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夜中過ぎと思われる休憩中に後ろから声が聞こえた。
「もう無理だ。脱落しよう」
驚いてつい振り返った。最初の休憩の時に声をかけてきた彼の声だったからだ。長い休憩の後もしっかり歩けていると思ったらのだけど、どうしたのか。
「僕ももう無理だ。棄権しよう」
さらに追随するのが居る。ほっとけば良いようなもんだが、ここまで来たのだ。仲良くゴールしたいじゃないか。声をかける。
「どうした、あと少しだぞ?」
「僕たち靴ずれが酷いんだ。歩く度に擦れてもう血が止まらない」
そうか。そもそも貧しい平民は靴を履いたことがないもんな。俺もそうだったから分かる。
「どこだ?」
少年は足を押さえていたタオルを離して見せてくれた。踵の上部だ。完全にズル剥けている。
「靴を脱げば歩けないか?」
「そりゃ脱ぎたいよ、でも、、、」
怒られるか退学になるかと思ってるのか。通ってた塾が厳しかったのかしら。俺はとりあえず詠唱をして治癒魔術を掛ける。
「うわ、凄いな。痛みが和らいだ。これなら続けられそうだよ」
「いやいや、もう靴はやめとけ。靴ずれと甘くみてると患部が膿んで足を切り落とすような病気になる事もあるんだ」
知らないけど適当な事を言った。あながち嘘でもないように思う。
そこに教官の馬が通り掛かった。
「何をしている、さっさと出発せんか!」
俺が言い返す前に、それまで傍観していた王子が立ち上がって言った。
「靴を脱いで行軍を続ける許可を頂けますか。仲間の靴ずれが酷いのです」
教官は座り込む少年たちをチラリと見た。
「許可する。但しこの辺りの石は鋭いから踏み抜いたらそこまでだぞ」
「ありがとうございます!」
少年たちは慌てて背嚢を降ろし、靴を詰め込んで立ち上がった。おいおい皆靴ずれだったのかよ。よく我慢できたな。
前と少し間が開いてしまったけど行軍再開だ。
「君たちありがとうな。僕たちはディーヌベルクからなんだ」
「おお、ディーヌベルクか。良い所じゃないか。ガチョウが美味かった」
少年たちの顔がパッと明るくなった。どんな所であっても故郷が褒められると嬉しいよな。
それ以降は休憩の度に少しずつ情報交換をした。彼らはギルドの塾ではなくイリスの学舎出身なのだそうだ。そこでは修道士が読み書き魔術を教えてくれるのだそうだがとても厳しく、間違えたり口ごたえをしたりすると乗馬用の鞭で打たれるのだそうだ。最悪だな。
「仕方ないんだ。教材を盗み出してマーケットで売りに出すような連中ばかりだったから」
体罰教師に学級崩壊か。良いドラマの舞台になりそうだ。
「てゆうか君たち凄い噂になってたぞ。追い剥ぎに来た盗賊を返り討ちにしてそこら中を血まみれにしたそうじゃないか」
思わず笑ってしまう。きっと盗賊本人ではなくその場を発見した近所の村人が吹聴したのだろう。
「気絶させてイノシシの血を頭からかけておいただけだよ。見た目は凄いけど怪我もしてないよ」
「そうなのか?」
「寝込みを襲いに来ると分かっていたから罠を張って待ち伏せしたんだよ」
「修道女の宿屋でも大暴れしたんだろ?」
「俺たちは巻き込まれただけだって。一緒にいた冒険者が、仕事をちゃんとしなかった他の冒険者にお灸を据えただけさ」
少年たちは信じられないという目で俺たちを見た。噂を流す連中は話を面白くする為にあることないことてんこ盛りにするからなあ。
「お、もう時間のようだな。行こう」
呻き声を上げないように立ち上がる。もう少しで終わりのはずだ。東の空が微かに白んで来ている。実は、俺も王子ももう脚がガクガクなのだがディーヌベルクの平民にだらしないところを見せる訳にはいかないので必死に頑張る。俺たち貴族はプライドだけは高いのだ。
いつもお読みいただきありがとうございます!
少し実生活が忙しくなっており、またお休みをいただくかも知れませんが、どうか見捨てずお付き合いいただければと思います、、、。




