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ランキング記念の番外編です
いつもより長めです
◇◇ イオタ視点◇◇
オミくんが居なくなった。
偉い人が来る式典の直前に突然オミくんがお姉ちゃんにプロポーズしたのにはびっくりした。
お姉ちゃんが村長のところのジッタくんに気に入られて困っていることを相談したのは私だ。
お姉ちゃんが夜に寝床の中で肩を震わせていたのに気づいたのは今年の秋くらいだったと思う。
私とお母さんに背を向けて、息を殺して肩を震わせているお姉ちゃんを見て私は驚いた。
お姉ちゃんは泣いたりしないとずっと思っていたからだ。
こっそりお母さんにそう言った時、お母さんは私を抱きしめて頭を撫でてくれた。
私は小さくて覚えてないけど、お父さんが海から帰って来なかった日にはずいぶん泣いてお母さんを困らせたんだって。
そんなお姉ちゃんにお母さんは「多分もうお父さんは帰って来ない。イオタはまだちっちゃくてその事が分からないかも知れないから、悲しくならないようにあなたが守ってあげて」と、そう言ったらしい。
それからお姉ちゃんは泣かない子になったんだって。
お父さんの事を思い出して悲しくなりそうになるとそれまでやってたことと別のことを始めたり、それまで話してた事と別のことを話し出したりしてお姉ちゃんは我慢してるんだってお母さんは教えてくれた。
他の家の子に「親なし」と揶揄われると怒って喧嘩してずっと私の事を守ってくれてたんだって。
だからあなたはイータがあなたを守ってくれてたように、これからはあなたがイータを守ってあげて、とお母さんに頼まれた。
私はお父さんがいない事を考えても悲しくならないけど、イータは悲しくなるんだな、とその時初めて知ったの。
だから夜に泣いてるのは夢の中でお父さんを思い出して泣いてるのかと思ってた。
でもそれが違うって分かったの。
◇
前からお姉ちゃんは夜に海を見るのが好きだった。
私は夜の海が嫌いだった。
夜の海は怪物が出るってみんなが言ってから。
なのにお姉ちゃんは波の音聞いてると心が落ち着くからって、よく夜に海を見に行ってた。
お母さんもそれを止めなかった。
でもお姉ちゃんが泣くのはいつも必ず夜の海を見に行った後だと気づいたの。
だからお姉ちゃんは夜の海を見てお父さんを思い出して泣いてるんだと思った。
私たちに知られないように泣いてるんだって思った。
だから私が慰めたりするのは間違いかなと思って気づかないフリをしてたの。
◇
それから暫くして、お姉ちゃんが夜に海に行く時は誰かが迎えに来てるのに気づいたの。
夜に外でカチカチカチって石と石をぶつける音がすると決まって少し後にお姉ちゃんが海を見に行くの。
こっそり覗いたらジッタくんだった。
ふたりで磯の方に歩いて行ったの。
これはお母さんに言うかすごく悩んだ。
お母さんは村の誰かを怒らせたり困らせたりしちゃ駄目ってよく言ってたし、村長のジルさんが庇ってくれたからウチはお父さんが居ないのに村に住めるんだって言ってた。
ジッタくんがお姉ちゃんをいじめてるって言ったらジルさんが困るかもと思うとやっぱり言えなかった。
でも泣いてるお姉ちゃんをほっとけなくてオミくんに相談したの。
オミくんはちょっと変わった子だった。
ギルドの塾に通う子なんて他に居なかったから。
でも高鬼とか手繋ぎ鬼とか影踏みとか面白い遊びをどんどん考え出して凄いと思った。
でも、私たちに遊びを教えると自分はギルドに行ってしまい、私たちはなんだか取り残された気がして少し寂しかった。
何人かの男の子はその事を怒っていた。
自分たちよりギルド員なんかを大事にしてるって。
◇
オミくんがギルドでずっと同じ魔術の練習をしてて、ウチはギルドに近いからその声が聞こえてて、お姉ちゃんがバカにして真似したら手から水が凄い勢いで出て、お母さんがびっくりしてギルドに相談に行った。
