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03

 塾に通うと宣言すると微妙な顔をされた。


 とうさんにだ。

 海は冷たいが身体が大きくなってくれば我慢できるようになるとか、魚は慣れれば見えるようになってくるとか、そっちの心配をされてしまった。


「今まで通りの仕事は続ける。海にも立つ。畑も手伝うし、鶏の世話も続ける。でも塾にも行きたい」


 そう言うと、やはり微妙な顔をしながら了解してくれた。

 晩飯前の遊んでいる時間に塾に行けるようギルドに頼んでくれるという。


 となると今度はかあさんが渋がりだした。

 塾なんかに通うと友達にからかわれるんじゃないかだの、ご近所さんに何か言われるだの今度はそっちの心配だった。


「俺はもっとかあさんの役に立ちたい。火魔術や水魔術が使えるようになれば台所仕事でかあさんを楽させてあげられる」


 苦し紛れにそう説得すると唐突に抱きしめられた。

 頭を抱き抱えられて胸に押し付けられる。

 10歳の俺は困惑してたが32歳の俺は興奮していた。

 だって子持ちとはいえ26歳女子のおっぱいが顔に押し付けられているんだぜ? 32年間プラス10年間の人生でベストの瞬間と言える。

 おまたから這い出してきた件は記憶がないからノーカンだ。



 次の日の午後、俺はギルドの戸を叩いた。

 受付カウンターに座るギルド員のラムダが意外そうな顔をした。


「お前が字を習いたいっての本当だったのか、、、。まあいいや、こっち来て座れ」


 ラムダは俺に字を書いた表を見せてくれた。


「この国の言葉はこれらの文字によって書かれている」

「ふたつずつセットなんだね」

「そう。大文字と小文字だ。まず大文字を書き写して覚えるといい」

「OK」


 形こそ違えど仕組みはアルファベットと同じだったので難しいことはなかった。

 母音があり子音があるだけだ。


 一回目の授業で大文字を、二回目の授業でで小文字を憶え、すぐ自分で本を読むようになった。三回目では数字の読み書き、四回目で四則演算をマスターしラムダ氏を驚かせた。


「子供だから吸収が早いってのもあるけど、お前はアレだな天才だな」


 掛け算を一瞬で覚えた俺を見てギルド長のバルドムはそう言った。

 すまないなバルドム、覚えたんじゃない。知ってたんだ。


 字の勉強はギルドにある本を読んで、読めない単語や意味の分からない語句を辞書で引く、実際の使い方をギルド員に訊くというやり方で進めることになった。

 ほぼ自習である。


 このまま天才少年の名を欲しいままに魔術も習得かと思いきや、魔術は全然違った。


「“ああ、精霊よ!水の精霊よ!”」

「あ、駄目だ」


 本来なら掌のなか、空中に光を集めるのだが、詠唱の途中で手のひらに水が集まって濡れてしまうのだ。構わずに詠唱を続けるとヒジからポタポタ垂れる始末だ。


「手を洗うならそれで構わんが飲み水にはし難いだろうな」


 何回やっても同じになる俺を見てラムダ氏は顔を顰めた。


「どうやればいいんですか?」

「見てろ? “ああ精霊よ!水の精霊よ!乾いた我らに潤いを与えたまえ!清らかなる水を!ウォーターボール!”」


 拳大の水球が空中に生まれ、玄関の横に置かれた樽の中にピシャリと飛びこんだ。


「ええと、魔力を飛ばす感じなんですよね?」

「いや詠唱の通り、水の精霊に集まってもらうんだ」

「魔力を使って?」

「そう、魔力を捧げて精霊を呼ぶんだ」

「???」


 どうにも前世で知るアニメなどの魔術のイメージと実際の魔術は違うようで中々上手くいかない。


「ちょっと水魔術は苦手みたいなんで火魔術を先にやってみませんか?」

「お前、火魔術で同じ事になったら大火傷だぞ?」

「ですよね」


 その後もぐっと力を込めたりクネクネしながらやってみたりしたが上手く行かなかった。


「ひょっとして、僕には魔力が足りないなんてことは、、、?」

「うーむ、そんな奴はお目にかかったことがないぞ」


 あり得ないなんてことがあり得るのが転生体なのかもしれないが、とりあえず転生の可能性があることは伏せておく。


「師匠、調べる方法とかないんですかね?」

「聞いたことないな」


 そこでめったに絡んでこないギルド員のトレス氏が何も書いていない灰色のカードをよこして来た。


「これは、、、?」

「冒険者カードだ。魔力を込めながら名前を唱えると登録される」

「ははあ、なるほど。登録が出来ないくらいだと魔力が足りて無いってことだ!」


 ここに来て冒険者カードとは!

 ここは本当に異世界なんだ!


 鼻息荒く冒険者カードを受け取ろうとするとバルドムが口を挟んだ。


「辞めとけ。登録できちまったら税が発生しちまうぞ」

「ほう税が?」

「税って分かるか? 税ってのは国の畑を耕して食って、国の海で魚を獲って食ってるんだから国に使用料を払えってことだ」

「あ、税は分かります」

「子供のクセに税が分かるのかよ、、、

 お前の家みたいに土地と家があって仕事と稼ぎがある家からは村の稼ぎ全体から個々の負担ぶんの税金をギルドが納めてる」

「はい」

「冒険者ってのは定住せずにブラブラ移動を続ける国民から税金を取るための仕組みなんだよ」

「なるほど、定住はしてなくても国で暮らして国の道路や国の土地を使って稼いでる訳ですもんね?」

「そう。だから流れの狩人や採集人、店を持たない商人や吟遊詩人なんかが冒険者登録する必要がある。お前は登録しちまうと、家で税を納めてるのにさらに冒険者としての税金を収めなきゃいけなくなる」

「それは嫌ですね」

「だろ? だから辞めとけ」


 トレス氏がバルドムに目を向けた。

「吸魔石とか在庫ないすかね?」

「あるぞ、でもオミは金が払えないだろが」

「俺が払います。そのぶんオミを助手に雇います。計算を手伝ってもらえば仕事が捗りますんで」

「うーん、、、そうね。。。いや、金はいいわ。吸魔石は貸し出しにする」

「?」

「魔力が溜まれば儲けもんだしな」

「ああ、なるほど」


 会話に置いてかれた、吸魔石って何?

 すると目の前に、黒い石がトップにあしらわれたペンダントが置かれた。

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