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 食堂に入るとキコとカッロも朝粥を掻っ込んでいた。

 俺は既に厨房の人間という認識のようだが、一応はトローリングのことをことわっておこう。


「キコさんカッロさん、おはようございます。僕、今日はロッコさんと釣りらしいんですがそちらはお任せして大丈夫ですか?」


 キコ答えた


「ああ、もちろんこっちは大丈夫だ」


 そしていやらしい笑みを浮かべた。


「てかよ、お前すげえらしいな。噂になってんぞ?」

「噂ですか?」


 他の船員も俺を一瞬チラ見して目を逸らした。


「パコなんかアイツ下で聞き耳立ててたらしくてショックで泣いてたぞ?」

「いや、そんな勘違いですよ」


 キコはやけに嬉しそうだったが、一方カッロは真顔だった。


「オミくん、君はこんなに小さいのにオレの代わりに一人前に働けてたって聞いて、実は少し疑ってたんだけど本当に色々と凄いんだな。疑ってゴメンよ」

「もう、やめてくださいよ」


 粥の入った鍋は食卓のど真ん中に据えられ、横に皿が積んである。


 俺は粥をよそって隣に置いてあった飛魚フレークを振りかけた。


「てかよ、そもそもどうやって長官に自分を売り込んだんだ?」


 向かいに移動してきたキコが顔を寄せてきた。


「ええと、僕は村でギルドの塾に通ってたんですけど、何度やっても魔術が発動しなかったんでギルド長が長官に見てもらえるよう取り計らってくれたんです」

「それをチャンスに売り込んで情夫にまで成り上がったのか?」


 ちょっとしつこいな、キコよ。


「いや、ホント情夫なんかじゃないんですよ。アレは長官のジョークで、、、」


 と、いきなり隣の奴が皿をバンと机に叩きつけた。


「当たり前だろう!! 長官がお前なんか、、、どうせひとりで体操かなんかしてただけだろう、この嘘つき!!」


 見るとパコだった。

 ボロボロと涙をこぼしている。


 そうだよな。

 パコは長官のこと大尊敬してるもんな。


「そうだよ、体操してたんだよ。だから嘘は吐いてないって、、、」

「うるさい!!」


 パコは泣きながら出て行った。


 流石にキコも気まずいようでそれ以上の追及はなかった。

 とっとと食べ終えて仕事をしよう。




 食堂から厨房に移動すると先に米を研いでしまうことにした。

 まだ寸胴は洗ってないので別の樽で洗う。

 3回水を替えて洗うと昆布を30cmほど折り取って米と一緒に浸水させておく。


 後は洗い物、とはいえ最後は誰なのだろう?


 迷っているとロッコが駆け込んできた。


「今のが最後だ。とっとと洗い物しちまうぞ!」

「はい!」


 寸胴に少し残ってた粥を移して、汚れた皿を重ねて寸胴に入れスプーンを放り込む。

 それをロッコが抱えると駆け足で階段を登り甲板へ上がった。

 左舷の筏はまだ引き揚げずに俺たちを待っていた。


 俺たちは大慌てで洗い物を済ますと梯子を駆け上がった。


「待たせたな!」

「お待たせしました!」


 ロッコは軽く右手をあげ、俺は深々と頭を下げた。

 すると筏の滑車にスタンバイしてた連中が筏を一気に引き揚げ、手すりに固定した。


 甲板長がそれを見届けて固定がちゃんとしているか確認すると手をあげてブリッジに合図した。


 ブリッジの下士官が頷くと艦長が頷き、副艦長が大声をあげた。


「まだ少し早いが船を出す! 帆を降ろせ。出発進行!!」


 まだ幼い下士官見習いがスネアドラムを打ち鳴らすと一斉に帆が降ろされ、バフンと音を立てて風を孕んだ。


 ゆっくりと船体が傾ぐ。

 なんだか既にちょっと懐かしい感覚だ。


「北西に進路を取る。取舵15分!!」


 舵輪が景気良く回され、別の男が木槌で甲板を激しく叩いた。

 すると階下で櫂が窓枠に当たる音が聞こえ、船が海上を滑り始めた。


 今度はまた別の合図で舷側でスタンバイしていた船員が各自のロープを引いてゆく。

 するとフォアマストセールの角度が変わってより多くの風を捉え更に船が傾ぐ。

 

