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45/384

45

エピソードの投稿に誤りがあり、43として投稿したものを44に変更し43は挿入した新たなエピソードです

そちらが未読の方はお手数ですがそちらからご覧ください

「人々はみな、魔術は詠唱なしで使ってはならないと厳格に教わっておる」


 ああ、俺も言われた。

 呪われるってね。


「一般的に言われている呪いは寝言などでおこる軽い魔術の暴走という話はしたな?」


 ええ、聞きましたとも。


「呪いにはもう一つある」


 なんと。


「慣れてきたお前には分かると思うが、無詠唱魔術は結構思うがままだろう?」

 

 そうね。

 結果をイメージするだけで事象が発生して便利なこと上ない。


「例えばだ、ひとつの部屋に集められた全員を外から無傷で殺すなども可能であろう?」


 うん、怖いけど無理ではないだろう。


「では城壁の上から見下ろしたそのブロックの住民全員を殺すのは?」


 魔力が足りるかどうかが懸念材料だが、何度か実験やリハーサルを行えば可能だろう。


「あとはそうだな、王宮を見上げてその最上階に暮らしているであろう、やんごとなき人を亡き者にするのは?」


 まあある程度、場所や間取りの感じが掴めれば可能なんじゃないだろうか?


「無詠唱にはそういう可能性があるのだ。それが知られたら必ず誰かが使おうと近づいてくる。オミの大切なひとの首筋に刃物を当てて『やれ』と迫るだろうな。それがふたつ目の呪いだ」


 正直これにはグサっときた。

 力の大きさを認識すると共に、悪意のある人間に対峙する覚悟を持たなければならないということだ。


「だから無詠唱とバレないように口の中でブツブツ言うか、全く嘘の詠唱を用意しておくと良い」

「でもみんなが知らない詠唱をするとバレるんじゃないですか?」

「わたしはエルフと暮らした経験があるから失われた古のエルフの詠唱を継承したのだと嘘の公言をしている」

「それはまた大胆ですね。エルフに知られたら叱られるのではないですか?」

「いや、師匠筋にあたる老エルフにそうせよと指導されたのだ。師匠は一緒に嘘の詠唱を考えてくれた」

「どんな詠唱なんです?」

「ふむ、例えばこうだ。『刮目せよ、ここに立つ者が見えるか、ここに立つは古の盟約を結んだ者、盟約が汝にその遂行を命ず、月をも割かつ豪力をもって我の歩む道を開け!』とかな」

「めちゃくちゃカッコイイじゃないですか!」


 長官はぷっと笑った。


「そうなのだ。普通の詠唱は精霊へのお願いなのだが、師匠の考えてくれた嘘詠唱は命令形なので妙に厳しいんだ」

「こう言っちゃなんですがカッコイイのは大事ですね。説得力がありますよ。僕も真似させてもらってその線でいきます。発動に関わりそうな後半だけアレンジすれば良さそうですね」

「うむ、まあいいだろう。お前はわたしの弟子に当たる訳だしな」


 そこで長官はふと表情を曇らせた。


「どうされました? 他に何か問題でも?」

「いや、弟子と言ったがオミにはこの数日助けられてばかりだな。足萎え病といい魔力切れといい」

「何をおっしゃいます。僕は長官が見てくれるまでウォーターボールすら打てなかったんですよ? 長官が師匠でなくて誰が師匠でしょう」


 長官は薄く微笑んだ。


「お前が恩に厚い奴でよかったよ。魔術で追い抜かれてしまっては見限られても文句は言えんからな」


 そんなこと気にしてんのか。

 もう一押ししておこう。


「長官のような美しい女性を見限ろうだなんてそんな男が居ようもんですか」

「む、オミよ。お前もそういう目でわたしを見ていたか」

「いや、そういう訳では、、、あっそうだ! 僕を情夫だと嘘をつく理由を教えてくれるとおっしゃってましたね?」


 長官は目を丸くした。

 忘れてたんだな。


「言ってなかったか? アレだ、わたしは地方の領主の娘とはいえ、まあまあ家柄が良いし、個人の資産があるし、年頃でもある。むしろこの軍歴が足枷になりそうなものなのだが、実家の方には見合いの申し出が幾つも来ているようでな」