そしたら私たちも塾に通った方が良いって言われて通うことになった。
あたしはオミくんが先生になってくれたのは嬉しかった。
だってギルドの人たちはなんだか怖かったから。
でもお姉ちゃんは年下に教わるのが嫌だったみたいで怒ってた。
◇
気付けばオミくんはお魚を大人みたいに獲るようになって、いつのまにか大人たちの仲間入りをしてた。
休憩も食事も大人たちと一緒でジルさんとも仲良くなってた。
オミくんは塾でも凄かった。
私たちの覚えが悪くても、お姉ちゃんが嫌な事を言っても一度も怒らなかった。
私たちがオミくんより先に魔術を成功させた時も悔しがったりしないで喜んでくれて褒めてくれた。
同い年なのに変かもしれないけどお父さんが居たらこんな人なのかなって少し思った。
だからお姉ちゃんのことを相談したの。
◇
それから少しして、村に偉い人が来て式典をする事が決まった。
その頃からオミくんは私たちに対してちょっとよそよそしくなってた。
私が変な相談をしたから面倒になったのかも、と思って少し悲しくなった。
そしたら式典の日、急にオミくんがお姉ちゃんにプロポーズしてびっくりした。
びっくりしたけどすぐに、お姉ちゃんを守るためなんだって分かって嬉しくなった。
そしたらお姉ちゃんが「いいわよ」って答えて、そしたらなんだか胸が苦しくなった。
お姉ちゃんを守ってくれる人ができて嬉しかったんだけど、それがオミくんなのが何故だか嫌だったの。
式典のあと、オミくんは偉い人に魔術を見てもらうとかで船に向かった。
私たちはベンチや椅子を片付けたりしてて、ギルドの人たちも軍から頂いた荷物の確認とかしてて、オミくんが居なくなった事に気づかなかったの。
オミくんのお父さんが「あれ、オミは?」って言って、その時には船はもう見えなくなってた。
その夜はギルドに大人たちが集まってずっと話をしてた。
そのあいだ、外では石を打ち合わせるカチカチいう音がずっと鳴ってた。
でもお姉ちゃんは出て行かなかった。
オミくんがいないのにジッタくんが来ちゃったら乱暴されちゃうかもと思ったら怖くなった。
ジルさんでもオミくんのお父さんでも良いから来てくれないかなと思って、私はギルドに助けを呼びに家を出た。
そしたらジッタくんが家の前に立ってて、びっくりしたんだけどよく見たら泣いてた。
ジッタくんはお姉ちゃんに怒りに来たのかと思ったんだけどジッタくんは泣いてたの。
お母さんもびっくりして、ジルさんを呼びに行って、お姉ちゃんもギルドに呼ばれて、その夜は遅くまでギルドで話し合いをしてた。
お母さんに、私たちは先に寝ましょうと言われて寝床に入ったけど、私はお姉ちゃんが帰ってくるまでずっと眠れなかった。
凄く遅くなってお姉ちゃんは帰ってきた。
お母さんはもう寝てたから少しお姉ちゃんと話をした。
お姉ちゃんは簡単に「ジッタと結婚する事にしたわ」って言ってびっくりした。
「え、だってお姉ちゃんジッタくんイヤなんじゃないの?」
「なんでそう思うの? あたしジッタが好きよ」
「え、じゃあなんでオミくんのプロポーズを受けたの?」
「だってジッタはなかなかプロポーズして来なかったから、別にしたくないのかなって。そこのところ、オミはちょっと見直したわね。親も説得するってキッパリ言ってて格好良かったわ」
私は声が出なかった。
お姉ちゃんは続けた。
「でもね、あれ嘘なんだって。ジルとオミが相談して、ジッタに気持ちを決めさせる為のお芝居だったんだって」
え、でも今日のオミくんはいつもと違って真剣な感じだったと思うんだけど、、、
「ジッタは泣いててだらしなかったけど、泣くほどあたしのことが好きなら、泣くくらい許してあげなきゃね」
私はやっと声を絞り出した。
「じゃあ、オミくんは、、、」
