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本格的な授業が始まる前にガイダンスがあった。ガイダンスってつまり卒業するのに必要な条件などの説明である。
アカデミーを卒業するのに絶対に合格しなければならない科目は多くある。しかしテストに合格できるのであれば必ずしも授業に出なくてよい場合もあり、その辺はまるで大学のようである。
さて必須科目は、この国の仕組みを学ぶ国科、法律を学ぶ法科、軍の指揮系統や階級について学ぶ軍科があり、他にも基礎魔術や地理、歴史、国語、算学など今までやってきたような科目も必須科目である。
それらの座学と別に何かしらの武術をひとつ以上おさめて初めて卒業となる
理科(科学・化学・物理)がないのが異世界らしい。しかし選択科目で錬金術はあるらしい。ちょっと気になる。
外国語も第二外国語もなし。サナ語の授業があれば楽に単位が取れたんだけどな。
必須科目が全て取得済みとなってから受講できるようになる選択科目は有料になるが興味深いものが多い。さっき言った錬金術もこれに当たる。
変わり種としては士官として海軍に進むための航海学や、土地の管理に必要な測量学、イリスについて深く学ぶ神学なんかがある。
その他、変わった仕組みといえば学内アルバイトがあること。夕食後に希望者は写本をする事で小遣いが稼げるとのこと。
歴史なんかはテストで落とされても写本で歴史書を一冊書き上げれば合格としてもらえるらしい。
有料授業を受けるための資金をこれで稼ぐ平民が多いのだとか。
ガイダンスで配られた資料もそうして作られたもののようだ。
印刷技術がまだだからなあ。
紙の値段なんかも考えると少し恐ろしい。書き損じとか許されないんだろうな。
そんなガイダンス内容だったが、俺たち新入生は半年ほどは座学がほとんどである。その代わり授業は昼までで終わり。午後は自習室や自室を使って各自で予習復習に励む。
しかしそれとは別に、行軍演習と同じように装備を背負ってひたすら歩くことが推奨された。走り込みでも良いらしい。
そうだよな、この世界で戦争となったら戦地までの移動は士官にならない限り徒歩だもんな。
馬車には大量の物資を積んで人間は歩きだよな。一刻も早い列車や航空機の開発を願いたい。
ガイダンスは国歌を指導されて歌って終わり。
歌詞はこんな感じ。
神に与えられし肥沃な大地♪
山脈に守られし神聖な土地♪
奪還せしめた我が誇り♪
先人の流した血と涙♪
愛さずになどいられはしない♪
おお、アーメリア♪
我が誇り高きアーメリア♪
二番がなくて本当に良かった。
ほら、オリンピックとか見てると信じられないくらい長い国があるじゃん?
君が代に慣れた俺たちには長く感じるよな。
ガイダンスでなんだか凄い量の情報を与えられて疲れたから昼飯後は少し寝てから王子と散歩した。
正確には厩舎に自分らの馬の様子を見に行った。
専門の馬子さんは居るし、当番制の朝の仕事で敷き藁や飼い葉の交換は行われるのだが、少し心配ではあるのだ。
知らん人の世話だからな。
しかしフルミネも王子の青馬も元気そうだった。
王子の青馬はいつも通り王子の胸に額を押し付けて甘えている。フルミネといえば全ての脚で同時に少しジャンプする新技を見せてくれた。喜んで跳ねているというよりも威嚇の『やんのかステップ』である可能性が高い。そのうちヤギみたいに頭突きとかしてきそうで怖い。
そういえば王子の馬の名前も入学に合わせて決めた。厩舎に預けるにあたって名前を提出する必要があったのだ。
こんなやりとりだった。
「こやつの名前はどうしたもんかな」
「決めてなかったんですか?」
「決めねばならぬと知らなかったからな」
「なら王子のあだ名のクーゲルでいいんじゃないですかね。黒いし速そうでぴったりですよ」
「こいつが『砲弾』ねえ。こやつは見ての通り優しい子なんだよ」
「確かに。優しくて甘えん坊ですね」
「それに雌だぞ。クーゲルはないわ」
「うーん、じゃ『青』はどうです?」
「何故青なのだ?」
「僕の故郷では黒光りするような黒い馬を青馬って呼ぶんですよ。空の青が毛並みに映る濃紺のイメージですかね」
「ふむ、良いな。ならブルーだな」
「ブルー? 共通語ならブルじゃないんですか」
「イリスの経典で使われる神聖語だとブルーと伸ばすのだ」
「へえ、良いですね。なんかオシャレだ」
ブルーも名付けてもらったのが嬉しいのか、しきりに王子に頬ずりした。
良いなあ。イチャイチャして本当の恋人同士のようだ。
そう思いフルミネを見ればフルミネは拒否するように顔を小刻みに振って唇をタプタプと鳴らした。ヨダレも左右に飛んだ。
「アンタなんかとイチャイチャなんて冗談じゃないわよー!!」
とか言ってるのだろう。
オネエは男に優しいイメージがあるんだけど、きっとタイプじゃないんだな。
いつもお読みいただきありがとうございます!
いやはや世界情勢が凄いことになってますね。
平和を維持する事はいつの時代も難しいのですね。