「モテモテなんですね」

「大半は資産目的の没落貴族だろうがな。そして軍の中にもわたしを下に置きたがるお偉いさんが多いのだ。もちろんみな既婚者だ。何か理由を付けてわたしを手篭めにするつもりなのだ」


 ヤレるやり手の美人秘書が欲しいってか?

 最低な連中だな。


「そこで、わたしが若い少年を拾って咥え込んでるという噂が広まれば、手を引く者も出そうなものだと思ってな」


 長官はあっけらかんとそう言い放つと残りの粥を口に入れた。


「それって、、、本当に長官に恋心を持った人だけが傷ついて手を引いて、そんなのへっちゃらの下衆野郎だけが残るのでは?」


 長官は動きを止めた。

 そこまでは考えていなかったのだろう。


「わわわ、わたしにまともな恋心を持った者などおる訳がなかろうが!」


 ちょっと顔が赤くなってる。

 なんだよ可愛いところがあるんだな。


「ところで長官はどんな人が好みなんです?」

「わたしか? そうだな、わたしより剣術が強くて、わたしより背が高ければひとまず文句はないぞ?」

「結婚したら長官は軍から退くおつもりで?」

「いや、それはないな。サナの国をもっとよく知りたいし、海の向こうを目指して本当に一周するのか知りたいし、それにエルフの遺跡の謎を解くのを諦める訳にはいかん」

「お子さんは欲しくはないのですか?」

「子はいつかは持ちたいものだな。子を連れて旅をして広い世界を見せてやりたい」


 とことん旅好きなんだな。

 その感覚に付いていける男は多くないかも知れないな。


「この世界では結婚して軍に在籍し続けるのは普通の事で?」

「いや、女は結婚したら退くのが普通だ。3年以内に子を成さないと結婚を破棄されることがほとんどだからな」

「ええ? ひどくないですか?」

「結婚など、子を成すことが目的なのだから当たり前だろう。しかしだ、旅先の天幕の下で、あるいは船の上で子を作り、産み、育てるのだ。ロマンチックではないか?」


 このひとはきっと赤ちゃんにおっぱいをあげながら竜巻を消したり陣頭指揮を取ったりするのだろう。


「そうですね」

「ところでオミよ、今日もあの運動をするか?」

「あ、はい。お腹がこなれたらやろうと思ってます。長官も付き合いますか?」

「うむ、昨日のアレが思いの外効いてな、完全に身体が鈍っとる。このままでは陸に上がったときに馬にも乗れん」

「体力増強ですか」

「それに誰にも言えんが腹が出てきてな」

「それはマズイですね」

「王都を出てからこの半年ほど、座って本を読んでいるか寝ているかだからな」

「では鐘一回ぶんほど休んでからやりましょう」


 俺は残りの粥を口に入れた。

 うん、和風出汁は冷めても美味いのが素晴らしいところだな。


 俺は食器を洗って厨房に片付け、歯磨きをした。

 歯磨きは木の棒の端をガシガシ噛んでハケ状にしたもので行う。

 こんなのでは奥歯の側面とかは磨けてないと思うのだが歯ブラシがないものは仕方ない。

 いつか歯ブラシを作りたいものだ。

 あと歯磨き粉も。

 アレってハッカ?

 ハッカってシナモンと同じ?


 ああ、切実にウィキペディアが欲しい。

 ウィキがあれば蒸気機関くらいは作れる気がするんだがどうだろう?