 巨大なメインマストの縦帆が風を受けとめると船体全体がグゥーと軋みをあげた。

 

 本当に帆船というのは何か巨大な生物のようだな。

 

 舷側から乗り出して後方を見ると既に白い航跡が海面をたなびいていた。

 意外とスピードが出るんだな。


 感心しているとロッコが声を掛けてきた。


「なに見惚れてんだ? 初めてじゃないだろう?」

「ええ、でもハタから出航を眺めるのは初めてです。いやあ、凄いですね帆船って!!」


 きっとまた俺はアホ面してたと思う。

 でも本当に凄いのだ。

 補助で人力で漕いでるけど動力源が風って。

 それで世界を旅するって知恵が凄い。

 

「そうさ、俺たちは凄えことをしてるんだ。だからこそ、凄えことをしてる連中に美味い飯を作ってやらにゃあならん」


 俺たちは食堂に降り、まずは食堂と厨房の掃除だ。


「この船ってスピードってどれくらい出るんですか?」

「さっきくらいの風だと3ノットくらいか? だがな、いい風が吹きゃ10ノットは出るぞ!」

「へえ! ところでノットってどういう単位なんですか?」

「ええと、、、お前も乗ってりゃそのうち分かるさ!」


 ふむ、知らないんだな。

 時速で言ってくれないとピンとこない。

 なにせ海面はドシドシ波が来て、進んでるんだかどうだかもよく分からないのだ。

 動かない目印でも浮かべてくれれば分かるんだがね。




 掃除が終わって、研いだ米を鍋に移したり炭の準備をしたりして晩飯の支度が整うといよいよトローリングだ。


 ロッコが向かったのはブリッジだった。

 

 初めてブリッジに上がったが、士官一人一人に見習いの子供が就いて、何かを書き留めていたり緯度だか経度だかを測っていたりする。


 アレって自分の子供だったりするのかな?

 それとも親が金を出して見習わせてるのかしら?


 インターンっていうの?

 実務経験があるとアカデミーの入学資格がもらえるとか。

 まあ、貴族や軍の高官の子供、いわば士官候補生ってことかもしれない。


 子連れの士官たちは食堂には食べに来ないから各自食料を持ち込んでいるのだろう。

 航海の間の食料を買っておくなんて、金持ちで個室のある士官しか無理よな。


 そんな身なりの良い子供たちを横目にブリッジを通り抜けて更に船尾への階段を降りるとテラスがあった。

 そのテラスの手摺の切れ目から梯子が海面へと降りている。


 長官室(作戦室)の後ろはテラスになっていたのか。


 そういえば長官室の奥には行ったことがない。

 俺はこの船のこと何もしらないんだな。

 叱られない程度にあちこち覗いて見ておこう。


 テラスの梯子からボートに乗り移るとなんだか微妙な気持ちになった。

 こないだは舷側から泳いでボートに移動させられたが、濡れずに行けるんじゃないか。

 あの時はまだよっぽど信用がなかったってことか。

 あるいは長官か船長が手を回してくれたか。

 それともロッコと一緒だからか。


「おうオミ、もやいを解いてくれ」

「はい」


 そんなやりとりが聞こえたのか作戦室のテラスへの扉が開いて長官が顔を出した。


 完全に寝起きの顔をしている。

 出航の騒ぎでも起きなかったのか。


 長官は暫く俺たちを見送るとそのまま部屋に戻っていった。

 寝直すのだろうか?


 ひょっとしてまだ脚気や魔力切れが完治してないのかもしれない。

 長官の腹痩せには協力したいけど筋トレとかさせるにはまだ早かったかもしれないな。


 ひとまず今夜は休みにしよう。

 パコの件もあるし筋肉にも休養が必要だ。


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船を出すときは帆を上げるんですよ
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