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行軍を続けながら考える。
新入生は全部で何人居るんだろうか?
さっき入学式で並んでいたのはどれくらいだったろう。
凄く大雑把だけど、横一列が五十人くらいだったろうか。
それが横に広いブロックになってたように思う。
男が十〜十五列として女子はもっと少なそうだから半分だったら大体千人くらいか。
年間千人の新兵だけで軍って維持運用ってできるものなんだろうか。
全然想像がつかない。
でも前世の大国の戦争での戦死者が何十万人みたいな記事を見たよな。
それと比べると十年ぶんの新兵と考えてもたった一万人。
確か、軍の任期は四年単位とか聞いた気がするから十年分全員残ってる筈がないよな。
四年ごとに半分居なくなるならもっと全然少ないよな。
でもあれか、領軍を束ねるくらいの戦力があれば問題ないのか。
各領地の戦力ってどれくらいなんだろう。
ひとつのドームに住んでた人間が数千って話だったから男が全員戦闘員なら半分の千人そこそこってとこか。
今はもっと人が増えてるだろうけど、まあ割とこぢんまりしてるんだな。
ポリオリはどうだったっけ?
落ち葉はらいの時の感じだと、各王子が率いる小隊と騎兵団長の小隊を合わせた四小隊で大体二百人か。
領主氏が率いるのがどれくらい居るのか分からないけど倍の人数として合わせて六百人。
城を守る警備兵を入れてもやはり千人には満たないのか。ポリオリは小国だしな。
そう考えると各領地を国って呼んでるけどやっぱ地方の諸侯って感じだな。
とはいえ幾つかの領地が結束すれば国家転覆は無理な話じゃなさそうな気がする。
もちろん王都側つまり国軍側に付く領地もあるだろうから丁度良く拮抗してる感じなのかも知れないけど。
ふむふむふむ。
おっと、頭の中で数字をこねくり回していたら前の貴族とぶつかってしまった。
「ああ、失礼しました」
「、、、前見てないのかよ、、、」
俺は咄嗟に謝ったが帰ってきたのは文句ったらしい独り言だった。
そもそもぶつかったのは当の貴族が立ち止まって水を飲んだからなのに。
まったく、歩きながら飲めよ。
そもそもコイツらは水を飲み過ぎだ。
ひょっとしたら水袋を軽くしたくてガブ飲みしてるのかも知れないけど。
まあ、その気持ちは分かる。
俺も重くて水を捨てた事がある。
あれはカイエンだったか。
階段が延々と続くカルデラ超えの時だった気がする。
どっこいコイツらと来たら歩きやすい平地でまだ一時間半しか経っていないというのに先が心配になるな。
するとそこに馬で教官が通りかかった。
教官はずっとひっきりなしに前に行ったり戻って来たりしながら我々の様子を見ているのだ。
前の貴族が教官を呼び止めた。
「教官殿、水が無くなりました!」
「ふむ、そうか。足しても良いぞ?」
「、、、と言いますと?」
「ウォーターボールくらい使えるだろう? 水袋の口に向かって撃てばよい」
貴族は真っ直ぐ前方にしかウォーターボールが射出できないらしく水袋を持ち上げてみたり色々やっていたけど水は入れられなかった。
しかもそんな事をやっているせいで前と距離が開いて来つつある。
「隊列は崩すな。上に撃ち上げて受け止めてもよいぞ」
「上に、、、?」
空を見上げながらなんとか詠唱をしてウォーターボールを打ち上げたが、軌道はいささか前方へ逸れてしまった。貴族は慌てて追いかけたが木の根につまづいて転けてしまった。
しかもウォーターボールは木の梢に当たって砕けてしまい、ちょうど下にいた隊列に雨のように降り注いだ。
頭から水を被った連中は驚いたように空を見上げたが、原因が分からず首を傾げていた。
「お主らは疲れが酷いようだな。そこの木陰で休んでヨシ!」
「いえ、我々は、、、」
「無理はしないでよろしい。休んでおれ」
「では、、、」
貴族ふたりは隊列から離れ、木陰に腰を下ろした。暑さがこたえるのか顔を赤くしてる。
少し休めば隊列に復帰できるかしら。
といっても大して休めるとは思えない。後ろからは女子も来ているのだ。
脱落して木陰で休んでいるところを女子に見られて彼らのプライドが保てるとは思えない。
男の子は見栄っ張りなのだ。
女子の接近に早めに気づくといいのだけど。
貴族ふたりが居なくなったので少しだけペースを上げて空いてしまった前との距離を詰めていく。
後ろが付いて来れてるか振り返って確認するとちゃんと付いて来ていた。しかし後方の連中も顔を赤くしてるのが何人か目に入ったので少々心配だ。
いや、そもそも俺も気をつけないと。他人を心配してる場合じゃないぞ。
次の休憩でまた水を飲む。水袋は身体に密着しているし気温も高い。日差しも当たっているので口に含むと少し温かく感じる。
ちょっと懐かしい感覚だ。
王子はと目をやるとまだ大丈夫そうだ。
「王子はまだまだ行けそうですね」
「ああ、ギャンべゾンを着込んで行う夏の剣術と比べれば楽なもんだ」
そうか、フルアーマーの時は下に厚手のクッションのような服を着こむからめっちゃ暑いのだった。
この世界の戦争は冬場に行われると前に聞いたが、夏用の稽古もちゃんとやるのがえらいよな。俺はフルアーマーの稽古には出なかったからラッキーと思っていたが、きっとそういうところで差が出るのだな。脱落した貴族もそういう修行をサボったのだろう。
行軍が再開されると林が途切れ、見慣れた石畳を渡った。なるほど、ここは王都の北門から出た辺りなのだな。この街道をもう少し北に向かえば川があり少し壊れた橋がある筈だ。俺たちは王都の外周をぐるりと歩かされているらしい。
一周するのにどれくらいかかるんだろう?
スタート地点は東門の外を少し北に行った辺りだから、単純に1/4の道程を二時間で終えたと考えるなら八時間か。もしかして二周させられるのだろうか。途中で長い休憩が入って一周で終わってくれると良いんだけど。
そして俺は気付いた。西門辺りは林はなかった。今がちょうど昼頃なら西門に着く頃は昼の二時か。一番暑い時に日差しを遮る木のない場所を歩くのは結構辛そう。
なんとか脱落せずに耐え忍ばねば。
十代の女の子に馬鹿にされて笑われたら立ち直れない自信がある。
ぷー、クスクス。見てよ、まただらしない男子が脱落してるわ。
貴族の男の子って体力ないのねー。
馬に乗ってばかりで歩いたことがないんじゃない?
ありえなーい、カッコ悪ーい。
マジありえん。俺は絶対に脱落しないぞ!
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