「オミのお父さんが言ってたけど、オミはこの村で暮らすより外の世界を色々見てきた方が良いかも知れないって。ほら、変な遊びを考えたり自分から塾に通い出したり、ちょっとオミって変わってるじゃない?」
どうしてこうなったのかは分からないけど、私がオミくんにあんな相談しなければこんな事にはならなかったのに、と思った。
◇
次の日あたしはオミくんのお母さんに謝った。
全て私の勘違いでオミくんを巻き込んでしまったと。
オミくんが居なくなって泣き腫らしたであろうお母さんの顔を見たら我慢できなくて泣きながら謝ってしまった。
オミくんのお母さんは優しかった。
あなたやイータの事がなかったとしても、きっとオミはあの船に乗る事になってたと思うと言ってくれた。
よく分からないけど、オミくんのお母さんはオミくんがある日突然変わってしまったって思ってたんだって。
でもそれは嫌な感じじゃなくって神様に何か凄い力を与えられた感じじゃないかって思ってたんだって。
だからいつかきっとこんな風にいなくなるんじゃないかって思ってたんだって。
だからオミのことは気にせず今まで通りに仲良くしてねって、私の手を取って言ってくれた。
お姉ちゃんは塾をやめた。
お嫁さんになるんだからってお母さんとずっと縫い物をしている。
こないだ軍から綺麗な布を沢山もらったからそれで花嫁衣装を作るのだそうだ。
知らなかったんだけどお母さんは縫い物が得意なのだそうで家に村の女の子を集めて縫い物を教え出した。
針も布も沢山もらったからみんなのぶんがあるんだって。
◇
春になる頃にオミくんを連れ去った船が村に戻ってきた。
でもオミくんは乗っていなかった。
ポリオリというところに向かったのだそうだ。
船の船長ってひとがオミくんの家まで手紙を持ってきた。
バルゲリス長官ってひとからの手紙で、オミくんは凄い大きな力を持っていて、それはこの国の役に立つ力だから自分に預からせて欲しいって書いてあったんだって。
それと沢山のお金もくれたって。
オミくんのご両親はお金なんて持ってても仕方ないから村のために使ってくれってギルドに預けて、大人たちみんなで何に使うか相談している。
◇
私は今日もギルドに通っている。
もっとちゃんと本が読めるように、もっとちゃんと魔術が使えるように、オミくんに手紙が書けるように塾通いを続けるつもりだ。
ギルド員のトレスさんがもうすぐ任期が終わるというので手紙をお願いすることになっている。
王都にはあの船の船長やバルゲリス長官の故郷の人たちが集まるサロンみたいのがあるんだって。
トレスさんはそこで働くことが決まってるからきっとオミくんに手紙を届けられると内緒で教えてくれた。
私は手紙を頼むお金なんてないですって言ったんだけどトレスさんは、アイツには稼がせてもらったから良いんだって言って片目を瞑って紙も用意してくれた。
だから私は今日もギルドに通う。
オミくんが国のために働くんだったら私もその手伝いがしたい。
オミくんほどは凄い力は無いと思うけど読み書きと魔術ができたら何かオミくんの役には立つと思う。
みんなはオミくんは変な子だとか凄い子だとか勝手なことを言ってるけど私は知ってる。
オミくんは村の子たちから仲間はずれにされても平気そうに見えてたけど、実は傷ついてたのを知ってる。
魔術が上手く使えないことに悩んで、でもずっと練習してたことを知ってる。
お姉ちゃんのことを相談したらずっとそのことを考えてくれてたのを知ってる。
私はお姉ちゃんにずっと守られて生きてきたけれども、もう違う。
私は変わるの。
オミくんを守れるくらい強くなるの。
誤字報告ありがとうございます!
感想もありがたく読ませていただいてます!
ランキング入りボーナス期は既に落ち着いてきていますので
次回からはまた一歩一歩進めて参ります!




