262
ジジイふたりはテキパキと朝食を用意してくれた。
甘いミルクティーと雑穀入りの硬いパン、スライスした塩漬けの豚肉を焼いたものとスモモ。
ふたりはパンをちぎってお茶に浸しながら食べている。
真似してみたらなるほど美味い。
この世界の雑穀パンはやけに酸味があるので甘いお茶に浸すとそれが中和されて食べやすくなる。
お行儀は悪いのかも知れないが美味さには勝てない。
「あの、今更ですけどおふたりのお名前を聞いてもいいですか?」
「ゲオルグじゃ」
「ワシもゲオルグじゃ」
「えっと、ご親族で?」
「ゲオルグは家名じゃないわい。ワシらエルフは名前のバリエーションが少ないんじゃ」
じゃあフルネームで教えてくれよ。
「でもってエルフは家名は普段使わないんじゃ」
「敢えて言うならサカルトヴェロのゲオルグじゃな」
「なるほど、ではゲオルグさんは?」
「ワシもサカルトヴェロのゲオルグじゃ」
うん、何も解決しない。
でもそういう文化なのなら文句を言うのは失礼だよな。
郷にいれば郷に従うぜ。
「ゲオルグさんたちに色々聞きたいんですけど良いですかね?」
「うむ」
「この辺りは昔で言うところのどの辺かご存知ですか?」
「貴様は何処だと思う?」
「そうじゃ当ててみよ」
「ヨーロッパの何処かですよね?」
「そんなん誰でもわかるじゃろ」
「やはり転生者もこんなもんじゃな」
ふたりは嬉しそうに笑った。
「いや難しいですって。人の名前はイタリアとかスペインとかそんな感じですけどアルファベットも違うし土地の名前も全然違うし、、、」
「お、当たりを引いたぞ」
「四分の一くらいな」
え、、、
「じゃあスイス、イタリア、ドイツ、フランスが接する辺りですか?」
「そうじゃ。後から付けられた地名も多いのだが幾つかは伝統的な地名が残っておって、その位置関係を照らし合わせるとその辺だろうと導き出される」
「といっても予想に過ぎんがの。引越した先に故郷の名前を付けておるパターンもあるやも知れん」
うーん、じゃあ長官と漂流した海はアドリア海だった可能性が高いってこと?
イタリアからクロアチアとかギリシャとかって見えないくらい離れてるの?
いやいや、じゃあなんでイタリア南部にアジア系のサナ人が放牧なんてしてるんだよ。
おかしいだろ絶対。
「納得がいかぬか?」
「おそらく地形も海岸線も貴様の知ってる世界とはかなり変化しておるぞ?」
あ、そっか。
地殻変動でめちゃくちゃなんだっけ?
いや、それにしたって、、、
「混乱しとる、混乱しとる!」
「コイツ可愛いの!」
ふたりのゲオルグはきゃっきゃと笑った。
「ちょっと、もっと色々聞きたいんですが、、、」
「良かろう」
「ワシらも色々知りたいでの」
その後、地図を描いたりメモを取ったりしながら質問を続け、昼食を挟んでもう外が暗くなってきた。
「、、、え、じゃあ魔術ってナノ・テクノロジーが起こしてるってことですか?」
「その技術のことは知らんがまあきっとそうなんじゃろ」
「空気と同じくらいの質量の極小の生命体の集まりってのは確かじゃの」
いやマジ今っていつなの?
それに人の生命力・精神力をエネルギーとして使うって意味が分かんねえ。
その理屈を飲んだとしても魔術が起こす現象が物理学的に飲み込めない。
だって質量が保存されてないじゃんか。
とかいってはみたが俺は物理学は苦手で、古典的な熱力学くらいしか理解が及ばないのだけど。
それ以降の電磁気学とか原子核物理学とか充分昔の物理学もさっぱりだ。
量子力学なんか何度解説動画を見ても理解できない。
そもそも熱って電磁気なんだっけ?
ええと、、、
この世にある力は全て、重力、電磁気力、弱い核力、強い核力、の四つに分類できるのだっけ?
そこに生命力や精神力みたいなヒトの内的エネルギー・フローがどうやって関わるの?
そもそも「重力」が何か俺の生きた時代には解明されていないのではなかったか?
無理無理無理。
俺には分からん。
アインシュタイン博士かホーキンス博士でないと無理だろ。
しかも仮に奴らを召喚できたとして、数式で説明してくれても俺にはさっぱり理解できない自信がある。
俺は無学なのだ。
「ひとまず晩飯にするかの」
「そうじゃの。貴様も疲れたじゃろ」
「そうですね助かります、、、」
晩飯は朝昼に食べたパンの残りと豚肉の残り。
マグカップには昨日味見した甘い酒が注がれた。
もっと色々聞きたかった気もするが、酒を飲んだゲオルグふたりはすぐ寝てしまうだろう。
実際のところ俺も頭を使いすぎてパンクしそうだから飯を食って寝てしまう方が良いかも知れないな。
と、思ったら甘かった。
「ワシらも幾つかお主の時代について聞いてもええかの?」
「そうじゃ、ワシらばかりに答えさせるのは公平でないからの」
「ええ、僕の知る範囲での事なら、、、」
そこからが長かった。
宗教が力を失った理由。
あらゆる世論が分断した理由。
超大国が戦争を始めた理由。
資本主義が崩壊した理由。
(え、資本主義って崩壊したの?)
為替や金利、中央銀行の役割。
全て必死になって考えて答えたが、合ってるかどうか俺には分からない。
まあしかし、やり直し中の世界の今後、直面するであろう問題を先に洗い出したいのだろうということは分かった。
この世界の時代感(つまり中世くらい)から近代までが五〜六百年とするならばかなり急激な変化だが、純血のエルフならばひと世代なのだからひょっとしたら彼らにはあっという間に感じるのかも知れない。
だからといって、何でこいつらこうした議論をしていると眠くならないんだよ。
頼む、もう寝かしてくれ!
いつもお読みいただきありがとうございます!
誤字報告もありがとうございます!
感想もありがたく読ませていただいてます!




