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前に寮の食事中は私語禁止と書きましたが削除しました

 朝の仕事のターンがパン焼きになった。初日の今日は全粒粉の種無しパン。

 粉と水と少量の油とひとつまみの塩を練って拳サイズの半分に切り分けて、麺棒で薄く伸ばすとフライパンサイズになる。これが一人前なので大量に伸ばしていく。これが新入生である俺たちの仕事だった。

 そうしてできたパン生地は伸ばした側から隣に立つ上級生が焼いていく。コンロや火はない。魔術でフライパンを熱して焼くのだ。

 このパンは遠征中の定番メニューだそうで発酵時間も掛からないし焼くのも五分程度だ。焼きたてはもっちりしているが簡単に乾燥でき、乾燥させれば薄い堅パンとして携行して数日持たせることができる軍隊向けのパンだ。

 魔術の上級者はフライパンではなく河原にあるような丸まった大きな石で焼いている。朝の雑務というより給食の演習という感じだ。マジの遠征中はこれを野外でやるのだろうな。


 焼かれたパンは風船のように膨らみ、火から降ろすと急激に萎み、平たくなって重ねられていく。香ばしい良い匂いがする。腹が減ってきた。早く食べたい。

 今日は塩漬けのウサギのポトフの筈だ。だって昨日仕込んだからな。世話をしてきたウサギを縊り殺して皮を剥いで切り分け、骨付きのまま塩漬けにしてきた。何人かは泣いていた。世話しているうちに情が湧いてしまったのだろう。可愛いもんなウサギ。

 そうこうしていると鐘が鳴らされ食堂がオープンし、俺たちも調理器具を洗って朝食にありついた。


 メニューは種無しパンとウサギとカブのポトフ。自分で捏ねたパンと自分が世話して仕込んだ肉と野菜。悪くない。自分で作った飯となると味わう解像度が高くなって美味い。調理だけでなく育成まで携わっているのだ。蕪が皮付きのままなのもむしろ愛おしい。入れられたウサギの肉がアバラの肉が少ない部位でも丹念に味わう。

 全粒粉の種無しパンなぞ別にご馳走ではないと思うのだが香ばしくて良いと思う。食パンなんかより味わいがある。好きかもこれ。

 そんな風に非常に満足して朝食を堪能していると今日もまたマルキオッレ氏が飯に文句を言ってるのが聞こえてきた。


「見ろ。カブの皮すら剥いていないではないか。こんなものは農奴に与えるエサだろう? それにパンも種無しとはな。我々は何かの罰でも与えられているだろうか?」


 追従の笑いが起きたが俺はもう愛想が尽きたのでそのまま無視した。席も離れてるし気づきもしないだろう。

 こんなに飯に文句を言うってことは朝の仕事も碌に参加してないのだろう。やっていれば飯のありがたみが身に染みる筈だ。

 そんな思いを顔に出したつもりはなかったのだがマルキオッレに見咎められてしまった。


「クラウディオの従者殿は何か言いたげだな?」


 マルキオッレは明らかに俺に向かって言っていたが王子が答えた。


「マルキオッレ殿。今朝のパンは我々が焼いたものです。その肉は我々が昨日手を汚して捌いたものです。そのカブは我々が草取りをし、間引きをし、水やりをしてきたカブです」

「それがどうした。そんなことと味とは別の話ではないか」


 そんなこととは何だ。大切なことだろう。

 王子は静かに続けた。


「私はこのアカデミーの朝の雑務を通して受け取ったものがあります。それはアーメリア王からの強いメッセージです」


 マルキオッレは眉を顰めた。


「は? 王からの回勅だと?」

「はい。国王はこのような雑務を我々にやらせることを通してこうおっしゃっています。『民のありがたみが分かる者にこの国の舵取りを任せる』と」

「お主は何を言ってるのだ?」

「上に立つ者は決して下の者を見捨てるな、という事です」

「気でも触れたか? 言っておることの意味が分からん! そういうなら我は主を不憫に思い、我が卓に招いてやったというのに!」

「お優しいご配慮ありがとうございました」


 王子は立ち上がり丁寧に頭を下げた。そして続ける。


「しかし今後はお気遣いはご無用。では失礼致します」


 俺も立ち上がって頭を下げて席を辞した。

 王子にそっと聞く。


「いいんですか?」

「まあ、良かろう」

「すみません、僕のせいで」

「良いのだ。奴のくだらない恨み言が聞こえてくると飯が不味くなるのは我も同じだ」

「お父さんに怒られません?」

「謝ればいい」

「本当ですか? お隣の友好国なのに」


 王子は目を見開き、歯の間から絞り出すように声を上げた。


「それが分かっておるなら不満なぞ顔に出すな!」


 本当にそうだな。

 いや、出したつもりないんだけどさ。

 中身はおっさんの筈なのに俺は未熟だな。


「すみませんでした」

「さっきから言っておるが、まあ良いのだ。お主の感覚が我々のそれとあまりに違うことは既によく知っておる。こういうことにもなると予想は付いておった」

「そうなんですか?」

「ああ。お主、父君と共に菓子を食ったそうではないか」


 え、何でその話? 


「いやだって、誘われたのに断ったら失礼じゃないですか」

「それだ、それ。普通は一国の主から誘われたとて応じられるものか。それが臆することなく執務室に上がり込んで、とい面に腰掛け雑談に及んだのだろ?」


 そうか。領主とはいえ、かつての一国の主となれば天皇みたいなもんか。確かに天皇なら俺もビビって平伏したままだったかも。てか周りのお付きが二人きりになるなんて許さないよな。


「しかも我の女の好みなぞをペラペラと、、、」

「ああ! すいませんでした!」

「まあ良い。それもあって父君もお主を信用に足ると認め、叙勲を許可したのだ。随分と気に入られておったぞ」


 マジか。

 王様のお気にになっちゃったか。


「こうなった以上、組織ぐるみの嫌がらせを受けるかも知れんが気にせんことだ」


 やっぱ我慢すれば良かったかも。

 俺のバカ!


いつもお読みいただきありがとうございます!

感想、応援、誤字報告とても助かります!

私生活の多忙がようやく落ち着いたのでまた少しづつ書き溜めてから放出したいと思います!

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― 新着の感想 ―
隣領との仲がいいのは悪い事じゃないけど、ろくな産業もなくて落ち目の格下領地扱いしてる態度が丸わかりな奴らだし、まともな産業が出来て流行の最先端を走り始めると敵対するか、仲間に入れようと必死になるかの三…
まぁどうせ対立構造になるんだよなぁ隣領土ってのはw 嫌がらせにそなえて派閥作って逆に潰して別の首に据えかえればよかろうなのだ……物理的でもいいぞなのが貴族の怖いところ~
これはやらかしましたね・・・。 王子には感謝ですね。 ちなみに対面をトイ面というのは麻雀用語なので、おじさん読みというわけではないです。
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