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食堂に行くとまだガラガラだった。
上級生たちが校舎のほうから帰ってくるのに時間がかかるのだろう。
ガラガラなのだが俺たちは配膳台から離れた平民ゾーンに行って腰を下ろした。
最初の頃に適当な場所に座ろうとしたら「そこは誰々の席だ」だの「ここは六十三期生の場所だ」だの言われて下級生の平民ゾーンに行くしかなかったのだ。
いかにも学校っぽいゾーニングだよな。
俺はそういうのちょっと苦手。
食べ始めると、昨日仲良くなったディーヌベルクの連中が隣に座った。
「君たちいつもこっちに座るけどいいのか?」
「ああ。何やら俺たちは向こうに座ってはいけないようでな」
「ポリオリ出身の上級生は居ないからね」
「そうか。国で固まったり年度で固まったり確かに面倒だよな」
「あんなに空いてるのに」
「貴族ってなんであんなに偉そうなのかな」
「みんな怖いんだろ。同室のクスカの連中も固まってるし」
「まあ、そういう俺たちも固まってるから人のことは言えないけどね」
こいつらはディーヌベルクの仲良しグループで名をそれぞれリベリオ、リベルト、リディオ、リエトと全員リ行でまとめられている。
十歳の成人式の名付けを学舎の修道士に頼んだらこうなったらしい。これは修道士の手抜きかというとそうでもなくて、同年代の仲良しが見分けやすくなってとても便利なのだそうだ。親の世代もそうして名付けられていて一人の名前が判れば仲間が分かるので必要な伝達が伝えやすいのそうな。ちなみに成人するまでの名前は親の名前のジュニアに統一するから誰の子か直ぐに分かるのだそうだ。確かに、あんなゴチャついた街だとそういう仕組みは便利そうだよな。
俺の村なんか産まれた順に番号振ってたくらいだから、そっちの方が手抜きかも知れん。名前に対する執着が日本とは違うのだろう。
「そんな事より、ディーヌベルクの子供たちは幼い頃からダンジョンに潜って仕事をしていると聞いているのだが、そうなのか?」
「そうだね、浅い層しか入れてくれないけどダンジョン・ワームの飼育とか子供の仕事が多いんだ」
「ダンジョン・ワーム?」
それって超危険なモンスターじゃないの?
「安全なのか?」
「もちろん。生ゴミやなんかを食べて増えるからゴミ捨てついでに捕まえて帰るんだ。それがニワトリやブタの餌になるんだよ」
「へー、ガチョウにも?」
「ガチョウは野菜ばっかり食べるな。だからガチョウのほうが楽に飼えるんだ」
「へー」
野菜が主食だからあんなに味に癖がなくて美味しかったのか。
知らないことを教わるのは面白いな。
ガチョウの味を思い出したら余計に腹が減ってきた。
全然食べ足りないけど、ひとまず食い終えたので席を立つと、ちょうど食堂に入ってきた団体と鉢合わせのようになった。
「なんだ失礼だな。あれ、お主クラウディオではないか!」
「おお、誰かと思えばマルキオッレ殿」
王子の知り合いらしき男は俺たちの座っていた場所と隣に座っていた連中をチラリと見て眉を顰めた。
「ポリオリ王子たる君が何故こんな場所で食事をしているんだ。隣国のよしみだ。こちらに来たまえ」
隣国ってことはカイエンかバルベリーニの人か。でもこれは多分バルベリーニだな。ヴィート氏と雰囲気が似ている。
「お誘いありがとうございます。今日はもう食べ終わりましたので次があれば是非そうさせてください」
「うむ、そうしたまえ。付き合う人間でその人の格が決まるのだ。覚えておきたまえよ?」
「ご助言ありがとうございます」
俺たちは半歩引き、軽く頭を下げて一行を見送った。マルキオッレ氏は黄色いチュニックを着ていたので二年年長か。歳は知らないけどバルベリーニのマントは黄色だったから黄色い制服に合わせて入学したのかも知れないな。プライドの塊やん。
一行の中には俺たちと同じ赤白の制服もいたからバルベリーニの貴族か近隣国の貴族も入学してるのだな。
南部連合ってことに違いない。
「ちと面倒だな」
「王子もああいう方は苦手ですか?」
「いやまあ、それもあるが。一緒に居た連中がな」
「南部連合ですか」
「いやいや、あれは北部連合と言った方が正確だな」
「え」
そうか、そういえばバルベリーニは北部の援助で発展したんだっけ?
北部連合(仮)に与してしまうと王子の母親のウルズラ様に顔が立たなくなるのか。確かに面倒くさいな。
今日は俺たち新入生は授業が休みってことでのんびりした気分だったのだが早速、重苦しい気持ちになってしまった。
なんならガチョウの美味しさについてずっと考えていたかったのにな。
毎度お越しいただきありがとうございます!
休むかもと予告してましたが、いい具合に不眠の波が来まして休まずに済みました!




