05
数日経って、いつも通りギルドで本を読んでいるとトレスが声を掛けてきた。
「おい、吸魔石どうなった?」
「毎日頑張ってますけど、どうですかね?」
ちなみに読んでいたのはギルドのマニュアルである。ここにはまともな本はこれしかない。
ところがただのワーキングマニュアルというなかれ、これには前書きとして国史というには神話じみたお話が書いてあり、そこが意外と楽しいよみものなのだ。
曰く、長年ものあいだ意地悪な耳長族が統治していたこの国に西からやって来た一人の人族が、神の啓示を受けて立ち上がり、耳長族の圧政から国を取り戻し、平和と繁栄をもたらしたとかなんとかである。
「吸魔石、出せよ見てみようぜ」
「いいですか?」
俺は首からペンダントを外すと机に置いた。
ラムダとトレスは窓を閉め、バルドムはランタンと鑑定表を取り出した。
ランタンに火を入れると吸魔石を白い布に乗せ、鑑定表と見比べる。
「おお、8まで行ってるぞ! 下手すりゃ7.5ってトコだな」
「マジすか?」
「スゲエ魔力あるよ、お前」
「、、、じゃあ、なんで出来ねえんだろうな?」
話は振り出しに戻ってしまった。
「ええと、皆さんはすぐ出来るようになったんですか?」
「ああ、普通は詠唱が覚えられればすぐ出来る」
「俺はちょっと時間掛かったな。ほら、詠唱って難しい言葉が多いだろ? 意味がちゃんと分かるまで上手く発動しなかったな」
ほうほう、トレスは言葉の意味が分からず躓いたと。じゃあ詠唱の言葉を俺が間違った理解をしてる可能性があるって事か。
「バルドムさん、精霊って何ですか?」
「え、ほらアレだよ。妖精っていうか、ご先祖の魂っていうか、そういう感じの神様みたいな尊い奴だよ」
かなり大雑把な認識だが俺の認識と離れてはいない。他の言葉も一応確認する。
「水の精霊は?」
「水を司ってる精霊様だな」
「男ですか女ですか?
「え? 考えた事もねえな。小鳥みたいな天使さまがいっぱい飛んでる感じじゃねえか?」
「ええ? 女性でしょう! ベールを被った透明な美女に決まってるじゃないですか」
「あ、俺の認識も女ですね」
バルドムは小さい天使、ラムダとトレスは女に別れた。
「ギルドの教練本に載ってたじゃないですか」
「そうそう、挿絵にあった」
「俺が使った本には絵は無かったな」
世代が違うせいで教本が違うのか?
ていうか、その程度の誤差は許容範囲内らしい。
「まあ、じゃあ家でも色々試してみますよ」
「あ、それは辞めとけ。魔術は変に自己流でやると呪われるんだ」
「呪われる?」
「そうだ、習った詠唱をちゃんと使わないと寝ている間に家族が死んだり本人が怪我したりする」
「マジすか?」
ラムダとトレスも深く頷いている。
「ああ、俺が一緒に軍で初級教練受けてたヤツでも呪われたのがいたぞ。そいつは同室になった新兵を七人全員殺したんだ」
「なにそれ、怖っ!」
「そいつは自分じゃないって言ってたらしいけど、新兵の部屋は脱走防止で外から鍵が掛けられるんだ。窓には格子、完全な密室だ」
「げえ!」
「そいつはもちろん即、打ち首だよ」
「うへ〜、、、」
実は、魔術の練習は家でもやってたんだけど即中止しよう。危険過ぎる。ダメ絶対!
「といってもお前くらい魔力が多いと心配だな」
「いや大丈夫ですよ、こっそり練習したりしませんから」
「そうじゃねえ、魔力が多いと身体の中に魔石ができて病気になる」
「呪いの次は病気ですか?」
「そうさ、実際この国の国民の寿命は50歳くらいだろう?」
「ええ、そう聞いてます」
「魔術使いは100歳近くまで生きるぞ」
「マジすか? じゃあ何でみんな魔力使わないんですか?」
バルドムは顔を撫でながら腰を下ろした。
「俺らも魔術は教えようとしてる。だが誰も覚えたがらない」
「何でですか?」
「水は雨水を貯めればいい、火は火打石で起こせばいい。そうすれば呪われる事もない」
「そしてな、50歳にもなると海に立つのはもう辛いんだ。女も同じ、畑仕事が出来なくなってくる」
「働けねえのに生きてるのは辛いって事さ」
分かる。分かるけど、、、。
それで父さんは微妙な顔をしてたのか、、、。
「俺、魔術やめといた方がいいんですかね?」
バルドムはまた顔を撫でた。
「そりゃあ、お前次第よ」