聞こえてきた。


「ああ精霊よ、火の精霊よ。我に力を貸したまえ。邪な虫を焼き払う力を、、、」

「え、ちょっと、、、?」

「健やかなる身体を守る力を。フオコ・ヴェローチェ!」


 ゴウッと音がして髪が燃え上がるのが感じられた。頭皮が熱い! 耳も熱い!

 と、思ったら水をぶっかけられた。


 しょっぱい、海水だ。

 

「よし、これでいいな。服も脱ぎな」

「これも燃やすんですか?」

「いや、海に捨てる」

「あ、ちょっと待ってください」


 俺はロッコにナイフを借り、フンドシの隠しポケットを切り裂き、吸魔石を回収した。


「なんだ、それ?」

「吸魔石ですよ。魔石に育てようと思って」

「ははあ、気の長え話だな。お、幾つかはもうなりかけじゃねえか」


 見ると確かに幾つかは少し色が出ている。順調に育っているようだ。

 ちゃんと10個あることを確認。

 いちおう5個はトレスに所有権があるのだから、無くさぬよう大事にしなければ。


「船倉入って直ぐ右に麻袋があるから貰ってきな」

「はい」


 甲板組の手の空いてる何人かが俺たちを見物してたが、特に驚いたり面白がったりしてない所をみるに、よくある事なのかもしれない。


 ふと気になって頭に手をやると髪はなく、触り慣れないペタペタとした触り心地だった。

 

 うーむ、鏡が欲しい。

 あ、あと自分の刃物も欲しいな。

 刃物があれば磨けば少しは鏡の代わりになるかもしれないし麻袋で自分の服が作れる。


 船員の多くは腰に大なり小なりナイフをぶら下げている。

 きっとジロのマーケットに古道具屋なんかもあるだろう。まだ買えないかもしれないが相場くらいは見ておこう。

 腰に付けるベルトやケースも革製品だからお手軽な値段ではないだろう。


 吸魔石へ魔力を注ぐのもまた頑張らねばな。

 前と違って魔力はダダ漏れではないからきっと魔石の成長速度も落ちてるはずだ。


 気にかけなきゃいけないことが多いな。

 一回何かに書き出して優先順位とか決めておいた方が良さそうだ。

 といってもこの世界では紙もインクも高価な物だろうからまた粘土板を入手する必要があるよな。

 でもアレは持ち運ぶには嵩張るし重いからどうしたもんか?


 そんなことを考えながら船倉に向かう途中、ばったりとパコに会った。


 奴は俺を見ると目を見開いて驚いた様子で、その後は爆笑して立っていられないほどだった。

 誠に失礼な奴である。


 俺はパコは無視して通り過ぎようとした。

 するとパコは俺の肩を掴み引き留めた。


「ハアハア、、、どうしたんだい、シラミでも湧いたかい?」

「ええ、そうなんです」


 正直に答えたらまた爆笑である。

 俺はパコの手を払い、船倉へ向かった。


「いや、笑って申し訳ない、、、でも全裸で、坊主で、なんか普通に歩いてるから、、、、」


 まだ笑い続けてるパコの声を背中で聞きながら俺は船倉へ降りて行った。


 あいつはやっぱり一回ギャフンと言わせた方がいいな。

 俺はパコにギャフンと言わせるのをやるべきことの最優先にするよう心のメモを書き記した。



◇



 後でロッコに聞いた話だが、シラミが湧くのはアカデミーに4年もいると必ず出くわす事例なので特に珍しくもなく、お互いに髪を切り合い、焼き合うのだそうな。


 しかし2年で卒業したパコにはそうした経験がないのかも知れないとのこと。

 

 じゃあ同じく2年で卒業した長官も俺の頭を見て爆笑するかもしれないってことか。


 そう思った俺は少し警戒して部屋に戻ったのだが、長官は特に驚く様子を見せず、髪がキレイに焼き落とされていることと、一切の火傷をしていないことに感心しロッコの腕前を褒めていた。


「ふむ、ロッコはあまり火魔法が得意ではないとのアカデミーの記録があったが、こういうのは得意なのだな」

「それって成績表みたいなヤツですか?」


 俺は長官に粥を渡した。


「うむ。まあアカデミーでは攻撃魔法にばかり多く時間を割く特性上、評価に偏りがあるのは仕方がないのだがな」

「そういうの、あるんですね」

「攻撃魔法は何より火力が大事だから魔力のコントロールなぞより魔力の総量と瞬発力が物をいうがじっくり使うのが得意な者はおる」

「じっくり系ってどんな魔法があるんです?」


 長官は少し上を向いて考えてから答えた。


「例えばキコの使っていた光魔法なんかがそうだ。あとは、厨房の仕事で言うと鍋に水を溜める時などはゆっくりでよかろう?」


 俺はこの部屋で初めて成功したウォーターボールで樽を壊した事を思い出した。


「しかし髪を焼く場合は逆に、短く早く高出力を出す必要がある。頭皮や耳を守りながらパッと燃やすのは度胸もいるし慣れも必要だ」


 俺はピンと来た。

「ロッコさんのあの坊主頭は自分でやってるんですかね?」

「ああそうかもしれんな。いくらパラディーノと仲が良いといっても無料で頭を剃ってもらえる訳ではないだろうしな」

「あら、髭剃りなんかは有料で?」

「むろんだ。髭や頭を剃るにはカミソリを研がねばならないだろう? 研げば刃物は少しずつ削れて減るからな、無料では理屈が合わん」

「ああ、なるほど」


 パラディーノ医師が散髪屋ってのは当たってたけど有料だったとは。


「覚えておくと良いな」

「何をです?」

「戦場で傷を受けて、焼いて消毒しなければならない時、ロッコは上手いかもしれん」

「そういったことが?」


 長官は粥を口に入れた。


「うむ、自分では痛みで必要なだけ焼くことが難しい。信頼できる誰かにやってもらうのが良いのだ」

「ひえ〜、、、あの、怪我を治療する魔術などは無いのですか?」

「無論ある。しかしその殆どが治癒力を高めるだけのものだから、やはり焼いた方が治りが良い」


 兵隊さん怖い! 戦争怖い!

 俺は絶対に戦場になど駆り出されないよう注意深く生きる事を心に誓った。


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― 新着の感想 ―
え、待って待って、ここから先の主人公はゼンラーマンか??
火傷は全細胞破壊だから、どんな傷より治らんぞぅ
フルチンで長官とお話してる?
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