 部屋に戻ると長官が薄着になっていた。

 いつも寝る時もジャケット着用だったのだがシャツ一枚になっている。

 本気だな。


「部屋を掃除しておいた。また床に転がるのだろう?」

「あ、そうです。ありがとうございます。では仰向けに転がって上体起こしをします。足を上げ、手は胸の前に組んで、おへそを覗き込むように上体をあげます」

「こんなのでいいのか? 回数は?」

「まずは上がらなくなるまでやってみましょう。回数は気にせず一回一回をしっかり。肩を床につけないように浮かせたままです」

「うむ」


 長官はチラチラこちらを見てテンポやフォームをチェックしてくる。

 お手本として手は抜けない。


 40回程で腹筋が痛くなってそれ以上あげられなくなった。

 長官も結構辛そうだ。


「次は腕立てです。僕は10回くらいしかできませんから、もっとできそうなら続けてください」

「うむ」


 本当なら脚を開くか膝を付くかして楽にやりたいのだが長官の手前キチンとしたフォームを意識してしまう。


 8回くらいでかなりキツくてメゲそうになったが気合いで10回まで乗り切る。


 長官は15回までやって膝を付いた。


「これは中々キツいな」

「ですよね。次はスクワットにしましょう。昨日のとは変えて、爪先を開いて膝を深く曲げましょう」

「ほう。それはどうしてだ?」

「セット数をこなすなら浅い方が怪我が少ないんですが、ひとセットだったらこちらのほうが効果があると思います」

「なるほど、深いほうが辛いのだな?」

「はい。さ、いきますよ?」

「そんなに急ぐのは何故だ?」

「まずやってから説明します!」


 ディープスクワットは俺は20回しかできなかった。

 長官も20で辞めた。


「この心臓のドキドキが収まらないうちに次の運動をするのが良いのです。休憩は10秒にしましょう」

「ふむ」

「次はプランクです」

「こうか?」

「このまま30秒止まります」

「動かないのか?」

「はい。結構キツいですよ? はい、イチ、二、サン、、、、、、、、、、、、サンジュウ!」


 俺も長官も既に息はかなり荒い。

 額に汗が浮かんできた。


「10秒休んだらうつ伏せのまま背を反らせて胸と脚を床から離します。これはゆっくり15回にしときましょう」

「まだ続けるのか?」

「これの次で終わりにしましょう。はい、イチ、、、二、、、サン、、、、、、、、、ジュウゴ!」

「クッ、、、」


 もう息は絶え絶えだ。

 全身から汗が噴き出してくる。


「これで最後です、、、腕立ての姿勢で走るように交互に足を胸に引き寄せます。、、、これも30秒、、、」

「、、、、ハア、、、ハア、、、」

「はい、スタート!」


 マウンテンクライムとかいう種目だがもう辞めておけば良かった。

 正直辛すぎる。

 俺はガムシャラに足を動かした。

 数を数えるのも辛い。


「、、、ニジュウキュウ、、、サンジュウ!! はいお疲れ様でした!!」

「ひい、ふう、はあ、、、、これは、、、キツいな、、、走るより、、、キツいな、、、、」


 20秒から30秒の6種目のHIITだ。

 本当なら8種目くらいやったほうがいいのだろうがちょっと辛すぎる。

 このメニューである程度慣れたらバーピーにも挑戦してみよう。


「筋肉のトレーニングではなかったのか?」

「ええ、筋肉と同時に心臓と肺も鍛えるやり方です。血球やミトコンドリアも鍛えられるとか」

「ミトコン、、、?」

「話すと長いのですが、息を吸って取り入れたオキシゲンを使う時に手伝ってくれる我々の仲間たちです」

「魔力のようなものか、、、そうだ。お返しにお前にはエルフに教わった魔力を高める方法を教えてやろう」

「おお、そんな技が! お願いします!」


 長官は胡座をかいて座った


「このように座ってな、背筋を伸ばして眼を閉じる。そして呼吸にだけ集中するのだ」


 って、瞑想かい!

 そんなの効く訳が、、、いや、集中力は大事かもしれない。

 グーグル社員も運動と瞑想で仕事の効率がアップしたとかなんとか、知らんけど。


 とにかく運動とマインドフルネスは相性が良いはずだ。

 長官の真似をしてやってみる。 


「何も考えず、呼吸だけに集中するのだぞ?」

「はい、分かりました」

「鼻から吸って、口で吐くのだ」

「はい」

「、、、、、、」

「、、、、、、」


 ヤバイ。

 5秒も集中が続かない。

 すぐに身体の何処かが痒くなったり、長官の様子が気になったり、明日の厨房仕事の段取りとかを考えてしまったりする。


 どうやって呼吸に集中するの?


「あの長官、どうやって集中するんですか?」

「む、4秒かけて吸って8秒かけて吐くのだが、初めのうちはそれをカウントすると良い」

「なるほど」

「、、、、、、、」

「、、、、、、、」


 なるほど、数を数えるとある程度は集中が持つな。

 しかし30秒程度だ。

 これではイカンのだろう。


「あの長官、、、」

「集中が途切れたり意識が逸れたりしたらまた呼吸に意識を戻すのだ。その練習だ。その繰り返しで精神の筋トレになる」

「おお、、、なるほど」

「、、、、、、、」

「、、、、、、、」


 すぅ、、、、はぁ、、、、、、、、

 すぅ、、、、はぁ、、、、、、、、


 なんか分からんが感覚が掴めたぞ?

 逸れたら戻す、逸れたら戻す。

 

 冷たい空気が鼻を通り肺を満たし、口からそれを吐き出すと腹が凹んでゆく。

 8秒吐くとなると普通の呼吸では息が足らなくなるので最後は腹筋で絞るようにして息を吐く。


 どうやら俺は数を数えるより息の音にフォーカスしたほうが集中が続くようだ。

 俺は元々耳が良く、耳からの情報に集中するのは得意なのだ。

 何十人もがユニゾンで歌うアイドルソングの中から推しの声を聴き分けることができる集中力をここで発揮するのだ。


 すう、、、、はあ、、、、、、、

 すう、、、、はあ、、、、、、、


「よいぞ、これで5分ほどだ」

「なかなか気分がいいですね」

「これをもう一回だ」

「了解です。長官は時間はどのように?」

「4秒と8秒をゆっくり数えれば大まかに15秒ほどだ。4回繰り返せば1分。20回繰り返せば5分だ」

「なるほど」

「さ、始めるぞ」


 すう、、、、、はあ、、、、、、、

 すう、、、、、はあ、、、、、、、

 すう、、、、、はあ、、、、、、、

 すう、、、、、はあ、、、、、、、


「よいぞ、これで終いだ」

「お疲れ様でした。ありがとうございました」

「オミはこの鍛練は得意そうだな」

「や、最初は5秒も集中できなくて自分でもびっくりしましたよ」

「そうか? 途中で魔力の流れを見させてもらったが堂に入ったものだったぞ」

 

 薄目を開けて見てやがったかこの出歯亀女め。

 というか、それで乱れてたら木の棒で肩をぴしりと叩くつもりだったのかな?

  

 警策って言うんだっけ?

 てか、瞑想と座禅てどう違うの?

 同じ?

 

 ああ! 本当にスマホが欲しい!

 ウィキペディア先生が居ないと俺なんにも分からない!


「さあ、すっかり遅くなってしまったから寝るとしよう。鍛練をすると良く寝れるのだ」

「筋トレも睡眠には良いそうですよ?」

「それは良い。寝るべき時に寝れない兵士は半人前だからな」

「そんなことわざが?」

「いや、誰でも初めての戦地は眠れぬものだが、慣れると戦闘中でも寝れるようになる。そういうものだ」

「うーん、あんま慣れたくないですね」

「ふむ、それもそうだな」


 そんな会話を交わした直後、俺は速攻で寝落ちしたようだ。


 次の瞬間、朝だったからだ。


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オミの足りない頭脳を補ってくれる良い師匠やで
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